空気に触れる
久藤涼花
第1話
この世界は空気で覆われている。それは物質であり概念でもある。私の今いる空間でもそうだ。常に空気は存在し、それらは人々に作用する。目には見えないが確実にそこにあるのだ。それに気づき始めたのは中学校に上がってからだった。
今まで誰かと友達になるにはどうしていただろうか、とたまにそんな考えが思い浮かぶ。きっとあの頃は友達の作り方なんてことも考えていなかったのだろう。ただ一緒に話し、遊び、同じ時を過ごしていくだけで自然と仲間はできていった。狭いコミュニティだったが返ってそれはあの頃にとってよかったのかもしれない。でもだんだん感じていくことが自分の中にあった。それが"空気"だ。誰かの言動や行動に対する反応でそれは変化する。「空気を読みなさい」何度も言われた人もいるかもしれない。空気は読むもので、それに対応して自分の身の振り方も決めなければいけない。それが私が中学校に上がって学んだことのうちの一つだ。中学校は何故だか閉鎖的に感じてしまっていた。全員が同じな制服のせいなのだろうか。テストによってある程度の能力の差が分かってしまうせいなのだろうか。容姿によってカーストが決まってしまっているせいなのだろうか。
校則に守れているようで縛られている思いになってしまうのはなんでなのだろうか。
とにかく息苦しい思いを抱えながら必死に卒業した記憶がある。個性を消し、周りと上手く同化し、目立たたず、かと言って暗くなりすぎないような万人を目指していた。
高校生になった。前よりも広い地域からの人が集まった集団は何故だか中学校よりも開放的な気分になった。色んな考えの人がいてそれを押し付けたり、他の人の考えを卑下したりするのではなく、ただそれぞれがアイデンティティを持っている様だったのだ。でもやっぱり中学校の名残なのかそういう独特な雰囲気は根強く残っていた。どちらかというとそれが土台にあって、それを踏まえた上での各人の自由があるようにも見えた。なるほど、これが"空気を作る"ことなのか、と思った。それぞれが異なった意見を主張することでその場の空気は何度も何度も変わっていく。前までの一定だった空気とは反対にとても激しく、読むことなんてあまりできなかったのだ。自分も高校では以前より自分の事を言うようになった。それでも、自分の立場をわきまえた発言なため、どこかそれもあのクラスで周りと一体化していたようにも思えた。
大学に進学した。今までとは比にならないくらいの人の多さでまた空気は大きく変化した。
社会人になった。あんなに広く、はたまた狭くとも感じていた学校をものすごくちっぽけなもののように感じた。年齢を重ねていくことで視野もますます広がったような気もする。学生の時に考えていた空気の在り方はどれも正解であり、不正解でもあるようだったと、考えるようになっていた。社会に出るとこれまでの事では通用しないようなことが沢山あった。本当に沢山だ。"空気をあえて読まない" "相手に空気を作らせる" 今までにはなかったことが多く求められているのが現状なのだ。以前より大変で、さらに難しくなっているのは確かだが、不思議とこれを苦には思えない。やっと自分の求めていた空間にたどり着けたような気持ちに包まれているのだ。
そして今になって分かったのは"空気は感じること"だ。読んだり作ったりするのではなくただ感じていれば良いのだ。人に合わせてみたり、一人一人が好き勝手にしたりするのではない。各々が感じ調整し合うこの空間こそ本来の"空気"なのだろう。その本質に触れた時、やっと息をすることが出来たような気がした。
空気に触れる 久藤涼花 @ryk_kdu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます