第31話 慈悲を与えるべきと思うものは石礫を!
神聖歴579年 春の終わり月 4日
古代ローマ帝国末期。為政者が民衆の関心を得るために行った政策にパンとサーカスというものがあったそうだ。これは、民衆は食料とたまの娯楽を提供すれば大人しくなる、という政策を批判する言葉だったらしいが、割と真理をつく政策だと俺は思っている。
基本的に人間は、飢えずに娯楽が提供されていればそれでいいと思うもんだ。もちろん人によるだろうが、8割くらいの人間は多かれ少なかれそんなもんだろう。
なぜ今、俺がこんな話をしているかというと、このパンとサーカスという言葉はこっちの世界でも使われていて、なんなら俺が住むサニムでも行われている政策だからだ。
まぁ、こっちの場合はパンとサーカスのサーカス部分に大道芸とか、公開処刑とかが入るんだけどね。あ、公開処刑は前世の世界でも娯楽の一種だったか。
「ひぃ~~~たすけて~~~! おじひ~~~~!」
磔にされた小太りの男が、周囲の人々から投げ込まれる木の棒に晒されながら悲鳴を上げる。これはサニム特有の処刑方法で、慈悲を与えるべきと思ったものは石礫を、与えるべきじゃないと思った者は火の勢いを増す薪や燃料になるものを投げ入れるというものだ。石礫ならそんなに苦しくないから慈悲って事らしいよ。凄いね、異世界。
「民衆たちよ! この者は食い詰め者を使ってマリア教の孤児院を襲い! サニム市に混乱を起こそうとした罪人である! 諸君らの意思を! 慈悲を与えるべきと思うものは石礫を! 罰を与えるべきと思うものは薪を投げこむのです!」
そんな処刑をノリノリで執り行っているのはレンツェル神父である。孤児院への攻撃=マリア教への攻撃って事でレンツェル神父の異端センサーがバリバリ働いちゃったみたいで、終始殺る気満々だったからね、レンツェル神父。
そう。今、目の前で磔にされて炎に巻かれている人物は俺たちが住む孤児院に強盗を仕掛けたり、俺を狙って暴漢をけしかけたりした人物だ。なんでも中央街でもそこそこの規模の商家を営む人物だったらしい。らしいというのは、中央街のお店なんてごく一部以外は縁もゆかりもないから知らない名前だったのだ。
こいつ捕まえましたよって報告された時も「へー」以上の感情は出てこなかった。別に大物でもなんでもない商家の人間が勢力拡大のために使えそうなものにつばを付けとこう。こいつの動機はその程度のものだったそうだ。
まぁ、この報告が全部本当かは分からない。実は5大商家が裏に居てトカゲのしっぽみたいにこいつが切り落とされただけなのかもしれないが、これはもう終わった話だ。
5大商家とレンツェル神父とで話がついて、今後このような事がないように孤児院の支援は更に手厚くしてくれるとの約束を得たし、また孤児院の規模も議会の予算で拡大が決定。レンツェル神父を瀬金車として教会も併設する事になり、警備のためにマリア教の兵士が常駐してくれることが決まったのだ。
元々外街に教会を作るという計画はあったらしい。この広いサニム市にはマリア教の教会が中央街に一つしかなかったため、外街の信徒が礼拝に来れないという問題があったからだ。ただ、これまでは予算の関係で先送りにされていたのだが、今回の騒動を機にだったらいっそ、と一気に話が進み来月には着工する事となった。
完成は来年になるだろうが、教会を立てる場所の警護はマリア教の教会兵団が行ってくれるから孤児院の安全性は以前とは比較にならないくらいに増している。先日のような強盗騒ぎはもうそうそう起きないだろう。
「兄ちゃ。あれがわるいひと?」
「ああ。俺たちの孤児院を襲わせた悪い人だ。システィはもっと見たいか?」
「おなかへった」
「そうだな。少しお腹が減ったな。ラーメンを食べようか」
「カレーたべたい!」
「わかった。お子様ラーメンカレーセットだな」
周りの人々がわいわいと「やれー! もやせー!」だの「俺は優しいからよぉ! この石で死ねヤァ!」とか叫んでる中、妹の手を引いて孤児院への帰路に就く。サニムに生まれ変わって早6年。この世界のこのノリは、まだ慣れそうにない。
神聖歴579年 春の終わり月 5日
「ぶげーをまなびたいー? ぶげーってなに?」
「あんた、レンツェル神父に師事してんじゃなかったの?」
薬草摘みの最中、ふと呟いた一言にザンムとネネが興味を示した。騒ぎがあったせいで暫く休んでいたから、この二人と一緒に森を歩くのも久々だ。小まめに顔は合わせてたんだけどね。
レンツェル神父への師事は、考えてるんだけど最後の手段になる。レンツェル神父に師事する=マリア教の戦士としての教育を受けるって事だから、未来がほぼ確定しちゃう事になるのがネックなんだ。恐らく神父はそれを見越して、俺に直接的な指導を行ってないんだろう。俺が行きたい道を出来るだけ選ばせようとしてくれる。レンツェル神父は確かに人格者なんだ。つい先日の公開処刑を見ていると忘れそうになるけど。
「メメさんと一緒に暴漢と戦った時、もっと技術があればケガもしなかったと思うんだよね。システィを心配させちゃったし、次はケガ無く勝てるようになりたいんだよ」
「あんたね……お兄はそれこそあんた位の年のころから狩人になるためにしごかれてたのよ。お兄と比べちゃ駄目でしょ」
「いやー。でもおとこならまけたくないってきもちがあるからなー」
思い返すのは涼しい顔をして暴漢をぼっこぼこにしていたメメさんの姿だ。あれで近接戦は本職じゃないというんだから、本職の狩人としての動きは一体どのくらい凄いんだろうな。俺も狩人のレベルは持っているから、メメさんは参考にすべき相手の筈なんだ。
だが、あの人と同じ動きが出来るとは微塵も思えない。恐らくステータス以外にも色々なものが足りてないからだろう。
体の成長に合わせてステータスは少しずつ成長している。というよりは体の限界値が伸びているって印象だが、ステータスは順調に上がっているのは間違いない。逆にステータスのこれ以上の成長は体の成長を待たなければいけないという事だから、俺が純粋な意味で強くなるには武術系スキルなどのレベルを上げる必要があるわけだ。
そういう意味で、あの戦いは色々と参考になる点が多かった。ちゃんとした武術系スキルを持っている人の戦いを間近で見れた上に、自分の武術系スキルがどのように実践で使えるかもわかったのは大きい。
「それなら、どこかの道場にでも行けばいいんじゃない? お兄が通ってる道場なら紹介できるけど」
「道場?」
ネネが言った聞きなれない言葉に首をかしげる。道場って前世で言う所の空手とか柔道とかそういうのを教える施設だっけか。この世界にもそんなのあるんだなぁ。
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