15 次はなんと言って彼女を誘おうか
エリック視点
今が、一番幸せな時期なのかもしれない。
いや、違うな。この後そう遠くない未来で、マリーと結婚することが決まっているのだから、私の残りの人生はますます幸せになるばかりだろう。
思えば一年間、魔王を倒すためにマリーと離れ離れにならなければいけなかったのも、今後マリーとずっと一緒にいるための試練だったのかもしれない。
その魔王を倒した今、私たちを阻む障害は何もない。無論、何が立ちはだかろうと立ち向かっていくし、そのための力も手に入れた。
そういう意味では魔王討伐の旅は、本当にいい試練だったな。教会の信託を受けたおかげでクルミに会えたし、その結果クルミの教えの下、私自身を鍛えることができたのだから。
昔の私のままでは、きっとマリーを守り切ることはできなかったと思う。後々父の爵位を継ぐ予定ではあったが、それでも貴族社会で生きる上で、一切不安をマリーから遠ざけるに至らなかっただろう。
私はただ、あの無垢な婚約者に心穏やかに暮らしていてほしかった。柔らかい金糸の髪を風に遊ばせ、新緑を思わせる瞳で笑っていてほしかった。そのすべてを守る力が欲しかった。
だからクルミに会えたのは、本当に僥倖だった。
異世界から来たという彼女は自身の筋力トレーニングに励んでおり、急な召集であったにもかかわらず、そのルーティンを崩すことなく旅の中に組み込んでいた。これだと思った。
クルミに自分を鍛えてもらえるように頼み込んで以来、日夜クルミと共に筋力トレーニングに明け暮れた。鍛えれば鍛えるほど、帰国後はマリーを自分の手で守れるのだと思うと、ついトレーニングにも熱が入った。
無事に魔王を倒し帰国したものの、皆一様に私の変化に驚き戸惑っていた。確かに旅に出る前と比べて、筋肉が付いた自覚はあるが、そこまで怖がられるほどだろうか。
そんな中で、マリーは驚きこそしていたものの、すぐに受け入れ自分の好きな穏やかな笑顔を向けてくれた。やっぱり、彼女しかいないと思った。
マリーはお淑やかで少し奥手なところがあるから、今まで怖がらせないようにと控えていたが、ついついマリーに触れたくなってしまう。
私の話を聞きながらミルフィーユをフォークで突くマリーが愛らしくて、自分でも苺をフォークに刺してマリーに向ける。それすら戸惑いながらも受け入れてくれるマリーが愛おしい。
手ずから苺を食べさせても、後日庭園を散歩しながら腰を抱いた時も拒否されなかった。きっとマリーも私と同じ気持ちに違いない。
そう、後は時期を見て結婚するだけなんだ。
旅の道中は教会の信託さえなければ、去年の内に正式な結婚を発表できていたと後悔していたが、今となってはそれも過去のこと。やっと、やっとマリーと一緒になれるんだ!
帰国してからというもの、戦後処理というべきか、魔物の残党を処理するための手続きや各地への情報共有と伝達で城に召集されてばかりで疲れはたまる一方だ。それでもトレーニングの継続とマリーに会いに行く時間だけは確保しておく。
体を動かすのは苦手だと言いながらも、マリーは「一緒にトレーニングはできないが、それでも話を聞かせてほしい」と言ってくれた。いつの間にかトレーニングが趣味のようになっていた私に、自分なりに寄り添おうとしてくれた。
相変わらず、優しくて可愛らしい人だな。昔からこうして、自身が不得手なことでも寄り添おうとしてくれる。そんな彼女だからこそ、心穏やかに、笑って暮らしていてほしいと思ったんだ。そして叶うなら、私自身の手でマリーの穏やかな日常を守りたいと。
好きなものを、共有できることが嬉しい。それに、マリーは私の友人たちのことも気にかけてくれている。マリーが、クルミの話を聞いてきてくれた時は、二人ならきっと仲良くなれるだろうと嬉しくなった。
クルミは私にとってかけがえのない友人だし、何より私にマリーを守っていくための手段を教えてくれた恩人でもある。共に研鑽する友がいて、温かく自分を受け入れてくれる婚約者がいて、私は果報者だな。
にこにこと、私の話を聞いていたマリーの様子を思い出す。クルミは貴族女性にはそういない快活な女性だが、きっとマリーならクルミのことも受け入れてくれるだろう。
何よりクルミには旅の道中、いつもマリーのことで相談に乗ってもらっていた。なのでぜひ、良い関係であることも改めて報告したい。
前回クルミと会ったのは偶然だったが、マリーがクルミのことを気になっているのなら、予定を合わせて三人で会うのもいいかもしれない。
市民街の公園に行った時もマリーは楽しそうにしていたし、また近いうちにデートに誘ってみようか。案外王都であっても私たちが足を踏み入れたことのない場所はあるのだろうし、ちょっとした冒険のようで楽しいかもしれない。
旅に出て、私が新しい景色に胸を躍らせたように、これからはマリーと一緒に様々な景色を見ていきたい。
そうと決まれば、次に誘う場所を考えなければ。
あぁ、マリーの笑顔を見るのが今から楽しみだ。
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