殺人鬼として死んだ俺、刑事として第二の地獄を生きる。

小説読みに問う、この才能は本物か!?

エピローグ.裁きの果てに

刃が肉を裂く感触が、たまらなく好きだった。

 叫び声も、血のぬるりとした温度も、すべてが「生きている」証のように思えた。

 人の恐怖は、最高の娯楽だった。

 その瞬間だけ、自分は世界の中心にいると錯覚できた。


 数を重ねるほど、罪悪感は薄れ、興奮だけが研ぎ澄まされていった。

 次第に「殺す理由」すらどうでもよくなり、

 呼吸をするように人を殺した。


 だが、その愉悦は長くは続かなかった。

 ある夜、警察に踏み込まれ、抵抗する間もなく手錠がかけられた。

 尋問室の灯りの下、刑事たちは怒鳴り散らし、遺族は泣き崩れた。

 それでも彼の心は、静かだった。


 「よくも……よくも!」

 遺族が法廷で叫んだ日のことを、今でも覚えている。

 証拠写真、凄惨な現場、嗚咽。

 裁判官の声は冷たく、検察官の言葉は鋭かった。

 だが彼はただ、静かに座っていた。


 罪の自覚などなかった。

 ただ、自分の“遊戯”が終わっただけのこと。


 「被告人に死刑を言い渡す。」


 その瞬間、傍聴席がざわめきに包まれた。

 涙、罵声、拍手。

 まるで芝居の幕が下りたようだった。


 彼は微笑んだ。

 死を恐れていない者にとって、それはただの結末だった。

 「ようやく静かになれる。」

 そう呟いたのを、誰も聞いてはいない。


 ──もう十分だ、とさえ思った。

 楽しみ尽くした。

 恨まれ、憎まれ、呪われてもかまわない。

 この人生に、悔いはない。


 最後の食事も残さなかった。

 刑務官に促され、ゆっくりと立ち上がる。

 白い廊下を歩くたび、靴底がかすかに軋む。

 死を前にしても、恐怖はなかった。

 むしろ、この瞬間をも楽しんでいる自分に気づいて、少しだけ笑った。


 「最期の言葉は?」

 誰かが問う。

 彼は少しだけ考えて、淡々と答えた。


 「楽しかったよ、神様。」


 黒い布が頭を覆い、視界が消える。

 床が沈み、世界が途切れた。


 ――静寂。


 どれほどの時間が経っただろう。

 音も、光も、痛みもない闇の中。

 ただ、意識だけがそこに漂っていた。


 そして、声がした。

 男でも女でもない。

 冷たくも、どこか慈悲深い声。


 > 「お前は、生を弄び、死を笑った。」

 > 「だがその魂は、まだ終わっていない。」

 > 「罪を知ることが贖いだと、お前に教えよう。」


 彼は、ふっと笑った。

 「……罰なら、もう受けたさ。」


 > 「違う。」

 > 「次のお前は、“人を救う者”として生きる。」


 光が差す。

 まぶたを貫くほどの、冷たい白。


 次に目を開けたとき、そこは病院のベッドの上だった。


 見知らぬ天井、酸素の匂い、滲む視界。

 腕には点滴の針、心電図の音がかすかに鳴っている。

 体を起こそうとして、彼は息をのんだ。


 ――鏡の中に映る顔は、自分ではなかった。


 だが、その瞳の奥には確かにあった。

 かつての“殺人鬼”のまなざしが。

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