🌧 第4章 皓太

「光希。」


俯いて会場を後にしようとした俺に、あいつが声をかけた。

あいつに“光希”と呼ばれるのは、もう十年ぶりか。


人前では決して光希とは呼ばなかった。


ミッキー。

それが、俺の呼び名だった。


尊人と出会い、皓太と出会い──

俺たちは、

俺と皓太は、

結ばれた。


一時のゲリラ豪雨のように、激しく。


皓太はフットサルサークルではなかった。

だからOB会に出席することもない。


会うのは、尊人の結婚式以来だった。

尊人とは時々会って飲んでいたが、皓太と二人きりで会うことはなかった。


俺は大学卒業後、上司に紹介された元妻と結婚した。

それから、互いに二人で会うことを避けるようになった。

たぶん、皓太も同じだったのだろう。


俺が結婚して三年で離婚。

……まあ、いろいろ事情はある。

俺の至らなかったところ。元妻の不貞。

まあ、いろいろだ。


五年前、尊人の結婚式に招待されたとき、俺は言った。

「俺、行っていいの? 縁起悪くね?」


離婚して一年。

そんな俺を、尊人は笑って言った。


「お前が来んくてどうすんねん!

縁起も何も、ミッキー悪ないんやから堂々と来い!

……ってかそんなん気にするキャラじゃねーやろ、笑」


そう言って俺を招いた尊人と美奈。


うん。ありがとう。

お前らのおかげで、俺はどれだけ救われたか。


そして皓太。

何も言わず、俺の隣の席で笑っていた。

そして俺と一緒に、尊人を祝うカラオケを歌ってくれた。


そして今──。

泣き腫らした俺を見つめ、静かに佇む皓太。


……なんでこのタイミングなんだ。

尊人。

お前は俺たちのことを、

俺たちの関係を、

知っていたのか?


そんなことを考える余裕もなく、俺はただ皓太を見上げた。


「尊人に会ってくる。」


一言そう言うと、皓太はそのまま尊人のもとへ向かった。


少し、肩が濡れていた。


傘……持ってなかったな。


皓太も、変わってないんだな。

あの日と、何も。


少しずつ強まる雨が、やがて弱まるのを待ちながら、

俺はその場に立ち止まった。


それが本心なのか、皓太に再び会ったことへの言い訳なのか、

自分でも分からない。


……いや、多分、俺は止まりたかったんだろう。

ただ、その言い訳が欲しかった。


雨はいつだって、俺に都合よく降ってくれるわけじゃない。

けれど今だけは、それを利用させてもらおう。


そんな意識もなかったとは言えないが、

俺は雨足が弱まるまでの少しの間、

ここで待たせてもらうことにした。


皓太と、一緒に。

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