配信⑥ 黒龍剣士との対決!
「おおおおおっ!!」
パネルを踏んで現われた黒化モンスターの群れの中を、
斬りつけられたモンスターの胸には黒い十字マークがつけられ、少しの時間をおいて爆発すると周囲のモンスターにも同じマークを刻みつける。
この双剣の真価は、超が着くほどの人数不利におけるド級のアドバンテージにある。相手の数が多ければ多いほど、より少ない魔力で効率的な
そんなこんなで二度目の171体の
「あぁしんど……! 魔力の節約は出来たんだろうが、精神的な疲労がエグい!」
:魔力は節約してるけどそのぶん体動かしてるじゃん
:本末転倒過ぎる
:ロボットでも疲れるんだな
「ロボットじゃねえって! あと、本末転倒かどうかは議論の余地がある」
「俺の心がさ、動いても疲れない体に慣れてないワケ。だから今後、心を体に追いつかせればこの問題も解決するだろう」
「……こう言うと、まるで俺が疲れてるフリをしてるみたいだな。なんかそれは
俺は眉間にしわをよせて深く息を吐き、ゆっくりと起き上がった。
それからベルトとブレスを出現させ、周りでふよふよ浮いてるドローンに目を向ける。
「さて。ボスに挑む前に一つ、お前らに隠してたことがある」
「さっきから異変は感じてたと思うが、ここは他のダンジョンとはひと味違ってな。というのも――」
「ここは国分寺市に湧くダンジョンが黒化を起こす感染源、言わば『
:国分寺って、モンスターの黒化がよく起こる地域じゃん
:病巣? なんでそんな事知ってんだ?
:つまりここをクリアすれば、国分寺は黒化の心配が無くなるって事?
「そうだな。再発しない保証は無いが、クリアすればこの地域は当面、黒化の脅威から解放されると思ってる」
「まあその分、ここのボスは結構ヤバイと思うがな。こっからの戦いは、前回以上に苛烈なものになるだろう」
「だから先に言っておく! 動画サイト運営様につきましては、これから俺の身に何が起きようと、グロ映像認定からの収益化
:草 ロボットじゃないって言ってたじゃん
:や~いお前の推しアンドロイド~
:ロボットなら四肢消し飛んでも大丈夫だな!
(ミツキ? 配信のためにああは言ったが、俺はちゃんと無傷で帰るつもりだからな?)
『ええ。貴女が配信映えのためにわざと傷を負うタチでない事は、長年の付き合いですので分かっています』
――エンジニアモードになってる。そうでもしないと、モニタリングを継続できないのだろうか。
「そんじゃまあ、気を取り直して――」
「ダンジョン配信の、最大の見せ場を始めようじゃねえかァ!」
俺はブレスのボタンを押して変身を遂げ、勢い良くパネルを踏む。すると目の前に、龍の頭を持つ、日本刀を腰に提げて黒いコートを着た二足歩行のモンスターが現われた。
さらにコイツは俺の1.8倍ほどの背丈を持っており、全身から放たれる黒いオーラも相まって、俺が絶妙に嫌な不利状況の最中に居るのを嫌でも分からされる。
――なんだ、アイツ。普通のボスモンスターと比べてやや背が小さい上、服装が変だ。明らかに普通じゃ――
次の瞬間、龍は一瞬にして俺の目の前に立ち、鞘から刀を抜いて俺に斬り掛かる。
「ッ!」
俺は空かさず右足で龍を蹴り飛ばし、速度特化の『
――早い! 背丈3mの魔物がこの早さで突進してくるとか、ズルだろ!
咄嗟にレーダーを起動し、龍のオーラを登録して動きを簡単に追えるようにする。しかし龍は音も無く俺の背後に回り、オーラの追跡を振り切ってみせる。
「なっ……!!」
俺はすぐさま大きく前に踏み込み、振り返って小さな魔力弾を三つ発射する。龍はいとも容易くそれを斬り捨て、得意げにこちらを見てきた。
――受け身ではダメだ、押し切られる! 多少傷を負う覚悟で、攻勢に出るしかない!
俺はブレスのボタンを二度押して右足にオーラを集中させ、刀を鞘に収めて居合いの構えをする龍に向かって4歩ほど助走を付けると両脚を揃えて跳び蹴りをする。
そして足が遂に龍の目の前に迫り、龍が思いっきり
「待ってたぜ! 抜刀するその瞬間を!」
俺はかかとから空気を噴射し上昇する事で居合い斬りの軌道を避け、右足に溜まっていたエネルギーを足の中に吸収すると、土踏まずから出した小さな銃身からエネルギー砲を撃ち出した。
:さすが強え!
:攻撃の仕方がこすい
:でも勝った! 本日の配信、完!
高密度・高圧力のエネルギー砲は龍の胸に風穴を開け、穴からは漆黒のオーラがボトボトと垂れていた。
――しめた! このまま跳び蹴りをかましてダンジョンの壁に激突させれば、穴が広がって奴の体を分断できる! そうすりゃあ勝ちだ!
ブースターを最大出力し、龍に跳び蹴りをかます。予定通り足は龍の腹を捉え、その勢いのまま壁に向かっていく。
壁が迫ってくるのを見て、すっかり勝ちを確信する俺。しかし――
龍は不敵に笑い、右手から液体状の黒い何かを出し、それを俺に向かって投げつけた。
「!?」
液体は俺の両目と左頬、それから左の二の腕にくっつき、根のような物を伸ばして俺の神経を蝕んでいく。
「ぐっ、あああああああ!!!」
すぐさま俺は両足の足首から下を分離して床に落下し、両目に付いた液体を力任せに何度も拭う。
――まぶたの裏に、紫色の血液の様な模様がひろがる。それが俺の不安を煽りに煽りまくって、焦りを加速させる。
『ハル……!!』
思わず漏れてしまったたであろうミツキの声が、俺の正気を取り戻させた。
――落ち着け。冷静にならなきゃ、この場は突破出来ない。この配信を今見てるミツキの為にも、あとで配信を見るであろうマイの為にも、不覚を取る訳には!
「回復特化のMode3じゃ、アイツに速度で負ける。速度負けはすなわち命取りだ」
「なら、見えないままでも首を取りに行ってやる!!」
俺はレーダーを再起動し、龍の魔力を辿る。余計な視覚情報がないからか、レーダーから送られてくる情報がより
そしてレーダーが映した龍の
(今の俺は足を切り離した状態だから立てない。アイツはその状況を利用し、確実に俺を仕留めるべく至近距離に近づいてくるだろう。勝機はそこにある)
案の定、龍は俺に向かってゆっくりと歩き出す。まるで、抵抗力を失った獲物に対する優越感に浸るように。
――いいぞ、そのまま油断していろ。すぐに首を刈り取ってや……
その瞬間、またしても突然オーラが俺の背後に転移する。恐らく刀を振りかぶり、俺の首を落とそうとしているのだろう。だが――
「知ってんだよ! お前が人の背中を見るのが大好きだって事はよ!」
俺は両手を地面に突いて逆立ちの姿勢になり、龍の首に両脚で組み付く。すると遠くの方から、切り離した方の足が勢い良く飛んで来て、龍の顔に激突すると粉々に吹き飛ばした。
そうして血まみれになった足が元の場所に戻ってきたのを確認した俺は、首から上が無くなった龍の体を蹴っ飛ばし、バック宙の要領で直立姿勢に戻る。
――両目の液体が消えないのを見るに、頭を吹っ飛ばしても死なないタチか。ならレーダーを使って弱点をあぶり出そう。
こめかみに指を当ててレーダーの機能を高める。すると、龍のエネルギーが右肩に集中している事に気づく。
そしてそれを見きわめたと同時に、ゆらゆらと左右にフラついていた龍は両手を前に出して突撃してきた。
「刺し違える覚悟かッ! そうはさせん、死ぬのはお前一人だけだッ!!」
ブレスのボタンを二回押し、右足にエネルギーを集中させる。
「リスナー共! 今はお前らのことは見えねえが、お前らが好きな技をここで見せてやる!」
「そしてこの一撃とその余波を背景に、今日の配信を閉幕するとしよう! チャンネル登録と高評価よろしく!」
「そんじゃあ今度こそ決めるぞ――メテオブレイク!」
龍が至近距離に近づいてきたのを見て、龍の右肩に全力のハイキックを食らわせる。すると龍の体はプラズマを帯びながら後ろに吹き飛び、蹴りを食らわせた三秒後に大爆発した。
それと同時に両目を覆っていた黒い液体が消滅した事で、俺は龍の体が上げた爆煙を目にすることが出来た。
――この瞬間、俺は確信した。こうして奴の討伐が果たされた事によって、俺の心に僅かに残っていた『黒』への恐れと、完全に決別出来たのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます