第一章

事の始まり

第2話 被害者の聖女と加害者の少年

 11月26日 午後4時34分

東京にある、どこかの公立高校の図書館にて。


 黒髪のセミロングの少女・皐月 紫音さつき しおんは、数冊の本を机に置き、椅子に腰かけていた。


「これが、前の巻の続き…。あんまし本は読まないけど、これだけハマってしまったな…」


 彼女が読んでいるのは、異世界を舞台にしたファンタジー小説だ。クラスで流行っており、シオンは好奇心に負けて、一冊だけ借りてしまう。そして、見事にハマってしまった。


 苦笑いを浮かべながら、机に置かれている本の中から一冊取り、中を開き始める。


 だが突然。シオンの足の下に魔方陣が現れ、淡い赤色の光が彼女を包み込む。


「えッ?何?」


 混乱している彼女をよそに、光は徐々に強くなる。光が小さくなり、辺りが見渡せる程、視界が回復した直後に映っていたのは、見たこともない本が山積みされた部屋と、レンガ色の髪をした同い年の見知らぬ少年であった。


     ーーーーーーーーーー


 11月26日 午後4時34分

王国『パラティーヌ』

 ロスペン侯爵家・広間にて。


 広間にはパチパチと、暖炉の火が静かに燃える音が響き渡っていた。


「なるほどね……」


 シオンから事の経緯を聞き終わったレンガ色の髪をしたミディアムヘアの女性・アレクリアは、レンガ色の髪をした少年・エドガーの方を振り向く。 


 彼女・アクレリアの服装は、いかにも貴婦人が着そうな赤いドレスを身に纏っている。


「エドガー?言うことは?」


 アレクリアの圧に、正座をしているエドガーは怯えて肩が跳ねてしまう。


「エドガー?私に言うことは?」


「す、すみませんでした……」


 小さくなりながらも謝罪の言葉を紡いだエドガー。アレクリアは頷くと、シオンの方へと目をやる。


 椅子に座っている彼女の前に屈み、手をシオンにかざして魔法を使っている茶髪の男性がいた。


 彼の手から出ている光は『エメラルドグリーン』。見ていてとても鮮やかだった。


「トキ、どうだった?」


 トキと呼ばれた茶髪の男性は、魔法を中断し、アレクリアの方に顔を向ける。彼の服は、シャツに黒いズボンと言った、割りとシンプルな服装だった。


「エドガーが勝手に、しかも興味本意で召喚したが……この子は正真正銘、本物の聖女様だ」


「そうなの…。儀式を取り行わなくて済んだわね…」


「そうだな」


 話し合っている二人を見たシオンは、恐る恐る質問を口にした。


「あの…、聖女ってなんですか?てか、なんで私がここに来たんですか?」


 シオンの質問に、トキが答え始める。


「それは、君が『聖女』なんだよ。聖女とは、この王国を守る女性のこと。聖女は16歳からある力に目覚め、25歳までの10年間、国の安寧を願わないといけない」


「力……ですか?」


「あぁ。様々な言の葉を、【加護】や【呪い】に返る力の事だ。それで傷を癒したりとか…つまりは、奉公をしないといけない」


「な、なるほど……」


 シオンは納得していた。だが、少しだけ納得していなかった。


 彼女は、自分が夢を見ていると思っているからだ。こんなことは現実には一切無い。あり得ないのだ。


 そんなシオンを横目に、トキとアレクリアは話していた。


「アレクリア。この子はまだ、聖女の力を見せてないが、ちゃんと聖女だ。さっき、魔法で調べてみたが…聖女の力はちゃんと発現していた」


「そう…、てことはこの子は16歳。エドガーと同い年ね。分かったわ、この事は国王にも他の人たちにも伝えておく」


「分かった。そうしてくれ」

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