第10章 シン・後夜祭

皓太の言葉に動揺しながらも、

俺は思った。


──まあ、それしかないか。


皓太の真意は分からない。

ただ、合理的に考えれば、それが正しい選択だと思った。


ネカフェ、カラオケ。

そんな選択肢もあった。

でも、親友との別れを終えた俺たちにとって、

そこはあまりにも“現実”すぎた。


せめて柔らかい寝床くらいは、

必要だろう。


俺はそんな言い訳で、

自分自身を納得させた。


大きな傘も、

おっさん二人を包むほどの広さはなかった。


お互いの肩を濡らしながら歩く。

何度となく繰り返した、あの日のように。


ホテルへ着く。


なんのことはない。

都会のホテルなんて、

それがビジネスであれラブであれ、関係ない。

ただ宿泊客を受け入れるだけだ。


濡れた身体を温めるように、

交代で風呂に入る俺たち。


──そして。


激しい雨音にもかき消されない、

俺たちの鼓動と、吐息。


ただ激しい雨に打たれたように濡れる身体。

交わる視線。


それが正しいのか、間違っているのか。

そんなこと、もうどうでも良かった。


ただ俺たちは、

ひたすらにお互いを求めた。


その答えを、

分からないままに。


「……雨、すげぇな。」


一度目の逢瀬を終えた皓太は、

俺に覆いかぶさるようにして、そう言った。


俺はただ頷いた。

語彙なんて、もう残っていなかった。


「雨より光希の方がうるさかったけどな、笑。」


「死ね、豚。」


皓太の軽口に、

俺はあの日のように答えた。


「悪い……こんな日なのに、すまん。」


皓太が真面目な顔をするのは、

あの日、最後の逢瀬以来だった。


「ああ、気にすんなよ。

 汚ねぇ顔がもっと汚いから、もうそれ以上喋るな、笑。」


俺は、そう強がった。

うん。

強がった。


そして十年ぶりに重なり合った身体の熱を、

味わいながら眠った。


──それが、この日のいちばん正しい終わり方なんだろう。


そう、思った。

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