第27話 墜ちろ……墜ちたな(確信)
猫というよりは豹。ネネとメメさんの父親、森番のジジを見た時最初に浮かんだ言葉はそれだった。ジジさんは黒い毛並みの、キリッとした整った顔立ちの猫人種だった。確かにネネの父親だな、と思えるくらいに似通った印象は受ける。
「神父様。本日はお招きいただきありがとうございます。部下たちにまで湯あみを用意して頂けるとは」
「いえいえ。サニムで暮らすものとして森番殿のお勤めは大変重要な事。この程度のもてなししか出来ず恐縮ですが」
「とんでもない! 身を清めるのにお湯を使えるどころか、まさか……風呂まで頂けるとは!」
ジジさんは感極まったかのように言葉を切り、お湯で濡れた頭の毛並みを肉球のついた手で整えるように掻いた。つい先ほどまで自身も入浴していた風呂の余韻を感じているのだろうか。水を張り、火を焚くというのはそれだけで結構な金が動くからな。蛇口をひねれば水が出るなんて世界じゃないからな。大衆浴場なんかもは数日水を張り替えないなんて当たり前なのだ。大変だし高いから。
だから相手を新しいお湯で満たした風呂に招待する、というのは結構上の階級の人にとっても最上級のおもてなしの一つになるわけだな。この待遇を受けてジジさんが悪い気持ちになるわけがない。しかも森から山にかけて長期間駆け回った後だ。全身の汚れを洗い流すのは最高に気持ちよかっただろう。
まぁ、当然昨年まで赤貧に喘いでいた我が孤児院に大規模な浴場なんてあるわけがない。風呂なんて高級品を用意するのは不可能……と、いう訳でもなかったりする。いくつか条件が揃えば、我が孤児院でもこのおもてなしを行う事は出来るのだ。
まず一つ目。うちの孤児院は薪だけなら売れるほど豊富に存在する。昨年の冬は延々木こりをしていたから、薪は山積み用意できるのだ。火を焚くための燃料は十分用意できてる。
二つ目。風呂に使用するほどの水に関してだが、わざわざ汲みに行かなくても良い。俺の夢想具現はラーメンを出すという神機能以外にも、信力で夢に見たことがある物品を創り出すことも出来るのだ。
そして以前にコンビニの夢を見たんだけどさ。コンビニって備え付けのキッチンがレジの奥にあるんだよね。夢の中だから見える範囲は限られるけど、買い物の最中にふと視線に入るくらいの場所に設置されているし、もちろん蛇口もそこにある。
そこを捻れば水、出るよな。
「という訳で信力たった3でドラム缶風呂3つを満杯にする水が出せるという寸法よ」
「ドラム缶風呂? これドラム缶風呂っていうの?」
「見た事ない浴槽だ。でも、これは便利だね……うちにも欲しいくらいだ」
これ思いついた俺は天才なんじゃないか、と言いたくてぶつぶつ呟いていたらネネが単語の切れ端を拾って尋ねてきた。ああ、ドラム缶はこの世界じゃ存在しないか。まぁ金属高いしわざわざこんな容器作る理由もないだろうしな。
三つ目。風呂に使える浴槽代わりの容器。これは、実は冬の間に用意していたドラム缶が役に立ってくれた。というか、実際にうちの孤児院ではこのドラム缶風呂を使って冬の間もあったかいお湯で体を洗ってたりしていたのだ。薪は幾らでもあるし水は俺が出せばいいからね。
このドラム缶自体も俺が夢想具現で創り出したもので、元はキャンプに行ったときお局さまが言い出したわがままのために持ち込んだドラム缶及び足回りにつかうブロック等のドラム缶風呂一式セットである。全部自腹で購入したもので、ドラム缶に至っては工場でもう使わなくなったという奴を安く譲ってもらって必死こいて綺麗にした代物だ。
用意させた本人は使わなかったけど。
ここまで頑張って用意して設置までして衝立なんかまで用意してたのにお局さまは「風呂キャンが流行りっぽい」とかいう糞みたいな理由で使わなかったけど。他のキャンプ参加者には好評だったからまぁ、良い……いや良くないな。やっぱりあのババアクソだわ。
「なるほど……山の勢力図が、それほどまでに」
「犬頭どもは随分と押されている様子。遠からず森に降りてくるやもしれません」
さて、そうこうしている内にお偉い人同士の話し合いもひと段落ついたようだ。仕事の話が終わった。風呂に入ってさっぱりもしている。ここまでくれば次は腹を満たす、である。
つまりラーメンだ。
「神父様、森番様。お食事をご用意しました」
「ああ、ありがとうタロゥ。いやぁ、久しぶりのラーメンは楽しみだなぁ」
「ありがとう……君がタロゥくんか。娘から話は聞いているよ」
そういえば前にレンツェル神父にラーメンを食べてもらってからけっこう経っていたな。たまーにご飯時なんかにそわそわして俺を見てくる事があるから、レンツェル神父もしっかりラーメンの魅力に囚われているようだ。よしよし、現状知り得る最強戦力の胃袋を掴んでいるのは、これ以上ない安心材料だ。
それに対してジジさんはこちらを値踏みするような視線で見てくる。メメさんの反応といい、ネネの奴は俺の事をどういう風に言っているんだろうか。後でいっぺん腰据えてお話せんとなぁ(確信)
「レンツェル神父には野菜多めの野菜ラーメンをご用意しました。味が物足りないと感じたらこちらのラーメンコショーをご利用ください」
「胡椒!? そんな高級品を!?」
「ううん、良い匂いですねぇ」
野菜ラーメン。これは様々なラーメン店でその店の独自性を醸し出してくる商品で、この野菜ラーメンが美味しい店は結構な比率で他のラーメンも美味しい場合がある。特に塩野菜ラーメンが美味しい店は大当たりと言っていいだろう。塩ラーメン自体が店舗の腕がもろに出るラーメンだからね。
当然レンツェル神父に食べてもらうのは俺がよく行きつけにしていた店の塩野菜ラーメン。塩のうま味が野菜にもしみ込んでいて野菜→麺→野菜の無限コンボが止まらない逸品だ。
「森番様には、こちらの鯛出汁ラーメンをご用意しました。ご息女から魚がお好きだとお伺いしていますので、魚の風味が強いものとなります」
「おお……なんと美しい器。それに、透き通るようなスープだというのにこの芳醇な香り……胡椒は! 胡椒はかけてもいいのか!?」
「はい。ただ、一口目と二口目くらいまではそのままの味をお楽しみください。味の変更はその後で」
「うむ!」
ジジさんには鯛出汁ラーメンをご用意だ。ネネから事前に聞いていた通り、ジジさんは魚が好物らしく毎食必ず1品は魚料理が食卓に上るのだとか。好物を事前に把握できているんだから使わない手はない、というわけでここは豪勢に一杯15信力の鯛出汁ラーメン全部盛りをご用意だ。非常に上品な味わいのラーメンで、透き通るような金色のスープは思わず美しいと言ってしまう逸品。きっとジジさんも気に入ってくれるだろう。
ただ猫って香辛料ダメだった気がするけど、大丈夫なんだろうか。喰い気味にラーメンコショーを気にするジジさんにそう念を押しといて最初の数口はそのままの味を楽しんでもらう。ダリルウさんもそうだけど、この街の偉い人は大味なのかな。
ジジさんは早速レンゲを使ってスープを一掬い口元に運び、ちょっと口を付けてからフーフーと息を吹きかけ始めた。猫舌らしい。レンツェル神父がレンゲを使って麺を冷ましているのを見ながら、同じようにフォークで掬った麺をレンゲで少し冷まし、そして口に運び……
「…………っ!? うま! うまい! 熱い! けど美味いにゃ!!」
驚愕に目を見開いた後、ジジさんはそう叫んでフォークで直接麺を掬って食べ、熱いと嬉しそうに叫びながらうまいうまいと連呼し始めた。興奮すると語尾がにゃ、になるのはネネと同じなんだね。ふふふ、墜ちろ……墜ちたな(確信)
――――――――――――――――――――――――――――――
@paradisaeaさん、すくすくさん、@Nissanさん、@acidbotさん、@kazahaya00さんコメントありがとうございます。
更新の励みになるのでフォロー・☆評価よろしくお願いします!
タロゥ(6歳・普人種男)
生力21 (21.0)ー
信力61 (61.8)UP
知力19 (19.6)UP
腕力21 (21.0)ー
速さ21 (21.0)ー
器用21 (21.0)ー
魅力19 (19.4)UP
幸運11 (11.0)ー
体力21 (21.0)ー
技能
市民 レベル3 (8/100)UP
商人 レベル2 (31/100)UP
狩人 レベル2 (91/100)
調理師 レベル3(12/100)UP
地図士 レベル1(73/100)
薬師 レベル0(95/100)
我流剣士 レベル0(90/100)
木こり レベル1(76/100)
楽士 レベル0(89/100)
教師 レベル0(58/100)UP
スキル
夢想具現 レベル1 (100/100)ー
直感 レベル1 (51/100)UP
剣術 レベル1 (71/100)
フォークダンス レベル4(58/100)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます