第9話

 よくわからない繋がりの人がいる。出会いは分かっているが、何故長持ちしているのか不思議な繋がりだ。案外、結構な人がそう言った繋がりを持っているかも知れない。

 僕が仕事場と家族以外で唯一話すことのある女性が、僕にとってのそれだ。大学の授業で隣り合ったことがきっかけで、それから校舎で会うたびに少し話をする程度。グループワークの際に連絡先を交換したので、卒業以降もたまに電話が来たり、年一くらいで予定を合わせて会う程度。

 おそらく、お互いに遠くの友人程度という付き合いだろう。

 ただ、住む世界が違うし趣味嗜好もまるで違う。なのに、と言うべきか、だからこそ、と言うべきか。なんだかよくわからない友人となったわけだ。

 こんな事を書き残すのは、二ヶ月ぶりくらいに電話があったからだ。土曜日の夜、楽しみにしていた高いカップ麺を啜り始めたところで電話が鳴った。開口一番に「今何してるの?」ときた。

 カップ麺を食べてる。邪魔しちゃった? 値段の割にそんなにだから大丈夫。来週S県のどこそこ行くけど、行った事ある? 出来た当時行ったよ。どうだった? 人が多くてゆっくり見れたもんじゃなかった、今でも駐車場は激混みらしい。そうなんだ、そういえばゼミで一緒だったN子、また結婚したらしいよ。N子って、結婚2回目? 3回目、懲りないね。相手を見つけられるだけすごいよ。まー、そうかもね。食べてるのM社の新しいカップ麺、ハズレだから買わない方がいい。気になってたやつだ、じゃあ今回はパスしよ。

 こんな取り止めもなく、話題をつなげるでもなく、お互いに言いたい事を言う。僕も彼女も気に留めない。

「夕方から仕事だから一眠りするよ。報告をすることがあったらまた電話するね」

 結びの言葉に僕は、お疲れ様、いい夢を、と返して電話を切った。

 話題はとっ散らかって取り止めもなく、そのとき思った事を言い合う。そんなことが出来るのは、彼女だけだろう。

 会話中にほぼ食べ終わったカップ麺の、ぬるくなったスープを一口飲む。やはり、あまり美味くない。398円もしたのに。

 言いようのない虚しさを感じ、そっとシンクに残りを捨てた。

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