第5話 手動ウイルス
入れ替わった人々は二度と戻ることはなかった。また入れ替わったのがキッカケで再び入れ替わる事も多々あったが、コロナ禍で皆がマスクをしていたので他人にはバレることは滅多になかった。バブル君は成す術もなく代替え人間達と生きていく事になった。
アートスタジオで成り代わった人間モドキは初めは攻撃的なスタッフだったが、新たな守護霊に寄る粛清が行われた。自分の偽物に殺されて守護霊に成らざるを得ない状況であったが、偽物が悪態をつくのは最悪であったが、知り合い達に迷惑をかけるのは更に心が痛むことであった。人間モドキは毎日何度も何度も新たな守護霊と魂を同化させて精神を洗脳されて行った。
結果、成り代わった人間モドキ達は自然と悪態から従順になったのだ。人間モドキ達は死んだ魚の様な濁った目をしながら無言で手を動かし納品物を仕上げるのだった。クリエイターになるのを夢見て、クリエイターを殺してまでその座を奪ったが、実際にクリエイターになると体力と神経を削って作るのは作品ではなく納品物であり、楽しそうな表情は一切見せず意識朦朧としそうな顔でひたすら手を動かすのである。
無能のバブル君の納品物はクオリティは他に比べて低かったが、楽しく仕事をしていた。人間モドキは他人の人生を奪って一体何をしたかったのかとバブル君は思った。
人間モドキは外国人の様に実に表情豊かであった。どんどんオリジナルの霊と精神を同化して行く人間モドキは、所作はオリジナルと似ていたが持ち前の表情の豊かさが死ぬほど、詰まらなそうな顔で毎日を生きているのである。他人の人生を生きなくてはならないのは一種の呪いである。どんなに頑張っても世の中の評価はオリジナルの他人にあるのだ。人間モドキ本人がいくらSNSで情報をアップロードしても他人であり、友人、恋人、家族の認識も本当の自分ではなく他人なのだ。死んだら愛する者の心に残るとされているが、その認識は他人なのだ。
日常が偽物達に寄って本物に戻ろうとするがバブル君の個人のデバイスに異変が起こった。スマホへの何者かの攻撃であった。『やはり…狙われていたのは俺…?』バブル君に不安がよぎる。スマホで文字を打つと文字変換として変換候補の文字が出てくるのだが、まるで誰かの会話の様なのだ。しかも時たま年寄り訛りの喋りが無理矢理文字で表現されたり、中国語書体が表示されたり異常としか思えない現象だった。
バブル君は貧弱であったが同時に貧相であった。スマホにパスワードどころかクレジットカードも登録していないし、ネットバンキングアプリも入れていなかった。なんと電子マネーのアプリも無かった。プライベートでも無能だったのだ。それが幸いして犯罪に巻き込まれなかった。だがスマホ内での会話は止まらなかった。ウイルスかと初めは思ったが会話の内容が無能を罵る内容だったのだ。流石のバブル君も無能ではあったが判断力はあり有給休暇を取って警察署に助けを求めた。
バブル君は初めはスマホのメーカーの小売店に行ったが異常はないと言われ途方に暮れた。次に副都心にサイバー警察課があると聞き、直接出向いたのだった。だが予約を入れた筈なのに待たされて、何故か警察に韓国語で怒鳴られ「管轄が違うので地元の警察署に行ってください」とオバさんの受付嬢にフォローされた。バブル君は仕方なしに地元の警察署に行くが「証拠がないと動けない。お金を盗まれたら確実に動くから、その時また来てください。」と震える顔面青痣の事務警官に追い返されたが解決にならなかった。
警察の様子は変であったがバブル君は無傷であった。
バブル君はスマホを新品に変えたが、アカウントにログインすると、元の現象になるのである。『アカウントハッキング…?だが証拠がない。なんて事だ。』バブル君は見張られている様だったが、目的はお金ではないと、その時は思われた。そして家族に相談するが「考えすぎだ。お前はオカシイんじゃないか?」と言われた。だが明らかな異変は自分ではなく、人とデバイスのみに発生しているのだ。『先輩だってあり得ない異変だ。身長が次の日に10cm以上変わる訳がない!絶対に別人だ!!』バブル君はプロにしては絵は上手く無かったが過去にデッサンをやっていた恩恵で長さを目算できた。こんな時に限って無能の霊視と霊聴は全く機能せず、霊が逃げたのではと思うほどの静寂ぶりであった。
アートスタジオの雰囲気が落ち着くとバブル君の元へ霊が何体が戻ってくる。他社のスタジオの人間も殺されていると言うのだ。『まさか…うちと同じ?でも何の為に?無能の俺を能力者だと勘違いしての襲撃だったんじゃなかったのか?』流石に他社に侵入することは出来なかったが、勤めている高層ビルでも異変が起こり始める。変な物音が各階でする様になったのだ。ぱすっぱすっぱすっと何かを射出する様な音だったり、ゴゴゴゴゴゴっと机を動かす音だったりした。
バブル君の周りにいた霊はまた去った。何か不都合があると去る様に思われた。殺人が起きているから去ったのかもしれない。バブル君は仕事中は恐怖で動けなかった。動けなかった所為で助かった。
だがバブル君は人間モドキ達に何かを期待され、どう見て無能なのに仕事を通して能力を測定された。無能であったので能力の開花を期待されたのだ。霊達はまた戻ってきたが、小さな地震が頻繁に起こる様になっていた。
『行かないで…』霊達はバブル君に悲しそうに言った。
侵略者の欠片-無能力者の俺が無能スキルを最大限に発揮する未来- せらむすん @SeraMoora
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