第32話 三人の交合:歪んだ安息(後編)
俺の部屋の空気は、三人分の熱と、絡み合った体臭、そして欲望の匂いで、飽和状態にあった。右に文香、左に菜月。二人の幼馴染の身体に挟まれ、俺はその中心で、絶対的な支配者としての全能感と、この状況を作り出してしまったことへの、麻痺した罪悪感に浸っていた。もはや、この関係に名前などない。友情は、あのラブホテルの夜に死んだ。そして今、その死体の上で、俺たちは、性という名の、より原始的で、より強固な絆を結び直そうとしている。
俺はまず、俺の背中にそのしなやかな身体を預けていた菜月の方へと、向き直った。彼女は、俺が選んだことを、当然のこととして受け入れ、その大きな丸い瞳で、俺をじっと見つめ返してくる。その視線には、文香に対する明確な優越感と、「こいつは私のものだ」という、揺るぎない独占欲が宿っていた。
「……菜月」
俺が彼女の名を呼ぶと、菜月は、満足げに微笑み、俺の唇を、自らのそれで塞いだ。そのキスは、もはや悪ふざけの延長線上にあるものではない。それは、この歪んだ三角関係における、自らの正妻としての地位を、改めて俺に刻みつけるための、力強い宣言だった。
俺は、彼女の小柄な身体を抱きしめ、その上に、ゆっくりと覆いかぶさった。彼女の肌は、興奮で熱く、俺の身体を受け入れる準備が、既に完全に整っていることを物語っていた。俺の肉塊が、夏祭りの夜以来となる、彼女の身体の最も奥深い場所へと滑り込んでいく。
「んっ……、ゆうき……」
菜月は、甘い喘ぎを漏らしながら、その脚を、俺の腰に強く絡ませてきた。その動きには、文香に見せつけるかのような、あからさまな挑発が込められている。俺は、その挑発に応えるように、ゆっくりと、しかし、力強く、腰を突き上げ始めた。
ベッドが、俺たちの動きに合わせて、規則的なリズムを刻む。その音だけが、この部屋の唯一の音楽だった。菜月は、声を殺すことなく、俺の動きの一つ一つに、官能的な喘ぎで応える。彼女のその大胆さが、俺の支配欲を、さらに強く掻き立てた。俺は、彼女のコンプレックスである小さな胸を、愛おしむように揉みしだき、その頂点に、唇を寄せた。
「あ……っ! だめ、そこ……!」
彼女の身体が、大きく跳ねる。俺は、彼女の弱点を知っている。そして、その弱点を、誰よりも深く愛することができるのも、俺だけなのだ。その事実が、俺に、絶対的な優越感をもたらした。
俺たちの結合は、数分間、続いた。それは、互いの存在を、互いの身体に刻みつけるための、激しく、そして濃密な時間だった。俺が、彼女の中で、その熱い奔流を解き放った瞬間、菜月は、甲高い絶頂の叫びを上げ、俺の背中に、その爪を強く立てた。
行為の後、俺は、汗で濡れた彼女の額に、そっとキスを落とした。菜月は、満足げな表情で、俺の胸に顔を埋めている。その姿は、戦いに勝利した、女王の休息のようだった。
そして、俺は、静かに、その隣で、息を殺して、俺たちの行為のすべてを見つめていた、文香へと、視線を移した。
彼女は、俺と菜月が一つになっている間、一言も発しなかった。ただ、その黒縁眼鏡の奥の瞳で、俺たちの身体の動き、交わす視線、そして漏れる喘ぎ声のすべてを、まるで文学作品でも分析するかのように、冷静に、そして熱心に、観察していた。その瞳には、嫉妬の色はもはやない。あるのは、自分もまた、あの快感の渦の中に身を投じたいという、抑えきれない渇望だけだった。
俺が、彼女の方へと身体を向けると、文香は、自ら、その白い脚を、ゆっくりと開いた。それは、言葉にならない、しかし、何よりも雄弁な、誘いだった。
俺は、菜月の身体から離れ、今度は、文香のその豊満な身体の上に、自らを重ねた。彼女の肌は、菜月のそれとは対照的に、ひんやりとして、そして驚くほどに滑らかだった。その感触が、俺の欲望を、再び呼び覚ます。
俺の肉塊が、彼女の身体の奥深くへと侵入していく。文香の口から、あのラブホテルの夜と同じ、理性を失った、甘い喘ぎが漏れた。
「あぁ……佑樹、君……。やっと……」
彼女の身体は、俺の肉塊を、まるで待ち望んでいたかのように、そのすべてで受け入れた。菜月との交合が、互いの支配欲と独占欲をぶつけ合う、激しい戦いであるならば、文香とのそれは、彼女のすべてを俺に委ね、俺の欲望の色に染め上げていく、支配と服従の儀式だった。
俺は、彼女の白い肌の上に、いくつもの鬱血の跡を残しながら、その身体を、貪るように求めた。文香は、その痛みさえもが快感であるかのように、恍惚とした表情を浮かべ、俺の背中に、その腕を強く回した。
「もっと……もっと、汚して……。私は、もう、佑樹君だけの、ものだから……」
その言葉が、俺の罪悪感の最後の欠片を、完全に消し去った。俺は、もはや、親友の恋人を抱いているのではない。俺は、俺だけを求め、俺だけによって満たされる、一人の女を、ただ、愛しているのだ。
俺が、彼女の中で、二度目の絶頂を迎えた時、文香は、涙を流しながら、何度も、俺の名を呼び続けた。
すべての行為が終わり、俺は、二人の幼馴染の間に、横たわっていた。右腕には文香の、左腕には菜月の、温かい体温。部屋には、三人の汗と体液が混じり合った、濃厚な匂いが充満している。
罪悪感は、もはやなかった。そこにあるのは、この歪んだ関係性が、もはや日常として、安定的に始まってしまったという、奇妙な、そして抗いがたいほどの、安息だけだった。俺たちの友情は、この夏休みの終わりに、完全にその形を終え、代わりに、俺たちは、誰にも壊すことのできない、歪んだ三角関係という名の、新しい絆を手に入れたのだ。
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