流星騎士
渋谷かな
第1話 宇宙へ
「このロケットは、ただの金属の塊じゃない。これは、人類の“希望”を乗せた、流星だ。」
ゴゴゴゴゴゴゴー!
5。
メインエンジン点火。エンジンが燃焼を開始し、推力を確認。今、正に宇宙に向けてロケットが発射されようとしている。
4。
ロケットの轟音と炎の描写。機体がわずかに上下動する。まずロケット下部から白煙と火花が噴き出し、続いてオレンジ色の炎が爆発的に広がる。
3。
機体が軋み、大気が震える。ロケット下部から噴き出す白煙が、まるで巨大な翼のように広がった。
(どうか! 成功してくれ!)
少年は、宇宙ロケットの発射を祈った。
2。
(ドキ! ドキ! ワク! ワク!)
心臓の鼓動と重ねる。まるでカウントダウンは、祈りのように聞こえる。
1。
「リフトオフ!」
0。
ホールドダウン解除。機体を固定していた装置が解除され、ロケットが上昇を開始。ロケットがゆっくりと、しかし確かな力で天を突き上げるように上昇を始める。重力を振り切るように上へ。
「上がった!」
ここで少年の心とロケットの希望が重なる。
「成功だ! やったぞー!」
「わあいー!」
地面を揺るがす観衆の歓声。
「いいな。いつか僕も、宇宙に行ってみたいな!」
視線がロケットを追う。地球の重力を断ち切り、運命を超えるみたいに。
(僕も、あの空の向こうへ! いつか、きっと! 陽月昴、必ず行くんだ・・・・・・宇宙へ!)
ピキーン!
(昴。)
「えっ? ・・・・・・あれ? 誰もいない。」
少年は、誰かに名前を呼ばれた気がした。
(お願い、宇宙を救って・・・・・・。)
空の果てで、宇宙の深淵で何かが彼を見つめていた。
「宇宙を見上げた少年が、いつか宇宙に立つ物語。」
流星騎士。
その日の夜。
「ん・・・・・・んん・・・・・・。」
少年は、夢を見ていた。
「や、やめろ・・・・・・やめろ!!!!!!」
それは、悪夢だった。
少年が見ている夢。
ドカーン!
打ち上げた宇宙ロケットが宇宙空間で爆発する。
ドカーン!
続けて、宇宙ステーションや、衛星が次々と爆発していく。
「タコタコ!」
そして、何かが地球に向けて降下していく。大気圏で真っ赤に染まって。
「ダメだ! やめろ!!!!!!」
少年は夢から目覚める。
「はっ!? 夢か!? ふ~う。良かった。」
夢だったことに安堵する。
「・・・・・・!? えっ!?」
しかし、夢から目が覚めて、少年がいたのは・・・・・・宇宙だった。
「こ、ここはどこ!?」
少年には何が起きているのかは分からなかった。
「宇宙!?」
どこまでも音がしない静寂の黒い空間が広がり、星々が光り輝いていた。
「宇宙って、こんなに静かなんだ……138億年前の始まりから、ずっと膨張してるなんて信じられない。」
意外に冷静な少年。まるで故郷の様に。どこか懐かしかった・・・・・・。
ピキーン!
「う、浮かんでる!?」
少年は、無重力(厳密には微小重力)空間で浮いていた。
「く、空気!? 死ぬ!? ・・・・・・あれ? 苦しくない?」
宇宙空間は空気のない真空、温度も絶対零度近く、生命には厳しいはずなのに、少年は苦しくなかった。
「うわああああ!? なんて、きれいなんだ!?」
地球が青く輝いていた。
地球は、豊かな大気と水を持つ「生命の故郷」である。生命が存在する唯一の星。
「不思議だな。悲しくないのに、涙が出ちゃう。」
感動して少年は泣いていた。
「ほ、本当に、僕は宇宙にいるんだ!?」
少年は実感した。自分は宇宙にいるのだと。
「その通り。ここは宇宙だぴょん。」
「う、うさぎ!?」
宇宙空間に、銀色のウサギが浮いていた。
「夢だ。アハハハハッ!」
「現実だってぴょん。」
「うさぎが喋った!? ギャアー!!!!!!」
もう驚くしかない。
「当たり前だ。月のウサギは銀色の精霊だからなぴょん。」
ウサギの正体は、月の精霊だった。
「すごい! やっぱり月にウサギはいたんだ! わ~い!」
大好きな宇宙の話とつながり、大いに喜ぶ少年。
「そんなことよりも、自分がなぜ、宇宙空間にいるとか気にならないのかぴょん。」
「夢だから。アハッ!」
少年は全て、夢オチで片付けようと思っていた。
「違う。おまえが、宇宙に来たい、と強く願ったからだぴょん。」
「ええー!? 願ったら、宇宙に来れるの!?」
「これも月の神秘ですねぴょん。」
少年の願いが叶った。憧れの宇宙にやって来れたのである。
「どうして、僕は宇宙空間に浮いていられるの?」
「それも月の神秘ですねぴょん。」
「どうして、僕は空気がない宇宙で苦しくないの?」
「だから、それも月の神秘ですぴょん。」
全て、月の神秘で済ますうさぎ。
ピキーン!
「分かった! 本当は、うさぎさんも知らないんだ!」
ギクッ!
「知っているけど、詳しく知りたかったら、月に来いぴょん。」
かなり図星の銀色の精霊。
「月?」
月は、地球の唯一の衛星で、地球の夜を照らしている。
「月の女王、かぐや姫様が教えてくれるぴょん。」
「ええー!? かぐや姫って、本当にいるの!?」
「無礼な! 様をつけろ! 様を! おまえが宇宙に来られたのも、宇宙で呼吸ができているのも、無重力で浮いているのも、全て、かぐや姫様のおかげだぞぴょん!」
かぐや姫は、月から来た美しい姫です。地上で人々に愛されながらも、最後は月へ帰ってしまう儚い存在。
「よく、自分の周りを見て見ろぴょん。」
「えっ? 体の周りに、薄い光の膜が見える!?」
彼自身の体の周りに、薄く青白い光の膜が張られているのに気がついた。まるで、夜空の月が放つ光のようだった。
「おまえの周りの光は、月の女王かぐや姫様の加護だぴょん。」
月の神秘は、かぐや姫のおかげであった。
彼女は、かつて地上に降りた姫。今は月の民を導く女王になっていた。
「ありがとうございます! かぐや姫様!」
少年は、月の女王に感謝した。
「さあ。貴重な体験もできて幸せだったから、そろそろ目覚めるとするか。じゃあね。ニコッ!」
「だから夢じゃないって言ってるぴょん!」
少年は夢オチだと思っていた。
「おまえは、月の民の末裔だぴょん!」
科学と神話が、少年の夢を通してひとつに繋がった。
「月の民!?」
「昔、月の民が地球に移り住んだことがあった。その時の生き残りが、おまえだぴょん。」
「ええー!?」
少年はパニックになっている。
「その証拠に、おまえは宇宙空間でも生きていられているのだぴょん。」
うさぎさんの説明にも説得力が出てきた。
「そう言われてみれば・・・・・・僕は、本当に宇宙人なの!?」
自分が地球人ではないかもしれないと思い始めた少年。
「さあ。分かったら、月へ行くぞ。かぐや姫様がお待ちだぴょん。」
「う、うん・・・・・・。」
うさぎさんは、少年を月に導こうとする。
ピカーン!
その時だった。
「タコタコ!」
何かが、少年たちの視界の範囲を、早いスピードで過ぎていった。
「た、タコが飛んでいる!?」
「あれは、宇宙人だぴょん。」
「ええー!? 宇宙人って、タコなの!?」
宇宙人は、基本は丸のボール状態。しかし足が8本生えていた。
「じゃあ!? 地球の海にいる、タコって!?」
「宇宙人だぴょん。」
タコは、古代から地球に適応した知的生命体だった。
「そ、そんな!?」
タコも、かぐや姫同様、過去に地球にやって来て住み着いた宇宙人であった。
「えっ? おまえ知らないで、タコ焼きを食べていたのか? なんて罪な奴だぴょん。」
たこ焼き=宇宙人焼きであった。アハッ!
「知らない間に宇宙人を食べていたなんて!? おええええええー!」
少年は、知ってはいけないことを知ってしまった。
「知らなかったら、仕方がないんだろうが、地球人は・・・・・・宇宙人の恨みを買ってしまったぴょん。」
「どういうこと?」
「あの宇宙人は、打ち上げられたロケットを狙っているぴょん。」
「なんだって!?」
宇宙人の目的は、敵討ちであった。
「ダメだ!? ロケットは、希望なんだ!? あれは人類の希望なんだ!?」
ロケットの打ち上げを見た少年の脳裏に、素晴らしいロケットの打ち上げの瞬間が思い出される。
「何とかロケットを助ける方法はないの!?」
「あるぴょん。」
なんとしても大好きなロケットを助けたい少年。
「おまえが、月の騎士になって戦うぴょん。」
「月の騎士!?」
「月の騎士は、月の戦士だ。月の民の末裔のおまえなら、きっと月の騎士に変身できるはずだぴょん。」
「僕が月の騎士になる!?」
少年の運命が動き始める。
「・・・・・・。」
少し考え込む。
「僕は、月の騎士になる!」
時間はあまりかからなかった。
「ロケットを守りたいんだ!」
大切な物を助けるために。
ピカーン!
少年を覆う月の加護の銀色の光が輝く。
「こ、これは!?」
そして月の光が物質化し、少年の体に鎧をまとわせ、剣を授ける。
「月の鎧と月の剣。全て! 月の神秘だぴょん!」
何が何でも月の神秘と言いたい月の精霊のうさぎ。
「これは・・・・・・月の加護って!? 僕に・・・・・・戦えっていうのか!」
「守りたいものがあったら、自分で守るしかない。」
「そ、そんな!?」
宇宙は甘くはなかった。
「文句を言っている暇があったら、早くタコを負った方がいいぴょん。」
宇宙人タコは待ってはくれない。ロケットに向かって進んでいる。
「でも、どうやって、宇宙を移動すればいいの?」
ピキーン!
「初回サービスだ! 優しいから、押してやるぴょん!」
うさぎが少年を押し出した。
「うわああああー!?」
無重力空間では、摩擦がないため、一度の推進が永遠の加速になる。
「・・・・・・速い!?」
宇宙の星々が流れているかのように光が点から線になる。
「まるで彗星だ!? 僕は、流れ星になったんだ!」
宇宙で加速するということは、流星を意味する。
「これならタコに追いつける!」
少年は、人類の希望のロケットを守りたかった。
「うおおおおおー! 見えた! ロケットとタコだ!」
自分が加速して進んでいけばいくほど、ロケットと宇宙タコが肉眼で見えるようになる。
「ああ!?」
宇宙タコは既にロケットに攻撃できる距離にたどり着いていた。
「ダメだ!? やめろ!? 早く! もっと早く! 早く進んでくれー!」
少年の祈りの様な願い。しかし、初めて宇宙に来たばかりの彼にはどうすることもできなかった。
「タコタコ!」
宇宙タコが触手を勢いよく振り上げる。
「ダメだ!? 間に合わない!? やめろ!? やめてくれ!?」
少年の目の前でロケットが爆破されようとしていた。
スパッ!
宇宙タコの振り下ろされた触手が斬れた。
「えっ?」
宇宙空間に銀色の騎士が一人漂っていた。
「タコタコ!? タコタコ!」
黒い宇宙タコがムキになって真っ赤に怒る。
「タコ!」
宇宙タコが口からビームを吐き出す。
「フン。」
銀色の騎士は、無重力の宇宙空間で自由意志により、華麗に360度回転して、ビームを回避する。
「これでも、くらえ!」
銀色の騎士は加速して宇宙タコに接近し、剣の起動は、月の輝きだった。
「タコー!?」
銀色の騎士が剣を一振りすると、宇宙タコは真っ二つになり倒される。
「す、すごい!?」
一瞬の出来事を少年は、ただ見ていることしかできなかった。
「ん? なんだ? おまえは。宇宙タコの進化した人型タイプか?」
「えっ?」
銀色の騎士が少年を見つけた。
「死ね! 宇宙の平和は私が守る!」
「ええー!?」
いきなり切りかかる銀色の騎士。
「ルナ様! ストップぴょん!」
そこに遅ればせながら、うさぎがやってきた。
「うさぎ?」
銀色の騎士の剣が止まる。
「こいつは、かぐや様が呼び寄せた、地球の月の民の末裔だぴょん。」
「そ、そうです! 僕は月の民の末裔の地球人です! タコじゃありません!」
必死に命乞いの様に自分を説明する少年。
「確かに、こいつの鎧は銀色・・・・・・こいつも月の騎士だというのか?」
初めてフルフェイスの兜を脱ぐ。
「きれい。まるで月の女神みたいだ。」
タコと戦っていたのは少女であった。女か、みたいな男女差別の様な差別意識はないので少年は、素直に少女を美しいと思った。
「気持ち悪い奴だ。」
ガーン!
「き、き、気持ち悪い!?」
少女に一目で憧れた少年には強烈なカウンターであった。
「なぜ、こんな非力そうな地球人などをかぐや姫様は呼んだのか?」
「それは分からないぴょん。」
「う~ん。謎だ。」
月の騎士もうさぎも考え込んでしまう。
「あの、僕の名前は陽月昴です! よろしくお願いします!」
「・・・・・・それは生きて、かぐや姫様に出会えたらな。私はパトロールがあるので、さらばだ。」
少女は、騎士の様に凛々しく去っていく。
「・・・・・・。」
「冷たいから傷ついたかぴょん?」
少し停止している少年を気遣ううさぎ。
「月に行こう! かぐや姫様に会いに行こう!」
いつになくやる気の少年。
「そして、今のお嬢さんと、お友達になるんだ!」
「ズコー!?」
さすがの月のうさぎも宇宙でズッコケた。
「行くぞ! うさぴょん!」
「うさぴょん!?」
「語尾にぴょんぴょん言ってるから、うさぴょんだよ。」
「勝手に、名前を付けるな!」
「行こう! 月へ!」
少年の宇宙アドベンチャーが始まる。
「き、聞いてない・・・・・・。」
つづく。
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