第二章:勇者パーティーとの出会い、そして追放
アルトリアの町は、ファルムント村とは比べ物にならないほど大きかった。石造りの建物が立ち並び、人々が行き交う活気ある町。
冒険者ギルドも立派な三階建ての建物だった。
「すごい……」
蓮は圧倒されながら中に入った。
受付で紹介状を渡すと、すぐに面接に通された。
「ふむ、ファルムントのグレイからの紹介か。あいつも人を見る目があるからな」
面接官は四十代くらいの男性だった。
「調理スキル、しかも神級か。これは珍しい。実は今、ちょうど料理人を探しているパーティーがあるんだ」
「本当ですか!」
「ああ。勇者パーティーだ」
「勇者……!?」
蓮は驚いた。この世界にも勇者がいるのか。
「この国、グランゼル王国では、魔王復活の予兆があってな。王が勇者を召喚したんだ。その勇者、リオン様が今、パーティーメンバーを募集している」
面接官は蓮を勇者パーティーのいる部屋へ案内した。
* * *
部屋には四人の若者がいた。
まず目につくのは、金髪碧眼の美少年。十七歳くらいだろうか。間違いなく、これが勇者だ。
「やあ、君が料理人志望の?」
勇者リオンは爽やかな笑顔で手を差し出した。
「早川蓮です。よろしくお願いします」
「俺はリオン。こっちは――」
リオンが他のメンバーを紹介する。
「こちらが聖女のセラ。回復魔法の使い手だ」
銀髪の美しい少女が会釈した。同じく十七歳くらい。
「魔法使いのアルト。攻撃魔法が得意だ」
赤髪の青年が頷いた。
「そして剣士のガレン。前衛を任せている」
筋骨隆々とした青年が腕を組んで蓮を見下ろした。
「で、お前が料理人か。スキルを見せてもらおう」
ガレンの態度は明らかに偉そうだった。
蓮がステータスカードを見せると、リオンが目を輝かせた。
「神級調理!すごいじゃないか!これなら、冒険中の食事も心配ないね」
「ただの料理人に神級スキルとはな。無駄遣いだ」
ガレンが鼻で笑った。
「まあまあ、ガレン。料理は大事だよ。それに、調理スキルがあれば、ポーションの代わりにもなるかもしれない」
リオンのフォローもあり、蓮は勇者パーティーに加入することになった。
* * *
だが、それは地獄の始まりだった。
最初の冒険は、近くの森での魔物討伐だった。
「レン、お前は後ろで待機だ。戦闘が終わったら料理を作れ」
ガレンの命令に、蓮は従った。
戦闘はあっという間に終わった。勇者パーティーの実力は本物だ。
「よし、レン。飯を作れ」
「はい」
蓮は持っていた調理器具を取り出し、倒した魔物の肉を調理し始めた。
【神級調理】スキルを発動。
瞬時に蓮の手が動く。まるで自分の手ではないような、完璧な動き。
十五分後、香ばしい匂いが漂った。
「できました。魔物肉のグリルです」
皿に盛られた料理は、まるで高級レストランのような見た目だった。
「おお、美味そうだな」
リオンが一口食べた瞬間、目を見開いた。
「うまい!こんな美味しい料理、食べたことない!」
セラとアルトも次々に食べ、感動の表情を浮かべた。
しかしガレンだけは、複雑な表情をしていた。
「まあ、普通だな」
そう言って、残りを平らげた。
だが、その直後。
全員のステータスウィンドウが光った。
「え?攻撃力が10上がってる!」
「私の魔力も上昇してる!」
「これは……一時的なバフではない。永続的なステータス上昇だ!」
皆が驚愕する中、ガレンの顔だけが険しくなった。
* * *
その夜、宿に戻った後。
「リオン、ちょっといいか」
ガレンがリオンを呼び出した。蓮には聞こえないように、小声で話している。
だが、たまたま部屋の配置の関係で、蓮の耳に声が漏れてきた。
「あいつ、危険だ」
「レンが?どうして?」
「考えてみろ。あの料理で永続的にステータスが上がる。これがもし、俺たち以外の冒険者に広まったら?」
「それは……確かに、便利だけど」
「便利じゃない。脅威だ。もしあいつが敵対する国に行ったら、その国の戦力が跳ね上がる。あいつは戦略兵器なんだよ」
「でも、レンはそんなこと考えてないと思うよ」
「今はな。だが、いずれ気づく。自分の価値に。そうなったら、俺たちを裏切るかもしれない」
「ガレン、それは考えすぎだよ」
「いいや。用心に越したことはない。それに――」
ガレンの声が一段と低くなった。
「俺たち勇者パーティーが目立つべきだ。料理人風情に脚光を浴びせるわけにはいかない」
「ガレン……」
「明日、あいつを追放する。リオン、お前も同意しろ」
「そんな……」
「これは命令だ」
蓮は唇を噛んだ。聞いてしまった。自分は追放される。
翌朝、予想通りのことが起きた。
「レン、悪いんだけど、君にはパーティーを抜けてもらうことになった」
リオンは申し訳なさそうに告げた。
「理由を聞いてもいいですか」
「君の料理は確かに素晴らしい。でも、戦闘力がないのは事実だ。これから魔王討伐に向けて、もっと強力な仲間が必要なんだ」
「……分かりました」
蓮は何も言わなかった。どうせ、何を言っても無駄だ。
こうして蓮は、わずか三日で勇者パーティーから追放された。
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