第15話 VS最強の平和主義者
無人の惑星で川村はひとりの若い女性と対峙していた。
黒髪の姫カットで長い髪が風に揺れている。
切れ長の瞳は慈悲に満ち表情は穏やかだ。
女性にしては高身長で白を基調とした和装に身を包んでいる。
腕と足は細いようで無駄のない筋肉で武装されている。
全身から漂う善のオーラ。優しく平和を愛する気質は戦いにはあまりにも不向きだ。
穏やかで柔らかな声が川村に語りかける。
「川村君。おめでとうございます。カイザーさんに勝利したんですね」
「大苦戦でござったがな」
「それでも勝ちは勝ちですから胸を張っていいと思います」
「美琴殿。お主のいう通りでござるな」
「そしてわたしと戦うことになったのですね」
闇野美琴(やみのみこと)。彼女はジャドウに幾度も勝利し、カイザーにも勝利し、自らの師にも勝利した実績がある。カイザーとは別の意味で脅威だ。
刃を抜いた川村に美琴はコトリと小首を傾げた。
「斬心刃を使うのですか」
「お主とは本気で闘り合いたいのでござるよ」
「そうですか……」
美琴は目を伏せたすこし悲しげな表情をした。
「お主も本気を出してほしいでござる」
「期待に応えられるかわかりませんが、やってみます」
美琴は構える。自然体だ。
川村は本気で斬撃技を繰り出した。大地を踏み込み斬撃を放つが、美琴は驚くべきごとに川村の斬撃を掌で受け止め、相殺した。
川村は目を見開いて驚愕した。自分の斬撃を止めるなど見たこともないが半分は予測していたことだ。美琴の成長速度なら可能であると。
「竜巻斬り!」
無数の斬撃を回転しながら放つが美琴は全てを捌いた。
遠距離は分が悪いと判断し一気に間合いを詰めての超接近戦に挑む。
真上からの両断は美琴が一歩後退して躱す。しかし川村の狙いは次にあった。
「猫手返し!」
上から下へ振り下ろした刃を反転させ下から突き上げる。真下からの攻撃は対処しにくい。美琴の形のよい顎に刃が刺さると思われた刹那、美琴は上体を反らして回避。
川村は息を飲んだ。やはり美琴はレベルが違う。
腕を掴まれ投げられるが空中で身を翻して着地。地面への激突は避けた。
再び突進して連続で斬撃を繰り出すが全て空振りに終わる。空振りは体力を消耗するから川村は嫌だったが、それだけ美琴の才能が異常なのだ。
跳躍し真上から振り下ろされた斬心刃を美琴は笑顔で両手で受け止めた。
両手で掴まえるなどあり得ぬことだった。神クラスでも不可能なのだから。
渾身の力を込めて引き離すが美琴は息ひとつ乱れていない。
これほどまでに差があるのかと思った。だが、本当に恐ろしいのはこの先だ。
「美琴殿。攻撃反射を使用してほしいでござる」
「えっ」
「頼むでござる!」
頭を下げて頼み込む。美琴との戦闘の最大の狙いはこれだった。
真剣な様子の川村に美琴は「わかりました」と了承して無防備になった。
「その代わり絶対に生きてくださいね」
「お主のためにも必ず!」
刃を構える。真の恐怖が待っている。川村は自ら死地に飛び込む。
「斬心刃! 華麗米斬り!」
妥協なしの本気の一撃を無防備に食らって美琴は全身を切り刻まれる。
そこからバラバラになった四肢が集まって傷が癒えたかと思うと美琴の全身が発光し始める。美琴は白目を剥き滝のような涙を流している。
「川村君……本当に、ごめんなさい……」
謝罪が合図だった。かつてないほどに神経を集中させる。
川村の放った斬撃が数倍の威力になって本人に返ってくるのだ。
川村の視力をもってしても目視することができない斬撃。
瞼を閉じ視界に頼らず無数の斬撃を予測だけで回避する。
直撃すれば死。
これが最も川村が恐れていたことだった。
己の全神経と精神力と研ぎ澄ませ予測し、回避に専念する。
再び視界を開いたとき、無傷の川村が立っていた。
美琴は疲労からか汗だくになっているが口元には微笑が浮かんでいる。
「川村君、できましたね」
「やったでござる! 拙者、やったでござるよ!」
美琴も川村も大喜びで笑い合う。川村は本当の意味で自分を超えたのだ。
これからも川村猫衛門は剣を鍛え人々を守るために悪を斬り続ける。
おしまい。
猫耳少年侍が無敵すぎて困る モンブラン博士 @maronn777
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