第6話 ドゥラーク家の犬と兎 その二

 アザが治ったかどうかを確認し終わったリアンは、ジュアンの左手から手を離す。


 だが、彼はあるモノを見つける。ジュアンの顔に涙が流れた痕があったのだ。


「やっぱり、あのすすり泣く声はお前だったか。ジュアン」


 涙を流していたことをバレたジュアンは、怯えた表情で、必死に目を擦り始めた。その光景にリアンは目を丸くする。


「ジュアン……?なんで…必死に目を擦るんだ?」


 リアンの質問に、我に帰ったジュアンは擦る手を止め、手をしたに下ろしながら気まずそうに答え始めた。


「あ、いえ…その、目が…痒くなってしまって……」


「そうか、そうか。だが、あまり強く擦るなよ?目が赤くなってしまう。良いな?」


「……はい、分かりました」


     ーーーーーーーーーー


 11月26日 午後5時29分

王国『パラティーヌ』

ドゥラーク公爵家・書斎にて


 書斎の扉が三回、ノックされる。


「入れ」


 リアンがそう言う。扉を開けてなかに入ってきたのは、白髪の青年・ルエムだった。


「おぉ!ルエムか。お帰りなさい」


「リアン様、只今戻りました」


 感情が一切混もっていない声で、淡々と言葉を紡ぐルエム。リアンは、「こっちにこい」と手招きをする。


 ルエムはそれに応じて、二人の元へ歩いていき、ジュアンの左隣に正座をした。


「うむ。やっぱりお前たち、大きくなったな……」


 リアンは、ルエムとジュアンの頭を撫で回す。ジュアンは恥ずかしそうに顔を赤く染めていたが、ルエムは無表情で、何籠っていない声で話し始めた。


「リアン様。ロスペン侯爵家の末息子が、『聖女』を召喚したようです」


「ん?そうなのか?ふふっ、素晴らしいな…。あんな幼い子供が…もう聖女召喚を出来るとは……」


 一人で感激しているリアンを余所に、恥ずかしすぎて居心地が悪くなってしまったジュアンは、口を開いた。


「あのッ、リアン様。僕とルエムはこれでお暇させていただきます」


 立ち上がるジュアンを驚きの顔で見つめてるリアン。


「ん?あ、あぁ分かった。お前たち、ちゃんもご飯食べて、暖かくして寝るんだぞ」


「わ、分かりました。ほらッ、ルエム。行くぞ!」


 手を引っ張られたルエムは、文句など言わずに立ち上がり、ジュアンと共に書斎から出ていった。


      ーーーーーーーーーー


  11月26日 午後5時30分

王国『パラティーヌ』

ドゥラーク公爵家・書斎前にて。


 書斎から出て、扉を閉め終わったジュアンの耳に、ルエムでもリアンでもない声が聞こえてきた。


「なんでお前らがここにいるんだ?」


 思わずジュアンの肩が跳ね上がる。勇気を振り絞って声がした方を見つめると、そこには一人の使用人がたっていた。


「あ…えーと、執事には言わないでください…」


「言い訳は聞いていない。なんで書斎にいた。しかも、リアン様が使っている時に。どうして」


 使用人の怒りの圧に、ジュアンは怖じけついてしまう。


(リアン様に誘われたと、本当の事を言っても信じては貰えない。それに、リアン様を危険な目に会わせたくない)


「あの…、僕が魔法を使って……リアン様の書斎に行きました……」


「ルエムも一緒にか?」


 そう言って使用人は、ルエムの方を指差す。指を指されたルエムは、無表情のまま頷く。


「はい。左様でございます」


 ルエムの返事とジュアンの言葉を聞いた使用人は、厳しい口調でこう言った。


「執事に言い付ける」




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