私も竜騎士の筈なのに、私のりゅうだけなんか違う
結城ヒカゲ
第1話
「八〇名の新入生の皆、先ずは入学おめでとう。竜騎士養成学校は君達を歓迎する。僕は長ったらしい話は好きではない。だから、僕から君達へ贈る言葉は一つだ。竜を愛せ。以上」
自信に満ち溢れた表情で生徒会長のエリナリーゼ・フォン・ゴールドバーグ様は、黄金に輝く長髪と豊かに実った双丘を揺らしながら壇上を後にする。
この国の第三王女であらせられるエリナリーゼ様の美貌と不思議な引力を持った力強い声は、端的な挨拶一つで新入生達を虜にした。
かくいう私も、宝石よりも強い輝きを放つ金の双眸に見入ってしまった。
その後は、なんか偉いおじさんがエリナリーゼ様の嫌いな長ったらしい話を始めた。話の内容は覚えていないけど、私の席から見えたエリナリーゼ様が何度も欠伸していたのはよく覚えている。
入学式が終わり教室に戻る。階段状になっている教室は、後ろの席に行くほど高くなっている。
席は自由、というのは罠で、子爵家の次女である私が最後列に座ろうものなら、なんだこいつ生意気だな、といじめの標的にされてしまう。
なので私は目立たないよう、前の方の窓際の席に座る。
ぼー、と外を眺めていると、他に席が空いているのにも関わらず何故か私の隣に座る変わった女の子が、剰え私に話しかけてきた。
「隣よろしいですか?」
もう座ってるじゃん。
「席は自由ですから。ご自由にどうぞ」
あれ、この人見た事あるな。
白銀の髪をハーフアップに纏めた女の子は、人形のように整った顔でクスクスと幼子のように笑う。
「失礼しました。わたくしは、スピカ・シルヴァスターと申します。以後お見知りおきを」
銀髪銀眼。そうだ、なんで気づかなかったんだ。私は馬鹿か。
スピカ・シルヴァスター。シルヴァスター侯爵家の長女。大貴族の御令嬢じゃん。
「大変失礼致しました。私は、ミラ・ブルーロータスと申します」
慌てて立ち上がり貴族式の礼をすると、スピカ様は寛大なお心で許して下さった。
座るように促されたので素直に従うと、スピカ様はにっこりと女神も嫉妬するようなこの世の全てを魅了する微笑みを私だけに向ける。
「実は、以前パーティーでお見かけした時からお話してみたいと思っていたのです。その時はわたくしも忙しく声をかける事ができませんでしたが、まさかこんな所でお会いできるとは思いませんでした」
嬉しそうに声を弾ませるスピカ様は、両手で私の手を包み込む。
私みたいな木っ端貴族の次女を憶えて下さっていたなんて。なんて素晴らしいお方なのだろう。好き。
誰だ、スピカ様の事を変わってるなんて言った奴は。ぶっ飛ばすぞ。
「光栄にございます、スピカ様」
「様なんていりません。わたくし達は、共に学ぶ同輩。つまらないしがらみなど忘れ、わたくしとお友達になっていただけませんか?」
両手で包んだ私の手を胸に寄せ、上目遣いで私を見つめるスピカ様。
それは反則だよ。こんなの断れるはずがない。後ろでスピカ様の取り巻き達が凄い顔で睨んでいるけど、この上目遣いの前では無に等しい。
「私なんかでよければ」
パッ、と笑顔の花が咲き誇る。勢いよくスピカ様が身を乗り出し、そのご尊顔が私の眼前に迫る。
「ありがとうございます、ミラさん! わたくしの事はスピカとお呼び下さい!」
少し甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。スピカ様——スピカは私の手を膝の上に戻し、自然な動作でスカートから伸びる私の太腿を撫でる。なんで?
「あの、スピカ?」
「ああ、なんて美しい青髪なのでしょう」
太腿を撫でるのとは反対の手で肩から胸に流れる私の髪を掬い、サラサラと流れ落ちるそれをうっとりとした表情で眺める。
「それに、
白魚のような細く小さな手が私の頬に添えられる。
何が起こっているのか、脳が理解を拒絶している。ただ、顔に熱が集まっている事はわかる。
逃れようにも銀の視線が私の瞳を掴んで離さない。
「やはり貴女はわたくしの——」
「席に着け。授業を始める」
スピカが何か言いかけたところで、教師が教室に入ってきた。
助かった。あのまま続けられていたらどうなっていたか。いや、まあ、教室で変な事は始まらないだろうけど。
「あら、残念です。ではミラさん、続きはまた後で」
助かってなかった。入学早々、ヤバそうなご令嬢に目をつけられてしまった。私の学校生活はどうなってしまうんだ。
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