その翡翠き彷徨い【第60話 陽炎】
七海ポルカ
第1話
青蝙蝠と緑蝙蝠が並んでいる。
フカフカしているが、れっきとしたモンスターである。
普通違う色同士は仲が悪いとされているが、この二匹は何故か仲が良かった。
青蝙蝠は雛の時拾って来て毒性を弱らせて育てた。緑蝙蝠は野生のバットモンスターだが、もしかしたら青の毒性が弱っているのを感じ取り、敵と見なさなかったのかもしれない。
毛づくろいをし合ってなかなか微笑ましい光景だ。
「メリク様!」
二匹のバットの隣に座って、風を視ていたメリクのもとにミルグレンが駆けて来る。
「見てくださいこれ!
向こうでとって来たの。美味しそうでしょ。食べられる種類ですか?」
「木苺だね。食べれるよ。これに入れておくといい」
メリクが懐から小さな小瓶を取り出す。
「ありがとう」
ミルグレンが嬉しそうにその小瓶を受け取った。
「メリク様疲れていませんか? 荷物持ちましょうか?」
最近――といっても最初からそういう傾向はあったものの。
ミルグレンはメリクのことを、何かと甲斐甲斐しく世話をしたがった。
服を畳むのも、料理をよそうのも、彼女は難しいことは出来なかったが、単純なことは細かいことでも何でもしたがった。
一人旅がとっくに身に染み付いていたメリクは、他人の手を全く必要としなかったのだが、ミルグレン相手では断わった方が大事になるのは目に見えているので、好きにさせている。
「大丈夫だよ。大した荷物も持ってないしね。レインの方こそ疲れてない? その弓持ってあげようか?」
「全然大丈夫ですー! メリクさまと一緒なら私全然疲れないの!」
ミルグレンが本当に一山越えて来たとは思えない勢いで、元気良くメリクに飛びついて来る。
「おい」
「メリクさま今夜また旅のお話聞かせてください」
「おいってば」
「夜通しメリク様の側でお話聞けるなんてわたし幸せすぎます……」
「おいってば!」
うっとりとメリクの体に抱きついていたミルグレンは、突然冷めた声を出した。
「……何ようっさいわね」
「なによじゃない! お前元気なら自分の荷物持てよ!」
「なんでよ。今日の荷物持ちは三番勝負であんたってことに決まったでしょ」
「う、うるさい! 元気なら持てよ! もう俺半日もお前の荷物持ってるんだぞ!」
「ごちゃごちゃ言わないでそんくらい持ちなさいよ。ホント器の小さな男ね」
「なんだとう!」
ミルグレンの辛辣な言葉にエドアルトが顔を真っ赤にして怒っている。
「メリクも注意してよ! こいつ二重人格者だよ! 性格悪い! メリクの前だけ可愛い子ぶってるんだ、そういうのって、よくない!」
「山越えの途中で喧嘩なんかしないでよエド。その荷物俺が持ってあげるからさ、ほら……」
「キャーッ! だめ! だめですメリク様、今日もモンスターたくさん追い払ってくれたのに荷物まで持ったりしたら駄目なの!」
「じゃ、お前持てよ」
「あんたが動かなくなったら私が持ってあげるわ!」
ミルグレンは胸を張って言った。
「おまえ一体どーいう育てられ方したんだ!」
「黙りなさいよ! この私に口答えなんかしちゃう奴は即射殺決定よ!」
二人はいつものようにわぁわぁと掴み合いになった。
メリクは振り返りバットの方を見る。
仲良く一緒に一つの木の実をかじっていた。
(……一人で気ままに旅をしてた頃が何だか懐かしいなぁ)
知らない間に随分賑やかになってしまった身の回りに、つい、そんな風に思ってしまった。
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