お金がもらえる映画館

病気の治療

「最近どうも腰の調子が悪くて……」

「病院は？」

「あんなの高くていけませんよ」

「それじゃ映画館は？」

「なんで？　病院と双璧をなすのがなんで映画館？」

「いやお金ないって言ったから」

「お金なくて映画館いくんですか」

「行くでしょ。え？　いかないの？」

「は？」

「ん？」

お互いに顔を見合わせた。

その顔はお互いに"なにいってんだコイツ"という顔だった。

話を聞いてから指定された映画館に向かう。

不思議なことに映画館のホールには映画のポスターもない。

「いったい何が見れるのかわからないじゃないか」

よく見るとチケットカウンターもない。

「あのすみません。チケットはどこで買えば？」

「あ、そういうのないんで直接スクリーンまでどうぞ」

「フリー入場！？」

上映中のスクリーンの前を横切ったら、

ポップコーンでも投げられるんじゃないかとビクついた。

上映会場はどこも人でぎっしり。

みんな一心不乱に映画のスクリーンを見ている。

「そんな面白い作品が……？」

やっと空いた席についてスクリーンを見る。

スクリーンでは今まさにカーチェイスの真っ最中。

車と車がクラッシュし、主人公は車からはじき出された。

ボロボロの血だらけで倒れる主人公。

観客は彼の行く末を固唾をのんで見守る。

『クッ……！　体が……動かない！！　特に腰がっ……！』

そして画面は一点。

大きなロゴが表示される。

『ラララ～～♪　腰にお悩みなら、〇〇病院』

物語は幕を閉じ、次の物語がはじまった。

「……え？　CM？」

本編が始まってないのかと思っていたが

待てど暮らせどいっこうに本編がはじまる気配がない。

ここはどうやらCMだけを流している映画館だった。

「くっそ、だまされた！　金がないから映画館きたのに！

　たんに金がなくても見られる映画館ってだけかよ！」

こんなにも意識を集中してCMを見たことはなかった。

それだけに時間の浪費感はすごかった。

スクリーンを出ると、映画館スタッフが待っている。

「おかえりなさい。のべ15CMなので、こちらインセンティブです」

「は？」

出口でお金を渡された。

「このお金は……？」

「CM視聴料金です。見たCMの数に応じたお金をお支払いしてます」

「お金がもらえるんですか！？」

こんなことならもっと見ればよかった。

やっと映画館をオススメされた理由がわかる。

「まだまだ治療費には足りない。もっと見なくちゃ！」

大画面で映画を見続けること数時間。

翌日の仕事に影響が出るほどにCMを見まくった。

「おはようございます……」

「うわ、目のクマすごいぞ。そんなに夜ふかししたのか？」

「映画館でCM見てまして……。

　でもまだまだ腰の治療費には届かないんです」

「そんなに必要なら、別の場所へいけば？」

「別の場所？　CM放映している映画館が別にあるんです？」

「むしろそこに特化している場所だ」

紹介された場所もCM専門の映画館。

驚いたのはCM内容よりも映画館の仕組みだった。

「が、画面が４つも！？」

巨大なスクリーンは四分割されており、

4画面でそれぞれ別のCMが放送されていた。

1分のCMだとしても、それが4個同時に見られる。

つまりこの映画館でなら4倍のインセンティブが期待できる。

「なんて効率的な映画館なんだ！

　ここで治療費を荒稼ぎするぞ！！」

4画面同時CMはたしかに効率的ではあるものの、

1画面よりもずっと脳疲労がすごかった。

音はまざりあって何言ってるかわからないし

映像もせわしなく4画面動き続けるので目が休まらない。

そのうえ、どうやらCMも倍速再生されている。

CMをいくつも見るための映画館の工夫なのだろう。

おかげでますますCMの切り替えが早くて脳が疲れる。

途中から拷問のような視聴体験となるも、

それでも治療費を稼ぐためにと自分を必死で座席にしがみつかせた。

やがて本日の上映時間が終了する。

「当館のご利用ありがとうございました。

　こちら、あなたが見たCMぶんのインセンティブです」

「ありがとうございます……！

　これだけあれば1回分の治療費が出せる……！」

受け取ったお金はついに治療費1回分の目標額に到達。

ここまでの道のりは楽なものじゃなかった。

やっと治療へとこぎつけた。

受け取ったお金をにぎりしめて病院へ。

待合室で名前が呼ばれる。

「XXさん、診察室へどうぞ」

「待ってました！！」

やっとこの病（やまい）から解放される。

このときをどれだけ待ったことか。

診察室へ向かう。

「XXさん、こんにちは」

「こんにちは！！！」

「どういった症状を治したいのか、教えてもらえますか？」

「実は……」

医者に向けて今いちばん自分が悩んでいる症状を話す。

「起きているときも、寝ているときも

　CMの曲や映像が頭から離れられなくなって

　日常生活に支障が出始めているんです……」

医者は少し悩んでから病名を告げた。

「反復性CM残響障害ですね。最近多いんですよ」