現代弱者は異世界強者になりうる 〜クズの俺の本気〜
@zjh
現世期 転生編
第1話 クズ
俺の名前は
自覚した上でのクズだ。
なんで急にこんな話をするかって?
なぜなら俺は、親をこき使って生きながらえてきた、四十を過ぎたおじさんだからだ。
いわゆるニートというやつだ。
今俺がこうなってる理由は言うまでもない。
忘れやしない。16年前、俺の人生のどん底……。
高校の時の俺は、今のような姿じゃない。
陰キャまではいかない、ごく普通の高校生だった。
そんな俺が、どうしてここまで落ちぶれたのか。
12月、真冬だった。
俺は校庭で友達と一緒にサッカーをしていた。
ちなみにこの友達は、すでに出世して結婚もして、子にも恵まれている。
高校以降は会っていないので、嫁の顔もわからん。
羨ましいし、尊敬している。
俺みたいな弱虫じゃなくて、立ち直れたからな。すごいよ、彼は。
話が飛んだな。ちょうど俺がシュートする時だった。
「おいおい、楽しそうじゃんか」
「俺たちも混ぜてくれよぉ」
隣の高校の奴らだ。
かなり治安が悪いことで有名なところだった。
「やっべ、忘れてた! おいイガちゃん(俺のあだ名)、放課後こいつらここによく集まるんだった! ちきしょう、すまねえ! 今まで気をつけてきたのに……」
え? は? おい早く言えよ! なんて思ったが、時すでに遅し。
今そんなこと言ったって無駄だろう。
いや、さすがにこいつらも、そこまで非常識じゃないと思った。
ここはお帰り願おう。
「いや無理ですよ。今こいつと遊んでるんで」
「おいバカ、てめえ!」
当時の俺も調子に乗っていた。今思えば、あんなこと言わなきゃよかった……。
「おいおい、バカ言っちゃいけねえよ」
「ここは俺らの縄張りだと知っててやってんだろ?」
「ま、知ってるかどうかは関係ねえ。借りはきっちり返してもらわなあかんからなあ」
ずかずかと歩み寄ってくる。
俺たちは怖くなって逃げ出した。
しかし、相手は大勢。逃げ切れるわけもない。
「おい離せよ! 離せって!」
「クソ、お前ら何しやがる!」
必死に抵抗したが、俺らじゃ力不足だ。
そのあとは袋叩きだった。
「なあおい、人の縄張りに勝手に入ってきた野良犬が、何調子乗ってんだよ!」
「ヴっ!」
「おいおめえら、やっちまおうぜ!」
「よぉしきたぁ、任せろぉ!」
終わった……やっちまった……ボコボコにされる未来が見える……。
・・・・ーーーーーーーーーー・・・・
無茶苦茶だった。
理屈のかけらもない「規則」やら何やらを言われては、殴られた。
これが夜まで続いた。
俺と友達は顔中あざだらけだった。
「いやぁ、やってやったな」
「で、こいつらどうする?」
「あ、いいこと思いついた」
痛みで頭は使えなかったが、ロクでもないことなのは確かに感じた。
「お前ら二人、今日から俺たちの奴隷な?」
急に言われたこの言葉に、頭の中で反応した。
「奴隷」
この二文字は異世界ものじゃ定番だ。
アニメやラノベの見すぎだろうか。
初めは特に何も感じなかった。だが、その考えはすぐに消えた。
「ど……れい……?」
上手く喋れない。
「こき使ってやるから、覚悟しろよ?」
は? と思った。めちゃくちゃどころじゃない。
何だそれは。俺らは一体どうなってしまうんだ?
「い……いやだ……」
友達が言った。
無理だ。無理に決まってる。そりゃそうだ。
だが、この状況でそれは火に油を注ぐだけだった。
「あん? なに、口答えしてんだよ!」
「やめてっ! お願いだから! わかったから!」
結局、俺らは承諾した。するしかなかったんだ。
あいつらは満足したみたいに帰っていった。
「これから俺ら一体どうすりゃいいんだ……」
「分かんねえよ……くそぉ……くそぉ……」
その日はそのまま帰宅した。
家に帰ってからは、母親に心配されたものだ。
ただ、今も後悔してるが、その心配する母に向かって――
「やめてよ! 俺に触るな! あっち行け!」
と言ってしまった。
母もとやかくは言わなかった。察してくれたのだろう。
その日からは地獄だった。毎日が。
もう転校しようと思った。だが家はかなり田舎だった。
近くに通える高校もないし、引っ越す金だってうちにはない。
だが、俺だってそこまでひ弱じゃない。
しかも高三だったこともあって、「ラスト1年!」と我慢してた。
我慢だけで済むならまだよかった……。
8月中旬の夜だ。
夜、床に着いたら、窓がいきなり割れた。
何事かと思ったら、あいつらだった。
俺の家めがけて野球ボールを打ち込んでいた。
一階の方を見た。目を疑った。
ことごとく割れていた。
「やめろ!」と叫んだ。
それに気づいた奴らは、逃げていった。
朝になって一階に行ったら、母が泣き崩れていた。
俺もリビングの方を覗いた。
「何だ……これは……」
地獄絵図? だっけ。
そんなものが仏教にあるらしいが、これはまさにリアル地獄絵図だ。
今後の生活がどうこうなってしまいそうだ。
流石に我慢ならなかった。
すぐに奴らの高校に行った。
絶対に探し出して、今回の件について聞き出してやろうと意気込んでいた。
「何してくれんだ、この野郎……! お前らのせいで……うちは……うちは!」
「おお、おお、単身で乗り込むたあ、いい度胸だ。」
「クソったれぇぇぇ!」
「ヒョイっと!」
「しまっ、うぐっ!」
「あははは! ダッセェ!」
ま、結局、みなさまお察しの通り、ボコボコにされて捕まった。
相手の高校の倉庫に、素っ裸のまま2日間閉じ込められた。
そして3日目に、校門の前に縛られた。
屈辱、羞恥、怒り、悲しみ、絶望、罪悪感、恐怖。
負の感情のオンパレードだ。
これが俺の人生の終着点か。そう思った
あの日を境に、俺の人生は終了のチャイムを告げた。
もう二度と始業のチャイムは鳴らない。
高校は中退した。
……いや、正確には“勝手に”中退扱いされた。
自分から行かなくなった結果、学校が勝手に処理したらしい。まあ、どうでもいい。
それから俺は、ひたすら家に引きこもった。
外に出るのが怖かった。
またあいつらに会うのが、怖かった。
あの事件のあと、そいつらは停学になったらしい。
うちは修繕費とか慰謝料みたいなのをもらった。
でも、停学で済むっておかしくないか?
退学でも足りないくらいだ。できることなら実刑にしてやりたかった。
「なんで……俺だけ……!」
何度も泣いた。1ヶ月くらい、マジで泣きっぱなしだった。
泣いたってどうにもならないのに、止まらなかった。
俺の人生は、あの日確かに狂った。
気づけば、引きこもりも長期戦。
親の脛齧り生活も、もうベテランの域だ。
「そろそろヤバいな」と思うのに、動けない。
結局、“正当な理由”があったのなんて最初の2年くらいだった。
まあ今はいくら言ってもどうにもならないけどナ!
俺も変わろうって思ったことは何回もある。だがトラウマっていうのはそう簡単には消えないんだ。
面接に一回応募したことがあるんだが、当日になって急にやる気を無くした。
外に出ることから始める必要があったのだが、この時点でもうゲームオーバー。
玄関に立って、鏡に向かって「心機一転!」
と言って、ドアノブに手をかける。
しかし、一気に過去の記憶が呼び戻された。
もしかしたら今でも、
心臓がバカみたいに鳴り響く。無理だ。
自室に走り込んで、散らかった服の山を蹴飛ばした。
パソコンのモニターがつけっぱなしで、青白い光が部屋を染めている。
ベッドに倒れ込みながら、天井のシミをぼんやり見つめた。
「ああ、もうこりゃダメだな」
これが俺の最後の踏ん張りだった。
まあ今となっては何とも思っちゃいない。
自室で相棒のパソコンをいじりながら、ネットを漁ったり、ゲームしたり、アニメを見たり。
カーテンの隙間から差す昼の光が、モニターの青白さに負けてやけに薄い。
……いいじゃないか。こんな生活ができるんだから。
「……クソっ」
って何度口にしたことか。その度にこころのなかで言い訳をした。俺もここまできちゃったんだなって、呆れに近い気持ちだ。
「この生活が終わる時っていつなんだろう……な」
そうして俺もまた自堕落な今日に終わりを告げた。
そのときだった。
突然、目の前が真っ白に光った。
身体が熱い。いや、熱いどころじゃない。焼けているような…………って…
「うわぁぁぁぁぁ!」
火事だ。俺の部屋からだ。
推しキャラが映る画面の向こうで火花が散る。
それと同時に画面が閉じ、端から黒く溶け始めていた。
パソコンがショートしたらしい。
長年一緒に過ごした相棒の最後がこれとか、笑えない。
「亨ちゃん!? 煙たいけど……って、きゃああああ!」
母ちゃんの声が聞こえた。
助けを呼ぼうとした――が、ふと思った。
……まあ、いいか。終わりで。
不思議と思考だけは冷静でいた。
もう、誰にも迷惑をかけないで済む。
焦げる匂いが鼻に刺さる。
息を吸うたびに喉が焼ける。
でも、不思議と怖くなかった。
こんなクソみたいな人生とおさらばできるのだ。天からご褒美でも貰ったのカナ? ハハハ。
悪くない終わり方じゃないか。
これで人生最後の親孝行ができるってもんだ。
未練はない……ないんだ……本当に…。
情けないな。人ひとりの人生に未練が一つもないなんて…………
・・・ーーーーーー・・・
その日、俺は死んだ。
消防車が駆けつけるのにさほど時間はかからなかった。だから火災も俺に部屋だけで止まった。
他の家族の安否はわからない。だけど被害状況からしておそらく無事だろう。
死ぬ前の最後の意識で分かったことはこれくらいだ。
よかったと思う反面、少しだけ悲しかった。
誰も、俺を助けようとはしなかったんだな。
まあ、自業自得か。
死んだ後、頭の中に浮かぶのは“後悔”ばっかりだった。
なんでもっと強く生きなかったんだろう。
なんであんなに逃げてばっかりだったんだろう。
死ぬ時すら親に迷惑をかけてしまった。
なんで親にあんな顔をさせてまで……。
自分がクズなんだど自覚したのはつい5年前だ。
その日は弟が家に来ていた。母がいつも通り料理を振る舞っていた。
「あれ、母さん何で3人分作っているの? 今うちには母さんと僕しかいないのに」
うちの家は結構古い。だから下の階の話し声でも案外よく聞こえた。
「これは…お兄ちゃんの分よ」
「……え。お兄ちゃん…? まさか…まだいるの!?」
「え…ええ…」
母は目を逸らした。
台所の方で、味噌汁の煮える音がやけに大きく聞こえた。
「ありえない! もう10年経ってんだぞ?」
「ま…まあとりあえず、母さん食事持ってくわね」
「待って。俺が持ってくよ」
「あら、助かるわ」
弟はドアを勢いよく開けて中に入ってきた。
「な! なんで入ってくんだ! 出てけ!」
「兄貴! いい加減にしろよ! ―――」
それからは説教ばっかだった。
だが、とある一言に、俺の頭が沸騰した。
「だいたい、あんなことで引きこもるって、弱すぎんだろ」
「……は? あんなことって…何だよ。言わせておけばガミガミと…なあおい! お前はさあ! 当事者じゃないからそんなことが言えるんだよ! おれが! いったい! どんな気持ちだったか知らないくせに! 生意気言うんじゃねえ!」
必死に殴った。わからせてやりたかった。
だが俺の拳は弱い。簡単にカウンターを食らって俺はへばりついた。
「ああ、最悪! こんな兄貴なんか恥晒しだぜ……勝手にしろ!」
そう言って弟は出て行った。もう二度とうちには来なかった。
思えばあの時弟も悪気はなかったのだろう。
母親に代わって自分が更生させてやるってつもりだったのだろう。だが俺はその気持ちを理解しようとしなかった。追い返した。
その結果がこの有り様だ。笑っちまうぜ……。
そもそも俺が親と最後に話したのっていつだっけ?
ああそっか…あれか。
――昨日の夜――
「亨ちゃん…大丈夫…」
母がドアノブに手をかける。
(……ドン!)
「入ってくんな!」
「じゃ…じゃあ母さんは仕事に行ってくるから、ご飯……置いとくね」
ああ、まじか。
母との最後の会話がこれとはな。
まともな会話なんてもう何年できてないんだろ…
ま、もう死んだし関係ないっか。
……………………
……………………
……………………
……一つだけ……未練……というよりは願望がある。
「もし、もう一度生きられるなら……今度こそ、誰にも迷惑のかけない男になる……」
そう言いかけた、その時だった。
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