5-4

 次の日の昼休み、駿は果奈と2人の時間を過ごしていた。


「3時間目の体育きつかった。グラウンド7周とか次の日、筋肉痛確定」

「私は男子と違ってサッカーだったから、全くきつくなかったし、どちらかと言えば楽しかったよ」

「俺もサッカーの方が良かったな〜」

「近いうちに男子と女子で種目変わるんだから、もう少しの辛抱」

「は〜、まぁ頑張るよ」


 その話が終わった後、いつもだったら、会話が更に盛り上がっていく筈なのに、今日は沈黙が始まり、更に果奈は何か気付いて欲しいのか、自分の方をチラ見し始める。

 不思議に感じたが、会話が無いまま、昼休みが終わるのは嫌だなと感じ、月末のテストに行われるテストの話をする事にする。


「そういえば、月末にあるテストに向けて勉強やってる?」

「少しずつやってます」


 不機嫌そうに応えてきたので、何があったのか気になり、聞いてみる事にする。


「果奈、いつもと様子が違うけど何かあった?」

「なんでもない」


 果奈はそう言って、そっぽ向いてしまう。


「なんでもなくないじゃん、絶対に怒ってるでしょ」

「別に怒ってないって」


 沈黙が流れたその時、昼休みの放送が始まった。


「6月12日、木曜日、今日の放送を開始します」


 放送を聞いた瞬間、果奈が何故怒っているのかを理解したのと同時に、何故その事を忘れていたのだと、自分を責めたくなる。


「今日は付き合い始めてから、1ヶ月だったね」

「気付くの遅い」

「ごめん、なかなか気付く事が出来なくて。でも、

俺から告白したのに、果奈がこの関係を凄く大切にしているって知れて凄く嬉しかった。勿論、この1ヶ月を大切に感じていなかった訳じゃないんだよ。むしろ、こんなに大切な1ヶ月は生まれて初めて」


 そう話していた時、脳裏には果奈に告白してから今日までのハイライトが巡った。

 

「ありがとう…駿がそう思っていたのを知れて、私も嬉しい」

「それにしても、ほんと色んな事があった1か月だった」

「うん、楽しい思い出も沢山あれば、辛い思い出もあったね」

「果奈が来なくなった時は関係が終わっちゃうじゃないんかという恐怖にずっと襲われてた」

「私もあの時、駿が来てくれなかったら私、駿との関係どころか普通の学校生活を送る事が出来なかったと思う」

「何回も言うけど、あの時は美生や直己に凄く背中を押された。2人にはほんと頭が上がらないよ。」

「私も美生から駿の為の弁当作りを教えてもらったりなどしてもらってるから、私も頭が上がらない」

「これからも付き合っていくうえで様々な問題起こると思うけど、それも2人で乗り越えて、このひとときをもっと大切なものにしよう」

「うん」


 何がともあれ、付き合い始めてから1か月の記念日に特別な時間を過ごす事が出来た。


 その後、教室に戻る前にトイレに向かう事にして、果奈と別れる。

 1人だけになったところで、思わず顔を覆って天井を仰ぐ。


(俺が告白したのに、俺よりもこの関係を大切に思っているとか、エグすぎるって)


 果奈の前では出さなかったが、果奈の言葉に内心、オーバーキルしかけていた。


(それは1回置いておいて、今後、果奈と共に歩んでいく為にも、彼氏として、しっかりしないと)


 今までの思い出を振り返るだけではなく、今後の意志を固める。そう思えたこと自体が果奈との未来を確かなものにしていた。 

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