Sun of Mars
@udon_MEGA
第一章:押忍! メカ・バト部!
000:でっかい夢を抱いた瞬間
困った人がいれば全力で助ける――それが“ヒーロー”だ。
“真っ赤な花びらの桜”が咲き誇り。
皆が皆、新しい門出を祝う月。
俺――五十嵐仁は今日から高校生だ!
先祖代々受け継がれてきた赤黒い学ランに袖を通し。
下駄を踏みならしながら、道を歩いて行った。
気持ちの良い朝で、今日もきっと素晴らしい一日になると思っていた。
「あぁぁぁん!?」
「はぁぁぁぁん!!?」
「……はは!」
目の前で俺に対してをメンチを切る二人組。
その傍らにはぶるぶると震えながら涙目の小柄の男。
黒を基調として、学ラン風ではあるがどこか現代っぽさがある新しい制服。
俺が通う事になる天龍寺高校の今の制服を着ていて、恐らくは同じ入学生だと思った。
ふと路地裏が気になって見てみれば、何やらものものしい雰囲気だったので思わず割って入ってしまったぜ!
二人組は唸り声を上げながらメンチを切り続ける。
俺は笑みを浮かべながら、ゆっくりと口を開いた。
俺は生まれも育ちも火星だ。
先祖の努力によって住める星となった火星。
テラフォーミングというものによって地球とほぼ変わらない環境で。
少し寒い事と食料が乏しい事を除けば住みやすい星だ。
地球人と火星人は寿命という点では違うらしい。
そもそも、一年の長さもあっちとこっちでは違うとか授業で習ったが――でも、そんなのは関係ねぇんだ!
俺は地球人たちが作っている漫画やアニメ、ゲームが大好きだった。
勿論、火星の娯楽も好きだ。でも、やっぱり本場のサブカルは格が違う。
探偵ものに、能力バトルものに――ヒーローものは最高だ!
子供の頃は妹と一緒に夜が明けるまでアニメを見ていたし。
ゲームなどに全く興味が無い幼馴染の横で永遠とゲームをしていた事もしょっちゅうだった。
俺はお世辞にもゲームは上手くはなかったが。
それでも、一種懸命にプレイをしてクリアする事が出来た日にはそれはもう――
「てめぇ!! いきなり出て来たと思えば……一人でなにくっちゃべってんだぁ!!?」
「天龍寺高校の制服を着ているみてぇだがよぉ。てめぇらみてぇのが奴らと同じ筈はねぇ!!? そうだよなぁ!!?」
目を血走らせながら、アフロとオールバックの男たちが俺を睨む。
「……あぁ、いや? 天龍寺高校には今日から入学だけどよぉ……なぁ、お前もそうだよな?」
「え、ぁ、そ、そ、の……は、はい」
「あぁ!!? まだ嘘をつくってのかぁ!!? 親切心で忠告してやったのによぉ……だったら、奴らひでぇめに遭わされる前に俺たちがお灸をすえてやらぁ。ひひひ、授業料はてめぇらの鞄の中身にしといてやるよぉ」
目の前でボキボキと拳を鳴らす男たち。
制服を着ているが、別の高校のものだと分かる。
路地裏に連れていかれた小柄の男を見つけて。
何か危険な臭いを感じてついていけば、忠告をしていただけだった。
しかし、その忠告は的外れなものであり。
今すぐに制服を脱げなんて言っていたものだから、思わず割って入ってしまった。
俺の人生のストーリーを話せば気持ちを落ち着けて帰ってくれるかと思ったが……仕方ねぇな。
「おい、お前……えっと、名前は……いや、今はいいか! 先に学校に行っていいぞ! 後は俺が何とかするからよ!」
「え、で、でも」
「いいから、ほら、いったいっ――ッ!」
俺が手をひらひらと動かしていれば、いきなり腹に一撃を喰らわされた。
ゆっくりと体を起き上がらせれば、肩を掴まれて左の頬を殴られる。
男たちはニヤニヤと笑ってはいるが、たらりと汗を流している……何か、怖がっているのか?
「何勝手に話してやがる。行かせる訳ねぇだろうが……仮にてめぇらが本当にあの鬼どもの関係者なら……此処で記憶が飛ぶまで痛めつけてやるぜ。でなきゃ、俺たちは……ぅぅぅ!」
「……何か、訳アリって感じだな……うし! 分かった!」
俺はパンと手を叩く。
そうして、その場にどかりと座った。
奴らは目を丸くして驚いていたが。
俺はそれを無視して奴らに笑みを向ける。
「取り敢えず――話を聞かせてくれや! 殴りたいならその後だ!」
「て、てめぇ何を。ふざけてやがんのかぁ!!」
「もう頭に来たぜ。テメェだけは絶対に生かして返さねぇ!! 兄弟の恨みをてめぇではらしてやらァ!!!」
男たちは拳を振り上げる。
そうして、話しもせずに俺に殴り掛かって来た。
俺は笑みを浮かべたまま、男たちからの攻撃を躱す事も防ぐ事もせずに全て受ける。
見れば、小柄な男は未だに震えながら俺たちを見ていた。
俺は殴る蹴るの行為を受けながらも、片手を動かして去るように促す。
すると、奴は視線をキョロキョロさせて――走り去る。
それでいい。
そう思っていれば、顔面に強い一発が入る。
視界がパチパチと弾けて、鼻から血が垂れる。
男たちは呼吸を乱しながら、俺の事を警戒した目で見て来る。
俺は片手で血を拭ってからにかりと笑う。
「さぁ話してくれよ!! 話さねぇと何も分からねぇからな!!」
「う、このぉぉ!!」
「……待てよ」
アフロの男が拳を振り上げる。
すると、隣のオールバックがそれを止めた。
アフロは相方を睨んでいた。
「あぁ!? 何言ってんだ!? こんなチャンスは滅多にねぇんだぞ!! あのクソ共に復讐を」
「……分かってる。けど、こいつからは、あの鬼どもみてぇな殺気がねぇ……お前、何考えてんだ?」
「あぁ? 何ってそりゃ――人助けだ!」
「ひ、人助けだぁ? な、何言って……お前なんかに話したってなぁ!! 弟の心は……うぅ」
「……それでもだ。悩みとか不安とか、恨みつらみってもんもさ。誰かに話すだけで少しくらいは軽くなるんじゃねぇか? 俺がどうこう出来る事じゃねぇかもしれねぇけどよ。此処で会ったのも何かの縁だ。お前たちが本気で悩んでいて助けて欲しいって言うんだったら――俺が力になる!! 約束だ!!」
俺は自分の胸を叩く。
すると、男たちは互いの顔を見合い――地面に腰を下ろす。
「……実は――」
◇
「「ありがとうございましたぁ!!」」
「おぅ! また何かあったら言ってくれよ! それじゃあな!」
頭を下げる二人組。
アフロの正志とオールバックの健吾は目に涙を浮かべて去っていく。
俺は手を振って二人を見送る。
そうして、ポケットから端末を出して時間を確認し……あぁダメだな。
入学式は終わっている。
完全なる遅刻であり、どうしたって間に合わない。
間に合わないが――俺は走り出す。
間に合わないから諦めて良い訳じゃない。
これ以上、遅れない為の努力をする。
俺が目指すヒーローとは、努力を惜しまないのだ。
俺は叫ぶ。
叫んで力を漲らせて全力で走っていった――
◇
「「「…………」」」
「……はは」
現在、俺は校庭にて――磔にされていた。
天気が良かった筈なのに、いつの間にか空には暗雲が立ち込めていた。
パチパチと火が燃える音が聞こえるが。
ご丁寧に松明を地面にぶっ刺していた。
眼下には天龍寺高校の先輩たちがいる。
どいつもこいつも凄まじい闘気であり、一人一人が歴戦の戦士と言っても信じてしまうほどだ。
体つきも顔つきも、類まれなる才能の塊だ。
俺は目を輝かせながらそんな先輩たちを見つめて――先輩たちが道を開ける。
ドスドスと足音を響かせながら。
甲冑を着込んだ大男が現れる。
身長は二メートルを優に越していて、甲冑を着ていても分かるほどにすさまじい筋肉の塊だった。
その目つきは抜き身の刀のように鋭い。
鬼の顔であり、優しさなんて微塵も感じられない。
鬼が薙刀の柄を地面に当てれば、地面が軽く揺れた。
「我が名は
「――ちょっと待ったッ!!!」
「「「……!!」」」
俺は声を張り上げて待ったをかける。
すると、源田先輩はぴくりと眉を動かす。
そうして、持っていた薙刀を振り回してから俺に切っ先を向けた。
「罰を受ける前に発言をするとは……よほど死にたいらしいな?」
「いや、死にたくはねぇ!! けど、罰を受ける前に頼みがある!! 決闘がしてぇんだ!!」
「「「……!!」」」
俺が決闘という言葉を発すれば、大男たちがざわつき出す。
が、源田先輩が薙刀を地面に打ち付けた瞬間に声がぴたりと止む。
先輩は暫く考えてから、にやりと笑って俺を見る。
「……面白い。名を言え、誰と決闘をする。そして、何を望むんだ」
「決闘して欲しい相手は二年の――
「……ほぉ、あの“血染め”の……大凧ッ!! 前に出ろッ!!!」
「押忍ッ!!!」
先輩の言葉を受けて、でっぷりとした腹をした金髪のモヒカン頭が前に出る。
太ってはいるが、それは脂肪ではなく筋肉であると俺には分かる。
奴は怒る事も嘲る事もせず、ただ黙ってその場に立っていた。
すると、源田先輩が奴に尋ねる。
「決闘を受けるか?」
「押忍ッ!!! 決闘を承諾しますッ!!」
「よろしい。では、双方、賭けるものを提示せよ」
「おぅ!! 俺が勝ったら、ある兄弟に謝って貰う!! 誠心誠意謝れ!! もし俺が負けたら、奴隷でも何でもなってやらぁ!!」
「……いいぜ。それなら、俺様が勝ったらその言葉通りてめぇをこの俺様専属のパシリにしてやるよぉ。隣町の店まで、焼きそばパンを買ってきてもらうぜぇ。くくく」
奴は舌なめずりをして笑う。
そんな奴を見ていれば、目にも留まらぬ速さで源田先輩が薙刀を振るった。
磔代がバターのように細切れになり。
俺は地面に着地してから、手首を確かめた。
「……で、決闘の方法は? 殴り合いか、真剣か。それとも」
「――いや、血が流れる事はしたくねぇ。俺は誰に対しても暴力は振るわねぇんだ!」
「……あぁ? 何だとぉ……まぁいいだろう。なら、そんなテメェにとっておきの決闘方法がある」
大凧先輩はくつくつと笑う。
奴は顎を動かして、他の生徒を動かして何かを持ってこさせた。
何かを受け取った先輩は、一つを俺に投げ渡して来る。
俺はそれを片手で受け取って……これは腕時計か?
「……腕時計で決闘?」
「……はぁ? 知らないだぁ? 嘘だろ、おい……そいつは腕時計じゃねぇ。
「……まぁ授業で習ったな……それで、そのアナザーワールドでどうやって戦うんだ?」
「くくく、そりゃ勿論――“メカ・バト”に決まってんじゃねぇか!」
「……! メカ・バトか!」
メカ・バトは知っている。
俺の大好きなシリーズのゲームだ。
テレビでもやっていたのをちらっと見た事はある。
最新作はやっていないが、2に関してはかなりやり込んだ記憶がある……いや、実際は初代と2しか触った事はねぇけどな。
妹にはレトロなものしか遊んでいないからと馬鹿にされた事もあったが。
どうも最新のゲームは肌に合わない。
コントローラーを使わないで遊ぶゲームってのが少し、なぁ?
IECEってものは初めてで。
アナザーワールドに関しては小中の歴史の教科書にばっちり載っていたので名前くらいなら知っている。
俺たちの先祖が生まれた世界であり、人類にとっての魂の故郷だ。
行ける機会があれば行ってみたいとは思っていた。
叶う事なら幼馴染と……妹と一緒にな。
「……まさか、これが初めてになるのかよ。はは」
「なに空想に浸ってやがる。やるのか、やらねぇのか? 俺は血が流れない決闘をこれ以外に知らねぇぞ。さぁ、さぁ!」
「――やるぜ!! 勿論な!!」
俺はIECEを手に巻き付ける。
かちゃりと音がして、勝手に明かりがついた。
文字盤には承認の文字が出ていた。
「それじゃ行くぜ。俺の真似をしな――アクセスッ!!」
「――アクセスッ!!!」
奴が指をIECEに添えて叫ぶ。
俺もそれを真似をして叫んだ。
すると、俺たちの体は光の粒子になっていき――――…………
…………――――目を開ける。
「お、おぉ!」
気が付けば、知らない部屋の中……いや、コックピッドの中にいた。
ゲーム画面越しに見たレバーやペダル。
全面に映し出されたモニターに加えて。
それっぽい計器やボタンがあった。
機械の駆動音が静かに響き、俺の格好も制服から一変しピッチりとしたパイロットスーツになっていた。
画面越しに見ていたロボの中と一緒だ。
いや、それだけじゃない。
グローブ越しに感じる金属の冷たさも。
ぴっちりと張り付いたパイロットスーツのゴムの質感も。
全てがリアルであり、全てが現実味があった。
《どうだぁ? 初めての電子の世界は……一応、説明はしてやるよ。お前が乗っているその機体は、大体の初心者が初めて乗る機体。戦闘用メカ“レイン”の中量級汎用二脚型で型式Aー03、“雛鳥”だ。地球人の大学生が作ったもので、バランスの良い設計で特徴と呼べるようなものはねぇが癖が無く、様々なパーツや武装にも適合して――》
「……雛鳥。すげぇ」
適当にレバーを掴めば、レバーの装甲が展開されて俺の手にがっしりと嵌まる。
足の方にも装甲が纏わりつき、手足を動かせば連動するように機体が動く。
流石に本物の手足のような感覚では動かせねぇが、それでもコントローラーよりも感覚的な動作が可能だった。
俺は先輩の声を聞き流しながら、ガチャガチャと機体を動かし――
《聞けやぁぁゴラぁぁぁ!!?》
「あ、すまねぇ! 遂、嬉しくってさ……で、これでバトルだな?」
俺がそんな事を言って眼前を見れば。
空中から何かが飛んできて、地面に勢いよく着地した。
荒れ果てた都市のようなステージの中心で。
砂埃を上げながら立っているのは――二足歩行のロボットだ。
灰色の機体であり、持っているのはライフルのようなものとシールドだ。
バイザーのようなものが頭部の目の位置にあり。
重装甲でも軽装甲でもないバランスの良さそうなフォルムだ。
完全なる人型であり、あまり強そうには見えなかった。
モニターには勝手に相手の機体が表示されて……雛鳥?
《……ふぅ、まぁいい……アナザーワールドもよく知らん貴様相手に、この俺様が本気を出す必要も無い。ハンデとして、俺も貴様と同じ機体と武装で勝負してやる。更には、練習時間として――三分間、俺は貴様に攻撃をしない》
「……いいのかよ。初心者だからってそんなにサービスして。言っとくけどな、俺だってゲームの経験はあるんだぜ?」
舐められている。
そう感じたからこそ俺は相手を挑発したが――先輩は鼻で笑った。
《……ふ、浅はかな発言だな……貴様はすぐに知る。今まで貴様がやっていた“お遊び”と、完成された“闘争”の違いをな……さぁ、カウントダウンを始めるぞ》
「……へっ! なら、全力でアンタの鼻っ柱を追ってやるよッ!! 大凧先輩ッ!!」
空中に巨大な文字が現れる。
それは五から始まり、どんどん数が少なくなっていく。
3――――2――――1――――
《精々、俺を興じさせろ――
「――行くぜッ!!!」
0――俺はレバーとペダルを動かす。
機体が動き出し、ライフルを先輩に向けた。
すると、先輩はその場で動かなかった。
俺はそのまま表示された説明通りに指を動かして――弾を放つ。
「――!」
ガガガと音が鳴り、衝撃でコックピッド内が少し振動した。
本物の銃撃音とリコイルだった。
感動していたが、弾は明後日の方向に飛んでいく。
俺は舌を鳴らし、そのまま足で踏ん張り地面を滑っていく。
そうして、仁王立ちする先輩の雛鳥に対してシールドでの物理攻撃を繰り出し――避けられた。
「な!?」
《ふ、何を驚いている? 攻撃はしないが、案山子になるつもりなどない》
「くっ!!」
先輩は跳躍し、俺の背後に立つ。
俺はシールドを力任せに振るう。
すると、またしても先輩は跳躍し回避し――うぉ!?
警告音が鳴る。
咄嗟に機体を制御しようとした。
が、俺の意志に反して機体は勝手に動く。
何とか倒れる事は防げたが、妙な踊りのようになった……今のは?
《くくく、やはり初心者だな。オートバランサーの動きにも対応できないとは。それでは、この俺様にダメージを与えるなど十年経っても出来んぞ?》
「な、なにを……やってやらァ!!!」
俺は銃口を先輩に向ける。
そうして、指を動かして銃弾を放った。
無数の銃弾が飛び、先輩に向かっていくが。
全てが先輩にあたる事無く地面や近くの建物に傷をつけるだけだった。
「な、何でだよ!? ゲームでは当てられたのに!?」
《ふっ、だからお遊びなんだよ。さぁトレーニングは終わりだ。見せてやろう。メカ・バトの――闘争を》
「……っ!」
先輩が放つ空気が変わる。
そんな先輩の威圧に屈して、俺は思わず先輩から距離を離した。
スラスターが作動し、大きく後ろに飛んでいき――先輩が動く。
《銃というのは――こう使うんだよッ!!》
「うぁ!!?」
先輩は叫びながら銃口を向けて来る。
そうして、放たれた弾丸は――俺の機体に当たる。
ガリガリと装甲を削られて。
警告音が鳴り響き、ディスプレイ脇のHPのようなものを示すバーがどんどん下がっていく。
俺は恐怖から咄嗟にシールドを構えた。
それにより、攻撃を防いで――何かがシールドに当たる。
《足場を敵に提供するとは――愚かだなァ!!!!》
「うぁぁ!!?」
先輩の声と同時に、シールドに強い衝撃が加わる。
一瞬見えた先輩の機体は足を突き出していた。
何をされたのか理解する前に――機体が激しく揺れた。
「かはぁ!?」
強い警告音。
コックピッド内は真っ赤な光に満たされていた。
システムが被害状況を知らせる。
背中がビルに当たり、完全にめり込んでいた。
俺はガチャガチャと手足を動かす。
が、瓦礫などに挟まって動けない。
「動け、動け!! 動いてくれよ!!」
《はは、どうした? もう終わりか? 決闘を挑んで、この様とはな――がっかりだよ》
「……っ!! く、くそぉぉぉぉ!!!」
モニターに映る先輩の雛鳥。
空中で制止しながら、ゆっくりと銃口を向けて来た。
俺はそんな先輩の動きに呼吸を乱して――
《幕引きだ。今日からお前は俺様の――奴隷だッ!!》
「――あああああぁぁぁぁ!!!?」
先輩の声。
言葉が終わった瞬間に、無数の光が眼前に見えた。
それらは一瞬にして、俺の機体に群がり。
コックピッドを貫き、視界が弾けて――――…………
…………――――その場に膝をつく。
呼吸が大きく乱れて、汗で体が濡れていた。
俺はその場に膝をつき、心臓の部分を片手で抑える。
アナザーワールドじゃない。
現実世界であり、火星であり、天龍寺高校の校庭だ。
歓声があがり、視線を上げれば。
片手を上げてにたりと笑う大凧先輩がいた。
負けた……完膚なきまでに敗北した。
ゲームが大好きで、それなりにやり込んでいた。
が、今までのゲームの知識も経験も役に立たなかった。
まるで違う。何もかもが違っていた。
「……これが、本当の……メカ・バトの……戦い、なのか?」
「……そうだ。メカ・バトの戦い。新時代の闘争。血の流れないクリーンな戦争。それが――メカ・バトだ」
「は、ははは、すげぇ、すげぇよ……あぁ気に入った。気に入ったぜ!!」
俺は拳を握り笑う。
今までのゲームは確かに遊びだった。
メカ・バトはゲームを超えた闘争だ。
だけど、俺にとってはこれもゲームには違いない。
なれる事が無いと思っていたヒーロー。
ゲームの世界で、自分と異なる誰かが至ったヒーロー。
そんな存在に、メカ・バトなら。
いや、アナザーワールドでなら――なれるかもしれねぇッ!!!
「決めたぜ!! 俺はなる!! メカ・バトで最高最強で、一番のヒーローに!! はははは…………え?」
俺が拳を上げて笑っていれば。
徐に近づいてきた生徒の一人が俺の首に鉄の輪っかをかけた。
呆けた顔でそれを見れば、鎖が繋がれていて……大凧先輩が握っていた。
「夢を語っているところ悪いがな……お前、俺の奴隷だからな?」
「…………そ、そうだったぁぁ!!」
俺は血の気が失せていくのを感じた。
他の奴らを見れば、祭りは終わりだと言わんばかりに帰っていく。
大凧先輩も鎖を引っ張り、俺をずるずると引きずっていった。
俺は両目から涙を流しながら、これからどうしようかと本気で悩んだ。
「せ、せっかく、具体的な目標が出来たってのに……う、うぅ」
俺は後悔する。
こんな事なら、決闘をする前に練習する時間を貰っとけば良かったと。
が、後悔しても遅く。
大凧先輩の口にする奴隷としての仕事であろうワードを聞きながら、俺はただただ泣いた。
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