第28話 「海の下の目覚め」


■湾岸の夜・海の下へ



龍は、天城と田辺に挟まれるようにしてタクシーの後部座席に座っていた。

車内は静かで、運転手は無言のまま高速へと滑り込んでいく。



「……ど、どこに行くんすか?」



龍が思わず口を開く。

田辺がニヤリと笑う。

「こっからは秘密ですよ~~龍さん(笑)」


天城は前を向いたまま、低く答える。

「どこ行くかって?……アジトだよ、アジト」

「ア、アジト?!」


龍の声が裏返る。


田辺は笑いをこらえながら肩をすくめる。

「まあ、ちょっと面白いとこですよ。

海の上だけど、実は“海の下”なんすよ」



タクシーは、海ほたるパーキングエリアに到着した。

夜の海に浮かぶ人工島。

観光客もまばらで、

静かな空気が漂っていた。

天城が先に降り、無言で歩き出す。


龍と田辺が後を追う。

「……え、ここって普通のサービスエリアじゃ……」


「普通じゃないんですよ、龍さん」


田辺がウィンクする。

だがその目は、いつもより鋭かった。



施設の裏手にある関係者用通路。

警備員に何かを見せると、無言で通される。

階段を降り、さらに奥へ。

コンクリートの壁に囲まれた地下通路。

湿った空気と、わずかな振動。


「……なんか、映画みたいですね」


「映画よりリアルだ」

天城が短く返す。



通路の先に、重厚な扉があった。

天城が手のひらをかざすと、静かに開く。

その先に広がっていたのは――



それは、

都市の“神経中枢”のような空間だった。

無数のモニターが、都市の痛みを記録し、

ノイズを処理していた。


壁一面に並ぶ液晶モニター。


無数のPCと端末。


9名ほどのスタッフが黙々と作業している。


龍は、言葉を失った。

「……ここ、何なんですか……?」


田辺が肩を叩く。

「龍さん、ようこそ。ここが“海の下の目”っす!!

東京湾第七通信管制拠点!!公安の中でも、

上層部しか知らない、秘密のアジト。

日本政府非公認。というか、政府は知らない(笑)」


天城が補足する。

「ここは、テロ、災害、軍事侵略、サイバー攻撃

――あらゆる“見えない脅威”に対応するための拠点だ。

だが今は、“都市そのもの”が脅威になっている。

安心しろ、ここのスタッフは、

四六時中ここに貼り付けだ、お前らの情報なんて誰も知らない」


「え?!四六時中?!」


「そうだ、それがルールだ、

スパイが入らないように、通信端末も限定的だ。

要するに監視されここで、生活している。

俺はここの第七区長だ」

天城は、そう言って

公安外事4課東京湾第七通信管制拠点の公安手帳を

龍に見せ、背中を叩く。


「よろしくな!(笑)」



「・・す、凄すぎる・・こんな場所が」



そのとき、奥のモニター前に立つ

ひとりの人物が振り返った。

白いシャツに、黒のパンツ。


髪は金髪のボブ、目元は鋭く、

しかしどこか優しげ。


「……カヲル……?」



龍の声が震える。



彼女は、静かに微笑んだ。

「久しぶりですね、龍さん。

ようこそ――“現実”へ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る