吸血鬼は、はらからを求める

やざき わかば

吸血鬼は、はらからを求める

 吸血鬼は、自分の同胞を求めるあまり人間を眷属にする。つまり、寂しがりやなのである。


 だが、最近はやれコンプライアンスだ、セクハラだと世間がうるさい。吸血鬼が血を吸おうものなら、ブラッドハラスメント、略してブラハラだと言われるだろう。もしくは傷害罪、暴行罪になるかもしれない。


 それで済めばかわいいものだ。


 今、人間社会には吸血鬼が少なからず、隠れ住んでいる。皆、人間のふりをし、問題を起こさないように、特に気を付けて暮らしている。誰かがそんなことを起こせば、他の同胞に迷惑をかけることは必至なのだ。


 そこで、吸血鬼たちは、仲間を増やすのではなく、人間界に隠れ住んでいる同胞を探し集めて、一大コミュニティを作ろうと目論んだ。県人会のようなものだ。


 さて、問題はその探し方である。吸血鬼は、外見だけはほぼ人間である。昔はキバの有無で見分けられたかもしれないが、最近はそれを小さく削っている個体も少なくない。人間社会に溶け込むために。


 では、どうするか。


 あまり知られていないことだが、吸血鬼はあらゆる感覚が人間よりも優れている。もちろん嗅覚もである。


 ということは、口内の臭いを嗅ぎ、血の臭いがすれば、其の者が吸血鬼である可能性が高いわけだ。直接人間に噛みついて、血を吸うことが憚られる現代であっても、輸血用血液製剤を販売ルートから購入し、飲むものは多い。


 あまり気乗りのしない作戦だが、吸血鬼たちは同胞を見つけるため各地に散り、会うもの全ての口内の臭いを嗅ぎ続けた。


 なんの成果もなく、各々が疲弊したときだった。「見つけた」と報告が入ったのは。


 全員で赴くと、そこには四十代くらいだろうか。サラリーマン然とした男と、仲間が待っていた。


「リーダー、この人です。確かに血の匂いがしました」

「ご苦労だった。よくやった」


 リーダーと呼ばれた男は、仲間をねぎらった後、そのサラリーマンに向き直る。


「お待たせして申し訳ない。私たちも、あなたの仲間だ」

「お、おお…。私は今、とても感動しております」


 同胞に出会えた喜びに、打ち震えているのだろう。サラリーマンはしくしくと泣き始めた。


「こらこら。泣くことはない。これから私たちとともに、力強く生きていこうではないか」

「はい、すみません。情けないところをお見せして」


 リーダーとサラリーマンが微笑みあう。


 いける。この方法はいける。これで吸血鬼のコミュニティを形成し、運動会やお菓子会など、みんなでいろいろと関係を育めるというものだ。


 サラリーマンの同胞が言う。


「私も、実は恥ずかしくて周囲に相談が出来なかったのです。そこにこんな素晴らしいお話。まさか、歯槽膿漏の会が存在するなんて、思ってもみませんでした」


 その後、吸血鬼は口内の臭いを嗅いで同胞を探すことをやめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吸血鬼は、はらからを求める やざき わかば @wakaba_fight

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ