路上占い、あれこれ59【占い師はお客さん】

崔 梨遙(再)

怒濤の2322文字です。

 三田社長という人がいた。僕が以前勤めていた会社の社長のお客さんだ。三田社長は、いつも嫌なことに僕を誘う。


 例えば、三田社長は、僕が1人残って会社でデスクワーク及びスーツが汚れる仕事をしていると、ふらりと会社に遊びにやって来た。


「社長、いる?」

「今、出てます」

「じゃあ、いいよ、俺が電話するから・・・・・・」


「あと1時間くらいで戻ってくるってさ、って、崔君、あんまりパッとしないスーツを着てるね」

「いつもはお気に入りのブランドのスーツを着てますよ。今日はスーツが汚れる作業をするので、古いノーブランドを着てきただけです。今日はアポイントも無いから、お客さんと会うことも無いですからね」

「崔君、一緒にスーツを見に行こう」

「はあ?」


 タクシーで15~20分。


「ここだよ。後で君のところの社長も来るように連絡してるから、この店で合流すればいいからね」

「あの・・・僕、スーツはこだわりがあって・・・」

「ここはオーダースーツの店だからね、身体にフィットするよ」

「いえ、あの・・・」


 オーダースーツはいいが、値段が安い。生地を見ても安っぽい。これなら、僕が気に入っているブランドのスーツの方が上等だ。


「三田社長、聞いてます?」

「ミカちゃん、崔君に会う生地、色とかはどんな感じかな?」


 ミカちゃんと呼ばれたのは30代後半と思われるスリムで長身の美人だった。美人だと認めるが、僕の好みではなかったので気にはならなかった。だが、三田社長の目の色と態度で、三田社長がミカちゃんを気に入っていることはスグにわかった。僕はミカちゃんと親しくなるための道具にされていたのだ。不快だった。


 ミカちゃんは、三田社長に冷たい。脈は無いように思えた。で、そのミカちゃんがうざかった。


「古いスーツですね」

「今日は汚れ仕事でしたからね。普段は〇〇〇〇のスーツを着てますよ」

「右肩が下がってますね、左肩が上がってる、やりにくいなぁ・・・」

「これは交通事故で・・・」

「あ、理由はいいです」


 なんという女だ!? 接客でこんな態度・言動があってもいいのか? 


 そして、僕は何も言わなかったのに、僕のスーツのイメージが出来上がっていった。シングル3つボタン、サイドベンツ、裾はダブル。もういい、早く帰らせてくれ! 僕はまだ仕事が残っているんだ!


「崔君、もう1着買っておこうよ」

「いや、もう充分です」


 なんで僕がこんな奴に気を遣ってるんだ? こいつは社長のお客さんであって、僕のお客さんではないぞ。社長のお客さんに失礼なことをしてはいけないから我慢しているだけだ。それがわからないのか? アホやな。っていうか、お客さんを紹介してもらうならわかるけど、なんで僕がお客さんになってるの?


 で、カード払いにして精算が終わったら、ウチの社長が来た。


「社長、バトンタッチです。僕、まだ仕事があるので会社に戻ります」


 結局、ウチの社長がうまく間に入ってくれたらしく、僕が買うはずだったスーツ2着は買わなくてもいいことになった。



 こんなこともあった。大阪は田舎にも有名な繁華街・歓楽街がある。三田社長と某歓楽街の話になった。


「あの歓楽街はねぇ・・・・・・」

「はあ、はあ・・・・・・」

「俺は長いこと通ってるからね」

「あそこ、お泊まりできる店があるでしょ?」

「そうなの?」

「はい。どういうことなのかわかりませんが、店の人に『今日は泊まりでゆっくりどうですか?』って言われて女の娘(こ)とお泊まりしたことがありますよ)

「何それ? 俺、そんなの知らないよ!」


 数日後、三田社長から電話があった。


「俺もお泊まりできる店を見つけたからね」


なんという負けず嫌い・・・。



 僕がフリーになってからも三田社長からの連絡はあった。いつ呼び出されても、ただ疲れるだけで、僕の収入には何も影響が無かった。


「崔君、お客さんを紹介してあげるから!」

「もういいですよ~!」

「とりあえず〇〇駅に来てね。〇〇出口。ガチャ、ツー・ツー・ツー」


「いったいなんなんですか?」

「相手は東京から来てるから、崔君に会わせるのにいい機会だと思ってね。東京の会社なんだよ。今日は経営幹部が全員揃ってる」


「こんにちは!」

「初めまして! 崔と申します・・・」


 おかしい。ずっと雑談してる。僕が占いをやっていると言ったら、そこから話に火が点いて盛りあがってしまった。僕は、その東京組の彼等から、


「何か不思議な体験は無いか?」


と食いつかれた。仕方ないので、小学生の時、夜に宇宙人グ〇イが家に入って来て、そこから記憶が無くなり気付いたら朝だった。数日後、緑の髪の女性達が夜に現れて、また気を失って気付いたら朝だった。という話を(苦し紛れに)してみた。


 すると・・・大盛り上がりだった!


 彼等が言うには、グ〇イが何かを僕に埋め込み、金〇人がそれを取り除きにやってきたとのこと。僕は、『絶対、嘘や~!』と思った。あんなのは夢! 夢! 『いやいや、あれは夢ですよ』と言ったら、『夢なら忘れてる、実際の経験だからおぼえているんだ』と言われてしまった。っていうか、僕はここで何をしてるの?


「あの・・・それで、僕は今日はなんで呼ばれたんですか?」

「あ、僕達、仮想通貨をつくるので、良かったら投資しませんか? 1口140万円ですけど」


 ガーン! 『お客さんを紹介してあげる』と言われたのに、お客さんは僕の方やないか! 僕がお客さんになってどうすんねん?


 僕はスグに、顔だけは笑顔のままでその場を立ち去った。


 しばらくして、また三田社長から電話があった。


「崔君! この前の仮想通貨の会社だけど!」

「どうかしたんですか?」

「倒産したわ!」

「はあ、それで?」

「崔君、投資しなくて良かったなぁ! まあ、俺も投資してないけど」



 誘ったお前も投資してなかったんかい!




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路上占い、あれこれ59【占い師はお客さん】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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