2:前衛の聖女

「だ――か――らッ、何度言えばわかるの?! 私は前衛で闘うから、前衛募集中の冒険者をあてがってってば!」

「――ヒィッ!! で、ですがその……封印の腕輪をされた聖女様には、『荷物持ち』をお勧めするよう上からの指示が……」


 冒険者を管理するギルドと、聖女を管理する聖堂協会に癒着があることは、噂に聞いたことがあったが……どうしたものか。

 冒険者ギルドに来たのはいいものの、受付けが進まなければどうしようもない。

 だからといって、教会に戻ったところで追い返されるだけ……。ここは実力行使するしかないだろう。

 受付けの机を叩こうとしたとき――――。


「あの――――ッ! 私が! 私の前衛にでしたら、問題ないですよね!?」


 隣に現れて言ったのは、見覚えのある小さな聖女だった。

 大聖堂での辞令式で、私の前に呼ばれてた子。名前は……アイネ・クライス。


「……いや、ですが。――――そうですッ、等級! 等級の無い聖女様にはギルドカードを発行できません」

 ギルドの受付け嬢はどうしても、私を荷物持ちにしたいようだ……だが。


「へぇ~~~。今の言葉、しっかり聞いたからな?! 等級があれば、彼女の前衛になっても良いってことだよな?」

「もちろんです!」


 私はあの日のことを毎日のように思い出す。

 ハメられて更迭処分になった事――。錫杖で悪を裁く手の感触と、輪が触れ合うあの音色――。

 そして、史上初――。無等級から飛び級で、四級聖女になった小さな聖女を。


「じゃあ――」

「――はい!」


 受付け嬢のお望み通り、二人で四級聖女の証明カードを見せた。


「えええええええええッ?! ウソでしょ――――ッ!?」


 もちろん、私の証明カードは更迭処分で無効。軽くポイっと投げ捨てられたが。

 小さな聖女のギルドカード発行だけで、今回は充分である。


 無事、私は『荷物持ち聖女』ではなく、彼女のおかげで前衛に立てることになった。

 やはり、神は私の日頃の行いを見てくださっていたのだ。


 *


 適当にクエストを受注し、足早に冒険者ギルドを出た。

 そもそも、私の最初の行き先は決まっている――彼女にもそれを伝えなければ。


「いやぁ~助かったよ! 私の事はこれから『メル』って呼んでくれ!」

「いえいえそんなこちらこそ。そんな、呼び捨てだなんて滅相もございませんッ! もしもよろしければ――『メル様』……と、お呼びしてもいいですか?」

「んー、別にいいけど。ってか四級聖女なんだから、タメ口でもいいのに」

「――いやッそんな! メル様にタメ口だなんて、私なんかにはおこがましいです」


 まるで謙遜する子犬のようなアイネ。

 なんて可愛らしい子なんだろう……嫁にしたい。聖女だから無理だけど。あぁ、いかんいかん。本題を伝えなければ。


「それはそうとアイネ。クエストの前に、実家に帰ってもいいか?」


「えっ??」


 アイネは目を点にして、思考が停止しているように見えた。

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