タービンは回るよいつまでも
前FTL文明保護観察官の仕事の一つに、現地文明への技術供与、というものがあるらしい。
要は明治期のお雇い外国人みたいな感じで前FTL文明に必要な範囲で必要な技術を注ぎ込んでいくといった内容のようだ。
太っ腹だな宇宙人。
現状、近世に列強がやってたような資源の人員の収奪とかも一切しないし、やることといえば政府中枢の上空に屯して圧かけながら惜しみなく技術と物資を供与。
人類がなんとなくイメージしてた保護国のイメージと全然違う。
なんか雛に餌あげたり狩りを教えてる親鳥みたいだな。
「ごく小規模。おおよそ月の半分程度の質量のブラックホールであれば――――」
そして俺のボスであるエルフ人観察官の専門はエネルギー分野ということで現在大学の大講堂のような場所で講義の真っ最中だ。
俺は助手として教壇の端で3Dのスライドらしき立体映像投影機のお守り。
スライドはボスが講義に合わせて動かしているので一度講義が始まってしまえばマジで何もすることがない。
暇つぶしがてら、数百人は入るだろう大講堂を見渡すと、壮年の技術者らしき男女から大学生みたいな子まで様々な受講生がボスの講義を真剣に聞いている。
一部のガンギマリっぽい技術者は目を血走らせてノートパソコンのキーボードを指で殴打して虐待してたり、半笑いでぶつぶつ言いながらコピー用紙に何かをかぎ殴ってる。
怖い。
一方で、同じく真剣な目線を向けながらも、どこかぽやぽやしている雰囲気のエリアもある。
あのあたりは多分大学生の招待席だな。
国どころか文明レベルで未知な最新技術の講義に何で大学生が? と思ったが、ボスたっての要望らしい。
エルフの考えることはよくわからんな。
「このように炉内で生成されたエネルギーはダークマター結晶を触媒に――」
ついでにボスの講義内容もさっぱりだ。
ホーキング放射がどーだの、ダークマターがどうだの。
錬金術かな? 来た? ファンタジー世界。
まあマジで日本の頭脳レベルの人たちが知恵熱出して勉強してようやく習得できるレベルの内容らしいから、わからないのは当然だと思う。
なんかブラックホールを良い感じにしてエネルギーをとりだす、くらいしかわからない。
取り出したエネルギーはどうするんだ?まさかお湯を沸かしてタービンを回すわけじゃないだろうし……。
「熱エネルギーに変換され、タービンを回します」
タービンを回すんかい。
え? 嘘でしょ?
ブラックホールを何やかんやしてすげえエネルギー取り出してやることがタービンを回すことなの?
「これは前FTL文明向けの初歩的なエネルギー源として使用されるもので、核分裂エネルギー文明からの脱却用に教授される技術となります」
あぁ、そういうことか。つまり現地の文明レベルに合わせていて、その変換方法が地球の文明レベルに合わせてタービンを採用している、と。
まぁそうだよなぁ。さすがに宇宙行ってまでタービン回し続けるわけないよな。
ほら、ガンギマリエリアの技術者の人たちちょっと困ってるじゃん。
「ここまでで何か質問がある方は?」
ボスが一拍おいて講堂を見回すと大学生が挙手をする。
「結局、最終的にはタービンを回す方法になるんですか?タービン以外の方法はないんですか?」
「良い質問ですね。」
来てほしかった質問ですよ、といった体で微笑むボス。
「我々銀河連邦の最新技術では反物質炉を使用し、ブラックホール炉の10乗のエネルギーを抽出し……」
「―――ダークマター結晶で熱エネルギーに変換してタービンを回します」
最新技術でもタービンなの??
宇宙人? ちょっと??
「結局のところ、電気エネルギーを主軸にした文明においては最終的にタービンを回すことが最適解となるわけです」
「えぇー……」
少し残念そうな大学生。
ガンギマリ技術者の方は……あれ? なんか納得してるっぽい。
「まあそうなるか。……技術は魔法じゃないからなぁ」
一瞬静寂が訪れた講堂で誰かがつぶやいた言葉が響く。
なんとなく腹にすとんと落ちた。
そっか。そうだよなぁ……宇宙人だって、俺たちの延長線上にいるわけだしな。
「宇宙の技術もファラデーがつかめる範囲ってことだな!希望が湧いてきたぞ!」
そしてなんか勝手に盛り上がってくるガンギマリエリア。
怖。近寄らんとこ。
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