第2話 余韻

朝の光がカーテン越しに差し込んでいた。

昨日と同じ街、同じ時間。

けれど――世界は、昨日と同じではなかった。


天咲れなはベッドの上で目を覚まし、

天井をぼんやりと見つめながら、手のひらを開いた。

青い光の粒を浴びた夜の感覚が、まだ身体の奥に残っている。

まるで、胸の奥に静かな熱を抱えているようだった。


(夢じゃない。確かに……何かが変わった)


シャワーの音。

トーストの匂い。

いつも通りの朝のはずなのに、どこか“音の輪郭”が違っていた。

風の通り道、冷蔵庫のモーター音、遠くの電車の響き。

全部が少しだけ近く、はっきりと聞こえる。



午後、れなはアルバイト先のカフェにいた。

窓際の席では常連の学生たちが笑い、

スピーカーからは穏やかなピアノの曲が流れている。


「天咲さん、ミルク追加お願いしまーす」


声をかけてきたのは、後輩の浅倉陸。

歳は一つ下。穏やかな笑顔が印象的な青年だ。


「ありがとう、陸くん。今日は混んでるね」

「フレアの話題で持ちきりですよ。…ニュースでも“人体への影響はない”って言ってたけど……本当かなって思って。」


れなは一瞬、手を止めた。

カップを持つ手の感覚が鋭くなる。

少しでも力を入れると、陶器の“硬さ”の構造まで伝わってくるようだった。


「天咲さん、あの夜、見ました?」

「見たよ。忘れられない。」


陸は少し考え込むように笑った。


「僕、あの時から――世界がざわざわしてるように聴こえるんです。風とか、人の声とか……全部が“重なってる”みたいに。」


れなは言葉を失った。

それは、自分が感じている異変と似ていた。



夕方、勤務を終えた二人は一緒に店を出た。

空は淡く橙色に染まり、地平線にはまだ青の名残が漂っている。

街のビル群のガラスがその青を反射し、

まるで空そのものが世界を覆っているようだった。


「……綺麗だね」


れなが呟くと、陸は小さく頷いた。


「ええ。でも、少し怖いです。

 この光、何かを変えてしまった気がする。」


れなはその言葉に応えるように、空を見上げた。

視界の隅で、青い光がふっと瞬いた気がした。

ほんの一瞬。

けれど確かに――瞳の奥で何かが“呼吸”した。






世界は、少しずつ変わっていく。

けれどその変化は、誰の意志でも止められない。


れなは、まだそれが“進化”なのか“崩壊”なのかを知らなかった。

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