第8話



 逃げ出した男の背にサンドドラゴンが爪を立てた。

 そのまま地面に押し倒す。

 大きな顎を開き男の背に噛み付こうとした、その首を駆け抜け様にエドアルトが馬上から叩き落とす。


 ギャオオォォォン!


 竜の悲鳴が砂漠の空に木霊する。

 もう一匹がエドアルトの背後を狙って飛来した。

 突進力で相手を一撃で仕留める時の態勢だ。

 馬の足などでは到底、竜からは逃げ切れない。


「危ないっ!」


 誰かの声が飛んだ。

 エドアルトは寸前まで竜を引きつけると、馬の背を蹴り上げ宙返りしながら竜の一撃を躱す。

 そして背を向けたまま大剣を振り回し、竜の背に剣を突き刺した。

 自分の突進力で剣の刃は竜の脳から尾まで一直線に走り、その身体は真っ二つになりながら砂漠へと墜落した。


「どわっ!」


 勢い余ってエドアルトは背中から砂の上に落ちてしまった。

 

「つぅ~~~~~~~…………っあっ!」


 しばらく体中の痛みに苦しんだが、はっと気付き慌てて身を起こす。

 ダークドラゴンの骸の巨体が立ち上がり、こちらに駆けて来る一台の馬車を狙った。

 骨の翼が広がる。

 攻撃態勢だ。

 馬車に乗ってる者も、後続の馬車の人々も皆、この数秒後に訪れる惨劇を想像して目を瞑った。

 エドアルトの目にだけ御者台に片手をつき、片手は天に掲げて眼を閉じる緑の術衣姿が見えた。


 彼の身体は光を帯びている。



「天地縦横に伝う精霊の帯。

 神眼を開きて今解き放て!

 ――其は真理の書に記された最古の剣」



 三つの魔法陣が宙に浮かび上がり真紅の炎を帯びた。





「【連立の業火ファナフレム】!」





 命のままに三つの魔法陣が同時に火を吹いた。

 立ち上がったダークドラゴンの胸部を一撃で吹き飛ばす。

 一閃した炎撃が向こうに浮かんだ魔法陣に跳ね返り、

 粉々に砕いた敵の身体を今度は青い炎で焼き尽くす。

 青い炎は元の魔法陣に戻りその光の円はボボボ……と炎を逆巻きながら宙に消えた。


 灰が雪に混じって降り注いだが、それはすぐに止んだ。

 あとにはただ白い雪が静かに砂漠へと舞い落ちるだけだった。



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