第7話 ドゥラーク公爵家の犬と兎 その三
11月26日 午後18時12分
王国『パラティーヌ』
ドゥラーク公爵家・地下室にて。
質素なベッドに寝そべっているジュアンは、天井を見上げていた。
書斎にいたことを使用人に見つかり、「執事に言い付ける」と言われた後の記憶があまりない。
気づけば
体のあちこちが痛い。あまり記憶がない中、彼は『あれ』だけは覚えていた。
(床に倒れて、『お仕置き』を耐えている時……アザや傷だらけのルエムと目があったことだけ、覚えている…)
ジュアンは両腕を掲げる。リアンに治してもらったばかりなのに、アザや切り傷などが沢山あった。
(痛い…。たぶん、ルエムも
ジュアンとルエム。この二人は、ドゥラーク家には居場所がない。立場が使用人より下なのだ。
14年前。現ドゥラーク公爵の実父が、『禁忌の魔法』を用いて作り出した魔物。それがジュアンとルエム。
ある奴隷商人から買った、双子の兄弟を用いて作られた、死ぬことも老いることもない、魔法も扱え、動物にも変身できる人工の魔物。
使用人より身分や地位が低いのに、リアンや現ドゥラーク公爵は、ジュアンとルエムに優しくしてくれている。
(それが……執事や、元ドゥラーク公爵様や、使用人さんたちが、僕たちに強く当たる原因になっているのだけれど……)
ジュアンは腕を下ろし、泣きそうになるのを押さえ込むかのように目を閉じたのであった。
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11月26日 午後18時12分
王国『パラティーヌ』
ロスペン侯爵家・聖女の部屋にて。
薄い生地でできた白地のワンピースに身を包んでいるシオン。椅子に座り、テーブルの上に肘を乗せて考え事をしていた。
(さっきの…ケーキとか食べていた時に、『聖女の力』が使えた。あれは、ただ単に思い付きでやったんだけど……。まさか…浮くとはね……)
ティーカップを浮かせてしまった時の記憶を思いだし、シオンは乾いた笑い声をあげてしまう。
(これで私が『聖女様』だってことは分かったし…。25歳まで、国につかえないといけないのか…)
シオンは、大きなため息を付いた。
(結婚とか…どうするのだろう…。国が何とかしてくれるのかな……)
先の未来を心配しながら、シオンは窓の外を見やる。光輝く、綺麗な満月が彼女を見下ろしていた。
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