追放された“荷物持ち”の俺、実は時間停止する【無限収納】スキルで最強でした〜気づいたら辺境開拓から世界経済まで掌握していたので、今更戻ってこいと言われてももう遅い〜
人とAI [AI本文利用(99%)]
第1話 物語の始まり
王都の喧騒を離れ、遥か辺境の地。
岩山に囲まれた痩せた土地に、ポツンと存在するヴェルデ村。
レント・アシュフィールドがこの村に流れ着いて、一月が経とうとしていた。
「ふぅ……よし、こんなものかな」
借りている小さな家の裏手、自ら耕したささやかな菜園で、レントは額の汗を拭った。土の匂いと、穏やかな風が心地よい。
かつて所属していたSランクパーティ『灼熱の剣』にいた頃には、決して味わえなかった平穏がここにはあった。
(罵声も、嘲笑も、理不尽な命令もない……静かで、穏やかな生活。僕がずっと望んでいたのは、こういう暮らしなんだ)
彼のスキルは【四次元収納】。通称【アイテムボックス】。
その無限の収納力と内部の時間停止効果は、冒険において絶大な利便性を誇るはずだった。しかし、直接的な戦闘能力を持たないレントは、パーティではただの「荷物持ち」として蔑まれ、功績も報酬もすべて奪われ、最後には無一文で追放された。
心に深い傷を負ったレントが求めたのは、誰にも干渉されないスローライフ。この寂れたヴェルデ村は、そのための理想郷のはずだった。
「さて、今日の昼食はどうしようかな。ボックスに保存してある猪肉の塩漬けでも……」
独り言を呟きながら家に戻ろうとした時、村の中心部から聞こえてくる村人たちの暗いため息に、レントは足を止めた。
村の中心には、巨大な石造りの井戸がある。しかし、それは「枯れた大井戸」と呼ばれ、もう何年も前から村の苦難の象徴となっていた。
井戸の周りには数人の村人が集まり、一様に空を見上げている。その中に、亜麻色のポニーテールを揺らす快活な少女、エリナ・クローバーの姿があった。
「はぁ……今日も一滴も湧いてないや。これじゃあ、畑の薬草たちが可哀想だよ」
空っぽの桶を覗き込み、エリナは力なく呟いた。彼女は、この村で薬草師の祖母と二人で暮らしている。その太陽のような笑顔が、今は憂いの色で翳っていた。
「エリナちゃん、もう川へ行くのかい? 気をつけるんだよ」
「うん、おじさん! 行ってくるね!」
気丈に振る舞うエリナに、レントは思わず声をかけた。
「あの……何かお困りですか?」
「あ! レントさん! こんにちは!」
レントの姿に気づいたエリナは、パッと顔を上げて笑顔を見せた。
「うん、ちょっとね。村の水がもうほとんどなくて……一番近くの川まで汲みに行かないといけないんだけど、結構遠いんだ」
エリナの視線の先には、かろうじて青さを保っている小さな薬草畑があった。だが、その土は乾き、いくつかの薬草は元気がなく萎れている。
「おばあちゃんの薬を作るためにも、この子たちを枯らすわけにはいかないからね!」
そう言って笑う彼女の健気さに、レントの胸がちくりと痛んだ。
(水、か……)
レントは無意識に自分の右手に意識を集中させる。
彼の【アイテムボックス】の中には、かつて冒険の途中で立ち寄った、王都近くにある巨大な湖の水が、万が一のためにと大量に保存されていた。
それこそ、この枯れた井戸を瞬時に満たすどころか、小さな湖をこの村に出現させられるほどの量が。
(でも、ダメだ。そんなことをすれば、間違いなく大騒ぎになる。僕のスキルが異常だってことが知れ渡ってしまう……。ようやく手に入れたこの平穏が、壊れてしまうかもしれない)
面倒ごとは、もうこりごりだった。人間関係のしがらみからも、スキルのせいで注目されることからも逃げたかった。
「よし! 落ち込んでても仕方ないもんね! レントさん、村での生活にはもう慣れた? もしよかったら、今度わたしが案内してあげる!」
「あ、ありがとうございます。でも……」
レントが返答に困っていると、エリナは大きな桶を二つ、ひょいと持ち上げた。少女の細い腕には、いかにも重そうだ。
「それじゃ、わたし、行ってくるね!」
カラカラに乾いた井戸の前で、それでも笑顔を絶やさず、遠い川へと向かおうとするエリナの小さな背中。
その姿が、なぜかレントの心を強く揺さぶった。
搾取され、見下されるだけだった以前の関係とは違う。ただひたむきに、大切なものを守ろうとしている少女の姿が、そこにはあった。
(……見て見ぬふり、なんてできるわけ、ないか)
レントは自嘲気味に息を吐くと、意を決して彼女を呼び止めた。
「あの、エリナさん!」
「ん? どうしたの、レントさん?」
振り返ったエリナの、そばかすが浮かぶ快活な顔。その真っ直ぐな瞳を見て、レントは静かに、けれどはっきりとした声で告げた。
「もし、信じてもらえないかもしれませんが……その井戸、僕が水で満たしましょうか?」
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