第2話 目覚め
時は遡り、監禁生活1日目。
まだ、何も事情も飲み込めていないウブな僕の様子をどうか笑ってやってほしい。
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昔から寝るのが苦手だ。
布団に入っても、色々なことを考えてしまい中々寝ることができない。
最近は限界まで勉強をして、気絶する形でやっと睡眠が摂れるレベル。
だから、「あ〜。よく寝た!」みたいなスッキリ感のある目覚めをしたことは皆無だ。1度で良いからそんな気持ちになりたいもんだと思っていたが、その願いは意外な形で叶えられた。
愛ちゃんに睡眠薬を盛られたことで。
デカい日本家屋に招待され、上品な雰囲気の床の間に通された僕に、愛ちゃんはお茶を出してくれた。
愚かな僕は、それを躊躇いもなく飲んだのだ。
お茶の味の違いも分からないくせに、「自販機のやつとは違うね」とか言って格好つけたりもした。
で、1時間もしないウチにオチたわけですわ。
そして、綺麗に敷かれたシーツやフカフカとモコモコした掛け布団をかけられた状態で目を覚め、「知らない天井だ……」とエヴァごっこをする絶好のチャンスだったのに関わらず出たのは別のセリフだった。
「あ〜。よく寝た!」
16年間の人生で初の爽快感。
しかし、いつまでも幸せなままではいられない。
睡眠薬を飲み物に混ぜるという、割とガチめな犯罪をした女の子が僕の横で正座していたから。
「おはよう! ユウくん。幸せそうに寝てたね!」
10畳ほどの和室で着物を着た美人さんに、にっこり微笑まれる。
先程までだったら単純に癒されたであろうシチュエーションだが、今は不気味なものに見える。
「もう夜だから、そろそろご飯にしようか。今日はユウくんがウチに来てくれた記念日だからお寿司とったんだよ! ユウくん、お寿司好きだったでしょ!? 特にエビ!」
「うん。好きだけど……」
説明してほしい。と言葉を続けようとしたが、ガシャンと金属音が聞こえたために止まってしまった。
手錠がかけられている。
右腕と木製の柱がつながっているため、少し動くだけでガシャガシャと耳障りな音がする。
「あの……愛ちゃん? とりあえずこれを外してほしいんだけど」
「え?」
え? じゃないよ。
まるで、僕サイドがトンチンカンなことを言っているような反応だ。
自信を失って久しいが、さすがに現状では僕の方が常識ある発言をしていると思える。
「イヤだよ? だって外したらユウくんが逃げちゃうじゃん」
「んー……」
何をどう伝えたら良いのか皆目見当もつかずに頭を抱え込む。
と、そこで例のアレが僕の身体に起こる。
オシッコにいきたくなったのだ。
どうしよう。どう考えても正常な状態ではない愛ちゃんがトイレを許可してくれるだろうか。
いや、こうやって考えている間も尿意は加速している。無駄だと分かっていても試してみるしかない。
「えーっと……トイレに行きたいんだけど……」
「あ。うん。分かった」
意外なことに、愛ちゃんは即座に手錠を外してくれた。良かった。トイレに行く権利くらいは与えられているらしい。
「こっちだよ」
愛ちゃんについていく。
歩くことができたところで、少しだけ脳の回転がマシになってきた。
そうだ。トイレから脱出できないか試してみよう。窓かなんかがあるかもしれない。
「はい。ついたよー」
愛ちゃんが開けてくれたトイレの中は普通の洋式のものだった。さすがの日本家屋も、トイレまでに和風要素を入れることは難しかったか。
いや、そんなことはどうでもいい。窓は……。
あった!
小さいが、外とつながっている窓がある。
ここから、何とか脱出できないか。
ゆっくりとその可能性を考えたかったが、愛ちゃんが扉を閉めてくれない。
「愛ちゃん。扉閉めてくれる? 恥ずかしいからさ」
刺激しないように、優しい口調を意識して指摘する。
「あ。大丈夫だよ!」
大丈夫なことあるかとツッコみたかったけど、その先の言葉によって僕は黙るしかなくなった。
「ユウくんがちゃんとトイレできるように、ここで見てるから」
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