第2話 火と鉛

LAPD射撃場、午前10時。

新人は笑顔だった。

ゴーグルが少し大きく、胸ポケットにはノート。

まるで夏休みの自由研究だ。


一方、ボビー・キャラハンは無言。

葉巻をくわえ、紙の標的を指差す。

「Lesson1。

頭に3発、心臓に3発。

瞬きより早くリロードだ。」


アレックスは姿勢を正し、グロックを構えた。

パン、パン、パン。

——天井。

——壁。

——安全第一の看板。


標的は無傷。

周囲の刑事が怒声と悲鳴を上げる。

ボビーは振り向きもせず、低く呟いた。

「……泣けるぜ。」

アレックスはめげない。

「練習すれば上手くなります!

父もいつも——」


ボビーは目の前の坊やをガン無視し、右腕を素早く動かす。

黒いロングトレンチレーザーコートから、巨大な銃。

違法改造を施されたスミス&ウェッソン社製 .44マグナム。

通称「バイバイ」。


引き抜きから発射まで、0.12秒。

照準なし、横撃ち。

——一発。

100メートル先の梁から黒い影が消えた。

蠅だった。

誰も見なかった。

いや、見ようとしなかった。

この世界に今の現象を正確に理解できる者は存在しない。


ボビーは煙を吐く。

「これが答えだ。」


アレックスはノートを取り出し、書き込む。

“Lesson learned:LAPDの訓練では闇を撃つ。”

その頃——マイアミ。

巨大企業「ビッグバン・コーポレーション」。

研究員たちはボビーの弾道データを解析していた。

結果:物理法則を無視。


若いインターンが恐る恐る尋ねる。

「CEOアレックス・ジュニア……

なぜタイプ・ボビーの弾道は物理法則を無視するのでしょうか?」

重い沈黙。

CEOは葉巻を咥え、低く笑った。

「新人か?

いいか、BBCじゃ質問する前に耳毛を抜け。

ブラックボックスを覗いた奴は——

翌朝、生きてねぇ。……次。」


夜。

LAPD地下駐車場。


弾痕だらけのマスタングが、闇に沈んでいた。

アレックスは肩をさすりながら乗り込み、

ボビーは葉巻に火を点ける。

「Lesson2。

この街に秩序はいらねぇ。

必要なのは、“家賃の回収”だ。」

アレックスはノートを開き、笑顔でうなずいた。

「家賃?……何かの隠語ですかね?

了解です、ロサンゼルス流ですね!」


その笑顔は、誰も救わない。

マスタングが吠える。

ネオンが流れる。


第二夜が、幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る