第5話 フワリンは美食家です!

 家に帰ると、制服を脱いで部屋着に着替える。着替えている間フワリンはベットの上でごろごろと転がりながら「へぷー」と鳴いていた。「腹減りー」という副音声が聞こえる。

 

「はいはい待ってて、すぐお米煮るからね」

 

 フワリンを持って台所に向かうと、フワリンが口から麻袋を吐き出した。私は麻袋からお米を取り出して鍋に入れる。そこに先生が杖をかまえて魔法で水をだして鍋に注いでくれた。私は魔法が使えないから、先生は毎日私のために水瓶を魔法でいっぱいにしてくれる。井戸から水を汲むのは大変なので、とてもありがたい。

 

 そのまま先生が火を起こしてくれようとしたのだけど、なぜかフワリンは怒りだした。「へぷー!」と鳴いてまた目を七色に輝かせたフワリンは「へぷへぷへぷ!」と訴える。頭に浮かんだ映像は、水につけられた米だ。

 

「もしかして、このまま置いておくの?」

 

 正解と言わんばかりに「へぷっ!」と鳴くフワリンに、困惑して問いかける。

 

「なんで置いておくの? 煮込むんじゃなかったの?」

 

 フワリンは私の言葉にいたくご立腹だ。「へぷへぷへぷへっ!」と顔に何度も突進してくる。

 

「痛っ……くはないけど、かゆい! かゆいってば! わかったから!」

 

 フワリンの毛が鼻をくすぐって、私は思いっきりくしゃみをした。フワリンのしたいことがわからない。いったいどのくらい待てばいいのだろうか。

 私と先生は、待っている間勉強の復習をしていた。入学試験は次席だったけど、魔法の使えない私はせめて実技以外は好成績で卒業したかった。実は一位を取れなくて少し悔しかったのだ。

 魔力が足りないから実技は免除されるとはいえ、魔法陣を書く試験はある。覚えたって使えないけど、それで勉強を投げ出すのは違うだろう。

 

 勉強しているとフワリンが「へぷっ」と私を呼んだ。鍋を覗き込むと、水を吸ったのか米が少し膨らんでいる。「へぷー!」と目を七色に光らせたフワリンから、映像が流れ込んでくる。

 水を吸ったお米をカップに入れて、量をはかっているように見えた。その後米より少しだけ多めに水を入れて、鍋にふたをして火にかけている。

 結局水につけたのには何の意味があったのだろう。よくわからない。

 

「同じようにすればいいのね?」

 

 先生にお願いして魔法で火をつけてもらって、なるべく映像と同じように火にかける。途中で混ぜた方がいいのではと思ってふたを開けようとしたら、なぜかフワリンはものすごく怒って突進してくる。

 

「だからかゆいってば! わかった、開けないから!」

 

 そのまま勉強を再開して、フワリンの呼び出しがかかるまで待つ。今度はさっきより短い時間で呼び出しがあった。ふたを開けると、中の水が完全に無くなっていて、米だけになっていた。フワリンは大喜びで周囲を飛び回っている。

 

「ねえ、これ食べてみていい?」

 

 聞いてみると、フワリンは「へぷっ」と鳴く。「食べてみろ」と言っている。スプーンですくって食べてみるけど、あまり味はしない。でもとてもふっくらとしていて柔らかい。

 

 次にフワリンは、ネギと干し肉を持ってきた。切れということだろう。指示通りに細かく切って、フワリンが指したフライパンに入れた。

 次は何をするのかと問うと、フワリンはまた映像を見せてくる。お米に卵を入れてぐちゃぐちゃにかき混ぜる。そしてフライパンのネギと干し肉を炒めたら、卵をまぶしたお米を入れてまた炒める。そして塩で味付けしたら完成のようだ。

 

「変な料理。本当においしいの?」

 

 フワリンは自信があるようで「へぷ!」と鳴いて「早く作れと」伝えてくる。

 先生が興味深そうに覗いてくる中、映像通りに調理すると、とてもいい匂いがしてきた。匂いを嗅ぐだけでよだれが出てきそうだ。お米が卵と混ざり合って黄金色に輝いている。お皿に盛り付けると、とても食欲をそそられる見た目だ。

 

「へっぷー!」

 

 この料理の名前だろうか、フワリンから明確に「チャーハン!」という言葉が伝わってきた。

 

「とてもおいしそうですね。フワリンはなぜこのような料理を知っているのでしょうか?」

 

 先生が首を傾げているけれど、そんなことより早く食べたい。みんなの分を盛り付けて、ソレイル神に食前の祈りを捧げる。

 

「いただきます!」

 

 黄金に輝くお米を、スプーンですくって口の中に入れると、まず最初にネギの香りが鼻腔をくすぐる。噛むと卵でコーティングされたお米の一粒一粒が優しく口の中で解けた。

 卵があることでお米のほのかな甘さが際立つ。味付けは塩だけなはずなのに、噛めば噛むほど干し肉の濃い味が染み出してきて、お米の甘さと交じり合う。ネギの食感と香りがいいアクセントとなっていくら食べても飽きがこない。

 

「んー! おいしい!」

 

 私たちは夢中になってチャーハンを食べた。フワリンだけが「……へぷ」と少し不満そうだったが、私と先生は大満足だ。

 

「すごいね、フワリン! こんなおいしい料理初めて食べたよ!」

 

 私がフワリンを褒めると、フワリンは「へぷ! へぷ!」と悲痛な声で訴える。「調味料があればもっとおいしく作れるのに」と言っている。これよりもおいしいものが作れるなんて、フワリンはすごい。

 

「ねえ、フワリンはもっとおいしいものを知ってるの? 私が作るから、もっと色々な料理を教えて!」

 

 そう言うと、フワリンは「へぷぃ!」と鳴いた。「また市場に連れて行け」と言っている。おいしいものが食べられるのなら大歓迎だ。

 今まで食事にはあまり興味がなかったけれど、それはいつもほとんどスープとパンだけだったからだ。それが一般的な庶民の食事である。

 でも今回チャーハンを食べて考えが変わった、もっと色々な物を食べてみたい。フワリンもそれを望んでいるし、その願いは主人の私が叶えるべきだ。

 

 このチャーハンが、最初の一歩だった。これから始まるフワリンとの美食の探求。それはいつかたくさんの人を巻き込んで、みんなをおいしい食事で幸せにする。

 フワリンがいてくれたら私はきっとずっと無敵でいられる。そんな予感がした。

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