第2話 人間モドキの侵略
バブル君は出社には遅い時間に目覚めたが、低血圧の為に布団の中で停滞していた。バブル君は標準的な日本人の成人男性で無能だったが誠意と根性はあったので、それなりに社会では高評価を得ていた。
これは西暦2020年の秋の事だった。コロナと言う伝染病が世界に爆誕し、死を広めている最中だった。薬は存在したが特効薬ではなかった。コロナに感染すると死の瞬間に等しい後遺症に死ぬまで悩まされるか死ぬしかないのだった。人々は感染予防の為にマスク不足だったが無理矢理マスクを着用していた。ファッションの流行の発端である都心でさえマスクが無くてもわざわざ布の端切れを縫い合わせてお手製のマスクを作成して着用していたのだった。
バブル君は素早いがヘタクソな絵描きで仕事は下っ端のデザイン職だった。感染予防の為に仕事はリモートワークが存在したが下っ端だったので毎日出社したのだった。バブル君は会社に無理矢理支給された消毒液のスプレーを尊敬する先輩に恵んでもらったマスクにした。紙製のマスクは普段は20枚で100円程度だったが貴重になってしまった為に1枚300円で売られることもあった。マスクは1日で使い捨てるのが一般的だったが先輩を尊敬しすぎる貧乏なバブル君は2週間も着用していたのだった。
バブル君の知りうる限りマスクをしていない国民は皆無であった。だがこれが大きな罠を発生させることになる。侵入した人間モドキも全員がマスクを着用したのだ。人間モドキは空間に突然構成されて現れるのがお決まりだった。劣化した彼方の神の眷属達が操作する壊れかけた船の機能だった。眷属達の望みも、また進化であったが幾人が人間モドキに再構築されたのであった。眷属から派生した人間モドキは貪欲であり人間に成り代わろうとした。眷属の魂は元は馬鹿な人間であったが劣化した彼方の神に本能を汚染されていた。欲望を抑えきれないのだ。
眷属の中には魂を汚染されなかった者も居た。人間モドキの本質は強力な霊媒師の能力を持つ生き物であり、汚染されなかった眷属はそれを正しい方向へ導こうとしたが、数が少なくて管理しきれなかった。
バブル君はいつもの様に検温を済ませ会社に入室し出社した。会社は高層ビルの中にあり関連会社も一室に詰め込まれた省エネ仕様だった。バブル君は儲けの少ないアットホームなアートスタジオに雇用されていて、会社の将来性を信じて頑張って働いていた。それは唐突の出来事だった。バブル君には一見、不幸には見えなかったがそれは不幸なのだろう。本当の不幸は突然やって来て、死に等しきものを人々に与えるのだ。
アートスタジオは普段はこまめに清掃されていた。可愛い総務の女性が徹底的に現場を快適にしていた。だがその日は違った。バブル君はメガネで視力を矯正しても度はあまり出なかったが、床が混沌としているが視界に入って来たのだった。誰かが争った跡なのだろうか。バブル君は何もかも異質に感じた。いつも掃除されていた床は何かを引きずった跡や髪の毛が大量に彼方此方に散らばっており、現場のスタッフの誰もそれを言及しなかったのだ。
バブル君はとても危険を感じて保身として心身構えた。バブル君自身も誰にも言及しなかったのだ。バブル君は震えた。『殺しの現場か?血は一滴も落ちていないし撲殺??人間の髪がこんなにも抜けるモノなのか?昨日の退勤時は綺麗な状態だった。下手な態度を取ったら殺される可能性がある。慎重に社員さんと応対しなくてはいけない…』
だがバブル君の知っている人間は誰1人出社してこなかった。似ている人に似た人が出社して来たのだった。バブル君は警戒したし恐怖した。賢い人間なら隙を見て逃げるだろう。だが、どう頑張っても平均値を超えられないバブル君は賢くは無く、その場に留まって定時まで仕事をする決心をしたのだった。非常時であろうと仕事を休めば給料が減るのは当たり前であり、生活費が掛かっていたので逃げられなかったのだ。
貧弱なバブル君より会社のスタッフはどう考えても強く、相手がその気になればバブル君の身体はボコボコに殴打された挙句に泡の如く消えて死ぬだろう。
バブル君はいつもの様に働いている会社のスタッフ達をマジマジと見た。声は似ていたが身長などの体格はやはり別人で、いつもの普段着を着こなし、いつもの髪型で活動している。
バブル君は不安で仕方がなかった。『この人達は何なんだ?入れ替わって家も占領したのか?死んだとしか思えない。』バブル君は自分が殺されなかった事に困惑したが思い当たる節があった。会社のスタッフ達は好んでオカルトの話題で会話する様になっていたのだ。バブル君は多少霊感があり全然役に立たなかったしオカルトにも興味が無かったが、その経験をブログで公開していて、記事の件数は230を超えていた。
『もしかしてカルト集団か何かが俺のブログから個人情報を引き抜いてプライベートを襲ったのでは?いいや、考え過ぎだ…そんな事がある筈が無い。でも先輩達はどう考えても殺されている。何の為に成り変わったのか?クリエイターになりたかったのか?実力があれば殺して成り変わらなくてもクリエイティブな職に就く事は出来るのに…何故?』
バブル君は以前SNSで『自分が死んでも悲しくはないが他人が死ぬのは悲しい事である』とツイートしており、それを犯人は読んでおり自分にに当て付けたのだと感じたが、同時に自意識過剰だと思い、誰にも問う事は出来なかった。
仕事上、偽りのスタッフとのコミュニュケーションは必須だった。事件については話す勇気が出ない。しかしながらバブル君は人間モドキの異常性を見て感じる事になるのだった。
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