エピローグ②

「もうすぐ、到着です」

 甘く透き通った声で天使が言う。前々から天使のようだと思っていたその容姿と硬い表情はやっぱりミスマッチで、この天使よりつぼみの方がよっぽど天使だなんて変なことを考えてしまう。あの子があまりに唯一無二なせいで、天使でさえ再現ができないのかもしれない。この世に二つとして同じものはない宝石のようで、私には手を触れることさえできないのだろう。

「この後あなたは、天界で生まれ変わりの手続きを行うわけですが、転生先の希望はありますか?」

 生まれ変わり。あるとは知っていたけど、希望を聞いてもらえるとは思わなかった。

「それ、ぜったいに叶えてくれるの?」

「100%とは言えません。ですが、あなたは妹さんをかばって死ぬという立派な最期を遂げられたので、間違いなく優先はされるでしょうね」

 この天使でさえ私の心中には気づかないのか、ぬけぬけそんなことを申し上げるので笑いそうになった。

 なりたいものなら、ずっとずっと前から決まっている。それになれなかったから自殺したようなものだもの。皮肉なことに、こんなにキラキラした気持ちになったのは生まれてはじめてだった。

「つぼみになりたい。つぼみに、生まれ変わらせて」

 もうつぼみは生まているのに大丈夫かと一瞬思ったけど、天使なら時系列くらいなんとかしてくれるだろう。妹を救って死んだ聖人の願いなんだし。

「分かりました。きっと叶えます」

 天使がどこからともなく取り出したメモ帳に書き込みながら言うので、私もつい笑顔でうんうんと頷いてしまう。本当につぼみになれるんだ。どんな服を着よう、どんな髪型をしてどんな風に生きよう、と想像が膨らんでしまう。でも漏れなく嫉妬の塊の姉もついてくるのか。まあいいや、表向きは良いお姉ちゃんなんだし。

 デッキから身を乗り出す。虹色の海の向こう、キラキラした島が近づいてくる。あれが天国か。あそこで、つぼみに生まれ変われるんだ。もうワクワクしてしょうがなくて、生まれ変わるその瞬間まで、私はやっぱりつぼみのことを考えていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

欠落姉妹 現実逃避星人 @kaeru38248432

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画