原罪のオトシゴ。 ―妖骸星鴉エトレーヴェ―
手嶋柊。/nanigashira
1.裏切り者は誰か
第1話 ヤシャ
コウが駆け寄ると、自分の妹くらいの年の少年エルフが息も絶え絶えになっている。火傷の範囲が広すぎて、現場にある機材ではもう助からない。
「しっかりしろ、いま助ける!」
「もー、いい……」
「いいってなにが!?」
「や、しゃ」「ヤシャ?」
身体が力が抜け、コウは揺さぶり続け、救命措置も施したが、やがて手を止める。
「おい、しっかり――くそ!」
*
彼女はいたましい顔で、現状を告げた。
「敵は単独で、エルフの集落を焼き討ちした。残念ながら、ここでは誰も生き残らなかった。
私らに遺された手掛かりは、池緒くんが聴いた『ヤシャ』という言葉くらいね。
相手は子どもまで手にかける、鬼畜には間違いない。
私たち額縁市からの派遣部隊は、他の残存集落から集まった、エルフらによる敵の掃討作戦に協力することとなったわ。もっとも、積極的な武力行使は避けられたし――ここは彼らのフィールドであることを、くれぐれも念頭に入れて各人は動くように」
「「「「「了解」」」」」
小隊の四人とアドバイザーのひとりは、命令を受諾する。
ずっと苦い顔をしているコウを案じて、小隊の
「池緒くん、じゃなかった隊長、大丈夫ですか?」
コウこと
「え、あぁ。問題ないよ、動けるから」
「すこし休んだほうがいい。目の前で死なれたんでしょ」
「そんなの……みんなそうじゃないか」
そこへアドバイザー役の青年、
「休んでおくのも必要だ、でないといざという時動けない」
「飴川くん、――わかったよ」
「じゃあ十五分ほど仮眠をとって。
ほかはこっちで済ましておくから」
言われてコウは、膝を落として駐機するパワードスーツへ向かう。
ノイは雫に語りかける。
「アドバイザーさんは、池緒くんと昔からのお知り合いなんですよね。普段は頑固なのに、あなたの言うことはすぐに受けいれますよね」
「自分の妹くらいの子に目の前で死なれて、堪えてるらしいな。
この程度のことで」
「?」
「立ち止まっていたら、次はうっかり死んでしまいそうだ 」
ノイは直前までの労いが嘘のように、雫から厳しい言葉が出たことに当惑するけれど、彼は部隊のアドバイザーであり、ほかの同僚たちとは事情も違うということで、深く追求することもできなかった。
十七――自分たちとさして変わらない年齢で、いくつもの死線を知っているかのよう。
「浮橋、
ヒサゴこと
新人研修では小隊のみなが扱かれたのだから、仕方ない。できれば優しい金華先輩と組んで動きたかったけれど、
「緊張しているのか、荏原くん」
「え、は、いえ!?」
「あまり気を張っても仕方ない。もっとも人命が関わっている。
自分だけの命ならとかく、隣人の死というのはあとから堪えるもんだ。池緒くんのようになりたくなければ、腹を括れ」
(このひと、時々コウには当たりが強いような……あんまし目ぇつけられたくないなぁ)
「アドバイザーは、なんで平気なんですか……ごめんなさい、そういうことが言いたかったんじゃなくて」
「わかっている。平気だとしたら、エルフが人間じゃないからかな」
「?」
「ヒトの身体に尖った耳とか、ファンタジー生物ってほんとにいるもんなんだねぇ。
「――」
責任感も緊張も持っているひとなのに、妙に軽薄な態度だった。早期から僕らをここまで叩き上げてくれた恩人でもあるんだけど、いまいち掴みどころがない。味方としては間違いなく頼もしい、そのはずだったが。
「でも、言葉もちゃんと通じるなら、それは人間と違わないんじゃ」
「感性の問題だよ。彼らを対等な交渉相手として扱いたいってのは、きみの大好きな金華先輩も似たようなお考えだし。ただし、僕は彼らをヒトとして共存できる存在とは感じない、それだけのことだ」
「すいません、ナマ言ってしまって……」
「いや、これぐらいは答えるよ。欠かすといざというとき、連係がとれないだろう」
「それで、あの、オレが天知先輩のこと、好きって――」
「本人は気づいてないだろうけど、あのひと競争率高いぞ?」
「まじすか。内緒にしといてくれません、後生ですから!?」
「中学生じゃあるまいし、ピュアだねぇ」
ようは暴露などくだらない、そういうことだろう。
『エルフは長命種ってのがお約束だそうだが、ここでの実態は一部の高位を除けば大半は人間と変わらない成長をするそうだ。襲撃された集落の平均年齢も、実際は三十から四十代前後だったらしい。エルフたちの情報では、潰滅した集落を含めた“七つの海”があり、遺る六つは僕らを当て馬にする気だ』
「この小隊で、そんな敵の迎撃なんて可能なんです?」
『普通に考えて、無理だろう。俺たちにできるのはあくまで協力だ、どう転んだところで彼らの懐は痛まず、向こうはこちらへ責任を擦り付ける腹積もりだ。
額縁市は、エルフの郷からの貿易と独自に資源を回収したいから、僕らもある程度までは彼らの言い分に沿って動かざるをえない』
「相手が鬼畜とわかってる、かりに俺たちがやられたらどうなるんですか」
『そうならないようにするのが、僕と金華先輩のお仕事だからね。あるいは池緒くんがそうならなくてはいけない』
「――、敵はまだ近くにいるんでしょうか。移動している可能性だって」
『ぶつかってみるまではわからない、だから行くんだ』
久伍は童貞のまま死にたくないなと、ぼんやり考える。これから起こる面倒くさいのをあまり考えたくなかった。
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