第17話 【巫女の行方】セシリアの知恵とゼフィールの力、夫婦の決断

「大枢機卿ヴァレリウスが黒幕……そして、南の辺境国出身の巫女の血筋が、未だ途絶えていなかったですって!」


ゼフィールから王都地下での出来事を聞かされた私は、激しい衝撃に襲われた。黒幕の存在はゲームのシナリオにはなかった、最大のバッドエンドフラグだ。



「奴の狙いは、俺の排除と、アルベールを傀儡として擁立すること。そして、巫女の血筋は、俺の呪いを鎮める力を持つがゆえに、王国の秩序を守るという大義名分のもと、アルベールの"聖女の妻"として利用される」


ゼフィールは怒りを抑えきれない様子で、私を強く抱きしめていた。


「巫女を妻に迎えることで、アルベールは国民から"異端の竜騎士を鎮めた真の王"と見なされるのね……」



私が続けた。


「そして、呪いの力を持つあなた様は、制御不能の魔物として断罪される」



愛のない契約結婚で回避したはずの"断罪"が、形を変えて私たちに襲いかかろうとしていた。



「絶対にさせない」


ゼフィールは低い声で言った。


「お前の"悪女"の知恵で、奴らの計画を打ち砕く。巫女の血筋の居場所を探し出すぞ、セシリア」




__________


私たちの共闘は、一刻の猶予も許されない状況で始まった。



私は資料室で得た巫女の血筋の情報を整理し、ゼフィールは情報網の"影"を動かして枢機卿の動きを探る。



「巫女が持っていたという紋章……」


私は資料を広げた。


「これは、南の辺境国でも最も古い"癒やしの氏族"の象徴です。彼らは王都の貴族を嫌い、身分を隠して生活していたはず」



私は、転生前のゲーム知識と、侯爵令嬢としての社交界の知識をフル稼働させた。


「王都に住む辺境出身者で、貴族と関わりを持たず、しかし医療や薬草に関する知識を持つ者……」



そして、ふと、ある記憶が脳裏によぎった。


「そうだわ!私が侯爵令嬢時代、裏社交で聞いた、ある噂があります!」



それは、王都の裏路地に、身分を隠して薬草を売る、不思議な美貌の薬屋の娘がいるという噂だった。貴族の病を治すが、金を受け取らず、必要な薬草の対価しか受け取らないという、奇妙な人物。



「ゼフィール、その娘の素性を調べさせてください。もし彼女が巫女の末裔なら、枢機卿が彼女を捉える前に、私たちが保護しなければなりません」


ゼフィールは私の鋭い洞察力に、目を見張った。


「お前の悪女の情報網は、やはり侮れないな」


「ええ。地位と富に目が眩んだ悪女は、常に裏の情報を漁っているものですから」


私は微笑んだ。



ゼフィールは、すぐに数名の信頼できる騎士と"影"の部下を動かした。




__________


調査は迅速だった。



数時間後、ゼフィールが私の部屋に戻ってきた。彼は仮面を外したまま、私を抱きしめた。


「セシリア、お前の勘は当たっていた。その薬屋の娘の名は"ルナ"。彼女の腕には、資料にあった"巫女の紋章"と同じ、特別な痣があるそうだ」


「やはり!」


「だが、問題がある」


ゼフィールの声が低くなる。


「ルナは、数時間前、王都の裏路地で行方不明になっている。おそらく、枢機卿の息がかかった者に連れ去られた」


私たちの行動は、一歩遅かったのだ。



「最悪だわ……!彼女が枢機卿の手に落ちたら、王太子アルベールはすぐに彼女を"聖女"として王宮に連れ込む!」



ルナがアルベールの妻となれば、ゼフィールの呪いを鎮める力は、敵の手中に収まる。私たちの愛も、この国も、枢機卿の思い通りになってしまう。



「いいや、まだ間に合う」


ゼフィールは私を強く抱きしめ、熱いキスを落とした。


「お前が教えてくれた紋章の情報が、我々の最後の切り札だ」


「どういうことですの?」


「巫女の紋章は、南の辺境国の者しか知らない、古代の移動魔法陣の一部だ」


ゼフィールは続けた。


「枢機卿は、ルナを王都の外へ連れ去ったはず。お前の"悪女"の知恵で、彼らの目的地を突き止めろ。俺は、竜の力で、奴らの追跡を振り切り、ルナを救出する」




私たちは、愛のない契約結婚から、王国を救うための運命共同体となった。


「承知いたしましたわ、ゼフィール」



私は、騎士団長を愛する妻として、そして、この世界で最強の知恵を持つ悪女として、最後の勝負に出ることを決意した。


(第17話・了)


(次話予告:【古代の魔法陣】巫女の紋章が示す場所〜悪女の知識と竜騎士の力〜)


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