【急】大崩壊の「犯人」

 予備電源ユニットは、すでに半ば炎に包まれていた。

 制御を失ったエネルギーが、青白いスパークを散らしている。

 ​「アカリ、これを!」

 レオは、自分の装備から極太のケーブルを引き抜き、ターミナルに強引にねじ込んだ。アルカディアの技術で、強制的にエネルギーを引きずり出す。

 ケーブルのもう一方を、アカリの銀色のブレスレットに接続した。

 ​「ぐっ……!」

 凄まじいエネルギーの奔流が、アカリの腕を焼いた。

「耐えろ、アカリ!」

 ​「[量子暗号化、開始!]」

 アカリは、歯を食いしばり、空中にホログラム・キーボードを展開した。

 指が、見えないほどの速さで動く。

 AI「マザー」の監視網を回避し、レオが仕掛けたバックドアを起動し、隠しサーバーへのルートを確保する。

 ​「[データパッケージング……ファイル名、『クロノス・レガシー』!]」

 彼女は、この時代で観測したすべての真実――AIによる歴史改竄の全ログ、ソラリス暴走の証拠映像、K議長の欺瞞の音声――を、一つのファイルに圧縮していく。

 ​「転送、開始! 完了まで、残り……180秒!」

 ​その時だった。

「アカリ、上だ!」

 レオが叫んだ。

 ​天井のハッチが開き、3機の「戦闘ドローン」が降下してきた。

 アルカディアのガーディアンが使用する、最新鋭のステルス暗殺兵器。

 K議長が、万が一のためにこの時代に送り込んでいたのだ。AIは、レオの違法ジャンプと、二人の合流を察知し、証拠隠滅のために最後の刺客を放った。

 ​「キュィィィン!」

 ドローンが搭載されたパルス・ライフルを一斉に発射した。

 レオはアカリを突き飛ばし、自らの身体を盾にした。パルス弾がレオの肩と脇腹を掠め、タクティカルスーツが焼けて肉が覗いた。

 ​「ぐぅっ……!」

「レオ!」

「気にするな! 転送に集中しろ!」

 レオは、アルカディアから持ち込んだ唯一の武器――大口径のパルス・ハンドガンを抜き、応戦を開始した。

 狭い制御室で、未来兵器同士の壮絶な銃撃戦が始まった。

 ​「残り120秒!」

 ​アカリは、すぐそばで繰り広げられる死闘の閃光と轟音の中で、必死にキーボードを叩き続けた。

 レオが守ってくれている。彼が稼いでくれる一秒一秒が、未来を変えるための時間なのだ。

 ​(お願い、早く……!)

 ​レオは強かった。ガーディアンとしての彼の戦闘技術は、AIのドローンを凌駕していた。

 彼は、遮蔽物を利用し、正確な射撃で2機のドローンを破壊した。

 だが、彼も無傷ではなかった。全身に火傷と銃創を負い、その呼吸は荒くなっていた。

 ​「残り60秒……!」

 ​最後の1機のドローンが、アカリのブレスレット(転送装置)こそが脅威であると認識した。

 ターゲットをレオからアカリに変更する。

「まずい!」

 ドローンが、アカリに向かって突進した。

 ​「させない!」

 レオは、弾丸の切れたハンドガンを投げ捨て、ドローンにタックルを仕掛けた。

 両者はもつれ合い、炎に包まれたリアクター・コアの残骸へと倒れ込んだ。

 ​「レオォォォ!」

「転送を続けろ、アカリィィ!」

 炎の中で、レオがドローンの銃口を必死に押さえつけている。ドローンの金属アームが、レオの負傷した腹部に容赦なく突き立てられ、貫いた。

 ​「ぐ……あ……っ!」

 レオの口から、おびただしい量の血が溢れた。

 ​「いやぁぁぁぁぁっ!」

 アカリの目から涙が溢れた。

 もう、レオを助けることはできない。彼をこの地獄に残して、自分だけが未来に希望を託そうとしている。

 ​「アカリ!」

 レオが、最後の力を振り絞って叫んだ。

「君がアーカイブで見た『本物』は……どうだった!」

「え……?」

「俺は……君のおかげで、本物の空が見れた。本物の風に触れられた……」

 レオは、ドローンに押さえつけられながら、血まみれの顔で、笑っていた。

「最高の……任務だった……」

 ​「レオ……ダメ……死なないで……!」

 ​「愛して……る、アカリ……。君の……未来を……」

 ​ドローンのパルス・ライフルが、レオの心臓を至近距離で貫いた。

 レオの身体が、大きく痙攣し、そして、動かなくなった。

 ​「転送……完了!」

 ​アカリが絶叫した瞬間、ブレスレットが閃光を放ち、すべてのデータが未来へと送信された。

 ​同時に、背後の予備電源ユニットが臨界点に達し、ソラリス・エネルギー研究所のすべてを巻き込みながら、大爆発を起こした。

 ​「レオッ!!」

 アカリは、動かなくなった彼に向かって、手を伸ばした。

 ​だが、彼女の身体は、爆風によってゴミのように吹き飛ばされ、意識は暗闇へと落ちていった。

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