3:クエスト

 少しして、我に戻ったアイネ。


「いや……ですがメル様。……クエストを受けたわけですから、その……言いたくはないのですが……ちゃんとした方が良いと思います……よ?」


 アイネは真面目だ。そして、私に思いっきり気を使っている。


 通常、無等級の聖女はギルドカードを発行して貰えず、クエストに参加する事はできない。

 クエストは薬草の採取からモンスターの討伐まで多岐にわたる。

 聖女の等級は六等級から始まり、基本的には援護に徹するのが聖女。

 しかし、薬草採取でさえ、モンスターが乱入すれば戦うか逃げるの選択をしなければならない。

 だが、彼女は無等級から四級聖女に飛び級した聖女。戦闘経験は皆無と見た方がいいだろう。


 だからこそ、今持ってる錫杖しゃくじょうでは彼女を守るだけの『殺傷能力』が足りないのだ。


「そうそう! アイネの言う通り、ちゃんとする為に帰る。それなら良いでしょ?」


 彼女の目線に合わせてしゃがみ、聞いた。


「……でしたら。ちなみに、ご実家はどちらにあるのですか? この街じゃないですよね?」


 少し恥ずかしそうにして、アイネがさらに聞いてきた。

 まあ、近いし。なんとかなるだろう。


「あ~~、あの山の向こう! 近いでしょ?」


 私は少し遠くに見える、雪化粧した山脈を指差して答えた。

 だが、アイネの反応は聞こえず、彼女を見るとメデューサに石化されたように固まっていた。


 よく考えれば聖女二人のパーティー、雲行きが怪しい…………だけど。


「まっ。いいか、アイネ行くよ!」


 更迭処分の一件で、後先考えるのが嫌になっていた。

 ほんと、あの一年は何だったんだか……。神が許しても、私は許さない。

 そのためには――――。


「――――ハッ。ちょっと待てくださいよ~」


 私たちは街を出た。クエストを口実に。


 *


「じいちゃ――――ん、帰ったよ~~」

 …………。

「返事が、ありませんね」


 いつもなら稽古しているはずの、実家の槍術道場は誰もいなかった。

 床は綺麗に掃除されているが、懐かしい切り傷がいたるところに残っている。

 壁の名札には私とじいちゃんの札しか残っていなかった。

 そりゃあそうだ、練習用の槍を使わない道場なんて……時代錯誤もいいところ。


「メル様……師範代なのですか?」

「ああ、それね……」


 アイネへ返事しようとしたときだった。


「女神様――――ッ! お迎えに来られたのですね!!」


 じいちゃんの懐かしい声が聞こえた。

 そう言われるのもしょうがない、今の私はなんたって聖女――ッ!

 見間違えてもしょうがない。


 …………はずだった。


 じいちゃんはアイネの前に駆けていき――。「ありがたや、ありがたや」と手を合わせた。

 そして、私には……。


「なんだメルか、さっさと女神様に茶を出さんか」


 相変わらず雑な扱いをするのであった。

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錫杖をぶんまわす更迭聖女はお嫌いですか? 大石とんぼ @syounan44

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