DREAM GUARDIANS -夢を守る者たち-
川矢 亮介
第1話 夢を喰らうもの
――夢の中で、人は本音になる。
宵宮凛人(よいみや りんと)は、朝の目覚めとともに、また奇妙な夢を思い出していた。
灰色の靄が立ち込める世界。割れた鏡の破片の上を踏みしめると、自分の影が歪んで映る。
声を上げようとしても、喉が塞がったように出ない。
誰かに見られている気配だけが、薄暗い空間に漂っていた。
――何かがおかしい。
胸に残った違和感は、現実に戻っても消えなかった。
放課後、凛人は幼馴染の天音玲奈(あまね れな)と一緒に下校していた。
「ねえ、凛人、この占い屋、気にならない?」
玲奈はにこにこと笑いながら、古びた木の看板を指さす。
「夢占い」と柔らかく書かれた文字が、路地の奥で微かに光を反射していた。
「……そうだな、ちょっと入ってみようか」
凛人は頷き、玲奈に続いて扉を開けた。
店内は柔らかい光と木の香りに満ちていた。奥のカウンターには、帽子を深くかぶった男が一人座っている。
「いらっしゃい。占ってあげようか」
男は微笑む。
凛人は少し緊張しながら席に座る。
男はタロットのようなカードを丁寧にシャッフルし、テーブルに並べる。
「君の運勢を見ると……今は少し迷いの多い時期だね」
カードを指さしながら紫苑は静かに話す。
「近いうちに、君が大事にしているものに試練が訪れるかもしれない」
凛人は顔を上げる。試練、か……。
「でもね、恐怖に押し潰されることじゃない。本当に望むものを見失わないように気をつけるんだ」
胸の奥がざわつく。
――何を望んでいるのか、自分でもはっきりしない。
紫苑は微笑み、そっと問いかける。
「君は一体何を望んでいるんだ?」
凛人は答えを出せず、漠然とした想いだけが胸に残った。
その夜。
凛人はベッドに潜り込み、目を閉じる。
夢の中で、街灯の影が伸び、灰色の靄が濃くなる。
――そして、黒い影が現れた。
目の前に玲奈の姿がある。しかし、影に押され、足を取られて苦しそうにしている。
「玲奈!」
凛人は叫ぶ。声が夢の中で震えた。
全力で立ち向かうが、拳は空を切る。影は強く、凛人を押し返す。
――立っていることさえやっとだった。
その時、影の間から紫苑が現れた。
「凛人!下がれ!」
鋭い視線で影を押し返し、凛人を庇う。
影が一瞬退いた隙に、紫苑は短く指示する。
「力だけじゃ勝てない。まず、自分の内側にあるもの――守りたい気持ちを感じろ」
凛人は深呼吸する。胸の奥に、守りたい気持ちが小さく、しかし確かに芽生えていた。
――玲奈を、絶対に守りたい。
焦燥と恐怖が熱に変わる。体中の血が燃えるように熱く、拳が自然に前に出る。
「やめろ……!」
叫び声と共に、胸の奥の感情が力となって迸った。
黒い影を一撃で貫く光が拳から放たれる。
影は悲鳴のような音を上げ、裂けて消え去った。
夢の世界は静寂を取り戻す。凛人はまだ心臓の鼓動が速く、全身に熱が残っている。
現実に戻ると、玲奈は無事だった。
だが、夢で見た灰色の靄や街灯の違和感は、まだ消えない。
枕元には、占い師の名刺のようなカードが一枚。
《夢占い師・紫苑》
――これから起こることの、ほんの序章に過ぎなかった。
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