第37話 「タロゥをくれ」 「断る」

 神聖歴579年 秋の中月 18日



「タロゥをくれ」


「断る」


「…………」


「…………」



 サニム・レキストン両ギルドのギルド長同士による会談は終始和やかなムードで行われ、この会談において両ギルド内では通常の冒険者ギルド同士の連帯よりも更に踏み込んだ協力関係が築かれる事となった。両都市にとって共通の脅威である山岳地帯のコボルトの躍動に関する情報共有と所属ギルド員への注意喚起等、大小さまざまな取り決めが合意され、最終日にはにこやかな笑顔を浮かべて両ギルド長が握手を交わしてレキストンのギルド長、オイスター氏は船に乗ってレキストンへと帰っていった。


 オイスター氏と固い握手を交わしたパルメザンギルド長の右手は赤く手形がついていたが、オイスター氏はそれほど今回の会談に強い思いを抱いていたのだろう。男同士の熱い友情を垣間見た気がして、少し胸がほっこりとする。



「タロゥくん、3日間の帯同ありがとう。本当に助かったよ。ところで冒険者ギルドの中で食堂を作ろうという計画があってね。ほら、冒険者は長期間人里離れた場所での活動が考えられるだろう? 街に戻った時、ギルドに帰ってきて報告を終えた時に食べる温かいご飯は疲れた心と体をいやすのに最適だという意見が合ってだね」


「あ。そういうのは間に合ってますんで。お疲れさまでしたー」



 3日間、ギルド長たちに食事を提供するだけで日給銀貨30枚。素晴らしい儲けだ。一食だけで銀貨20枚のイールィス家のお昼ご飯と比べるとお値段は安くなっているが、イールィス家と違って3日間だけだしジローラーメンを出さなくて済むというメリットがある。ジローラーメンを人に食べさせると深い罪悪感が襲ってくるし、寝つきも悪くなっちゃうからね。それらを加味した値段というわけだ。


 ギルド長の元を辞した後、受付のライラに報告を入れて依頼は正式に完了。さて、このでっかい臨時ボーナスをどうするか。そのまま貯蓄に回すのも芸がないし、なにか先に繋がる買い物をしたいなと考えていたら、ちょいちょいと肩を叩かれる。



「ん? あ、ザンム。それにネネも。薬草摘み帰り?」


「うんー。タローもおしごとおわったのー?」


「ああ。無事完了。色々良い経験だったよ」


「そっかーおつかれさまー」



 振り返ると、ここ数日ギルド長からの依頼のために別行動をしていたザンムとネネが薬草籠を背負って立っていた。来月には今年の薬草摘みも終わるため今は正に書き入れ時。実際にザンムとネネが背負った薬草籠も通常時より幾分多めに薬草が放り込まれている。


 この忙しい時に変な依頼が来たんだよなぁ。いや、内容は重要なものだったけど。なんならサニムの冒険者全員に関係がある取り決めだったけど。そう考えると、無事に終わる事が出来てよかったが、それはそれとして薬草摘みだって街の重要事である。基本的に薬品は圧倒的に需要過多なため、薬師は薬の原料である薬草を出来るだけ多く冬に備えて貯蔵したいのだ。


 その為にうちのチームは複数の薬草群生地を地図に書き留めて、一か所を取りつくす事が無いようローテーションで常にある一定以上の薬草が残るような形で薬草を採取していた。こうした方が最終的に採取できる量が多くなるからだ。


 こういうやり方をしているから、一人減った分は二人が多く採取することでカバーしてもらう、という事も出来る。けれどもどうしても手が足りなくなるため通常よりも時間もかかるし体力も使う事になる。特にザンムはネネを背負って森を走ってるわけだから、普段よりもかなり負担をかけてしまったはずだ。



「ん。疲れたけど、ギルド長からの特命が優先。気にしないで」


「そーそー」


「そう言ってくれるとありがたいけど。あ、そうだ」



 俺の気持ちを察してか気にするなと二人は言ってくれたが、世話をかけてしまったのは事実。なにか感謝の気持ちを伝えられればと考えたところで、ピーンと頭の中でおニューなタイプの閃き音のような音が鳴り響いた。


 さっき稼いだ大金の使い道、ここだよ。





「い、いいよタロゥ。うち、別に困ってない」


「そーだよーうれしいけどー」


「ザンム!」


「気にしないでくれ。どうせ貯金するかシスティの新しいおべべ買うくらいしか思いつかなかったんだ」



 渋る二人の手を取って、俺は勝手知ったる工房街へとやってきた。サニムの西城壁のすぐそばにあるこの鍛冶屋街はサニムの工業製品のほぼ全て、特に金属製品と皮革製品に関しては全てここで扱っていると言っても良いだろう。ソースは俺の亡くなった父親だ。


 2年前、強盗に襲われて亡くなるまで俺の父親は地人種のハーフで、この工房街の一角で鍛冶屋をしていた。地人種の血が入っているからか腕は良かったと聞いている。


 そんな父親がいつも自慢げに語っていた事の一つに、自分が所属する工房の事があった。



『いいか、タロゥ。うちの親方はサニムどころか近隣諸国一番の鍛冶だ。剣に槍、鎧。盾に弓、鉄靴だって一級品なんだぜ』


『へー。とーちゃんは?』


『俺はなぁ。そうだなぁ。親方のちょっとしたくらいかなぁ』


『なに言ってるのよ。半分でもおつりが出るわよ』


『おっと。うちのカミさんは口が悪くていけねぇ』



 両親とのやり取りを思い返す。胸の奥が少し熱くなった。懐かしいやり取りだ。妹が生まれて少しくらいの頃だったかな。


 懐かしい街並みに昔の思い出を想い返していると、目的の場所へたどり着く。大きな文字で【カッチン】と書かれ、その後ろにハンマーの画が刻印された看板を見上げて、俺は口を開いた。



「ここは街一番の鍛冶屋なんだ。剣に槍、鎧。盾に弓、鉄靴。なんだって一級品なんだぜ」



 折角大きな金が入ったんだからな。仲間の扱う道具を良いものに買い替えるくらいはやっておかないとな。




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タロゥ(6歳・普人種男) 


生力24 (24.0)

信力80 (80.0)UP

知力23 (23.0)

腕力26 (26.0)

速さ24 (24.0)

器用23  (23.0)

魅力23 (23.0)UP

幸運12  (12.0)

体力24 (24.0)


技能

市民 レベル3 (62/100)UP

商人 レベル2 (97/100)UP

狩人 レベル3 (46/100)

調理師 レベル3 (89/100)UP

地図士 レベル2 (15/100)

薬師  レベル1 (49/100)

我流剣士 レベル2 (6/100)

木こり レベル1 (96/100)

楽士 レベル1 (61/100)

教師 レベル1 (3/100)

パチン・コ流戦闘術 レベル1 (70/100)


スキル

夢想具現 レベル1 (100/100)ー

直感 レベル2  (8/100)

格闘術 レベル0  (56/100)

剣術 レベル2  (53/100)

弓術 レベル1  (10/100)

小剣術 レベル1 (10/100)

暗器術 レベル1 (10/100)

フォークダンス レベル5(20/100)

フォークマスター  レベル0 (20/100)

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