339号室
数日後、ちょうど田中さんの次の夜勤の日、また杖の音が聞こえてきました。
「カツ、カツ、カツ…」
今度は、339号室の前で止まりました。
田中さんは凍りつきました。339号室には、あの患者がいます。半年前に市内で起きた無差別殺人事件の容疑者として、警察の監視下で入院している男です。重傷を負って意識不明の状態が続いていましたが、最近ようやく意識が戻り始めていました。
「コン!コン!コン!」、339号室のドアを激しく叩く杖の音。まるで「ここだ!ここだ!」と叫んでいるかのように。
田中さんは震える手で339号室のドアを開けました。モニターを見ると、容疑者の心拍数が急激に下がっていました。
「これは…危篤?」
迷っている暇はありませんでした。田中さんは緊急ナースコールを押し、医師を呼びました。
床を見ると、緊急を知らせる信号が通る通信ケーブルが外れていました。
深夜の蘇生処置。医師たちが必死に処置を行う中、田中さんは廊下で杖の音を聞いていました。今度は静かに、まるで見守るように。
「除細動、充電!」
「バイタル戻りました!」
容疑者は一命を取り留めました。
翌日、警察から聞いた話では、容疑者は意識が戻れば、事件の真相を聞く予定だったそうです。実は、真犯人は別にいて、彼はそれを目撃した証人だったという可能性が浮上していました。もし彼が亡くなっていたら、無実の彼が犯人として扱われ続け、真犯人は野放しになるところだったのです。
「あの亡霊は、助けに来たんだ…」
田中さんは、見えない患者さんに感謝の気持ちを抱き始めていました。
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