第三章:辺境の村での新たなスタート

所持金もほとんどない蓮は、アルトリアの町に留まることができなかった。


「辺境の村に戻るしかないか……」


失意の中、蓮はファルムント村へと戻る道を歩いた。


三日かけて村に戻ると、村長が驚いた顔で迎えた。


「おお、蓮くん。もう戻ってきたのか?」


「はい……勇者パーティーを追放されました」


事情を話すと、村長は深く頷いた。


「そうか……辛かったじゃろうな。じゃが、この村はお主を歓迎するぞ」


「本当ですか?」


「ああ。実はな、村に食堂がないんじゃ。みんな自分の家で食事をしておるが、たまには外で食べたいという声もある。お主、食堂を開いてみんか?」


「食堂……」


蓮の心に、小さな光が灯った。


そうだ。料理を作るのは好きだった。前世でも、客が喜ぶ顔を見るのが嬉しかった。


「やります。食堂、開きます!」


「よし!村の空き家を一つ貸そう。改装費用は村が出す。その代わり、村人たちに美味しい料理を食べさせてやってくれ」


こうして蓮は、ファルムント村で食堂を開くことになった。



* * *


空き家の改装には一週間かかった。


村人たちが総出で手伝ってくれた。


「レンさん、ここはこうした方がいいんじゃない?」


「テーブルはこっちに置こう」


みんなが親切で、蓮は温かい気持ちになった。


そして、ついに開店の日。


食堂の名前は『レンの食卓』。


シンプルだが、親しみやすい名前だ。


開店初日、村人たちが次々にやってきた。


「おお、これが噂の食堂か!」


「レンさんの料理、楽しみだね」


蓮は緊張しながら、最初の料理を作った。


メニューは『薬草シチュー』。


村の周辺で採れる薬草と、魔物の肉を使ったシンプルなシチューだ。


【神級調理】を発動。


蓮の手が自然と動く。薬草の毒を完全に抜き、栄養素だけを残す。魔物の肉は柔らかく、旨味を最大限に引き出す。


三十分後、出来上がったシチューは、黄金色に輝いていた。


「できました」


最初の客は、村長だった。


「おお、いい匂いじゃ」


村長がスプーンですくって口に運ぶ。


次の瞬間、村長の目が見開かれた。


「な、なんじゃこれは……!こんなに美味しい料理、食べたことがない!体が温まる……いや、それどころか、力が湧いてくる!」


村長のステータスウィンドウが光った。


「HP最大値が50上昇した!?」


周囲の村人たちがざわめいた。


「嘘だろ?」


「料理でステータスが上がるのか!?」


次々に注文が入った。


蓮は休む暇もなく、料理を作り続けた。


だが、不思議と疲れない。むしろ、楽しかった。


客の笑顔を見るたびに、心が満たされていく。


そうだ。これが自分のやりたかったことだ。



* * *


その日の夜、食堂の売上を数えた。


「すごい……一日でこんなに稼げるなんて」


村の物価は安いが、それでも十分な収入だ。


「これなら、やっていける」


蓮は希望を感じた。


だが、その夜。


不思議な夢を見た。


森の中に、一匹の小さな白い狐がいた。


「助けて……」


か細い声が聞こえた。


蓮が近づくと、狐は罠に足を挟まれていた。


「待ってろ、今助ける」


蓮が罠を外すと、狐は感謝するように蓮の顔を舐めた。


「ありがとう……」


人間の言葉を話す狐。


「君は……?」


「私は聖獣……この森の守護者……あなたは優しい人……また会いましょう……」


そう言って、狐は光の中に消えた。


蓮が目を覚ますと、朝だった。


「夢か……?」


だが、枕元に一本の白い毛が落ちていた。

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