定めない幕間譚3
レイラの回復と追手壊滅のささやかな祝宴は、近衛騎士それぞれの活躍の話で賑わった。
「その刹那!イーサンめは敵の槍の穂先を手で掴み、その剛腕で振り回したのです!」
「すごい!本の英雄みたいだわ!」
アランが芝居がかった語り口で話す近衛たちの武勇に対して、レイラが子供のように大はしゃぎで相槌を打つ。
その反応が嬉しくて、更にアランは舌に脂が乗ったかのごとく喋り倒す。
この光景はレイラが幼少の頃から見慣れたもので、戦いや訓練の後はレイラが近衛の武勇伝をねだり、お調子者のアランが得意げに語るのがお約束だった。
よって、その場のみんなが微笑ましく眺めながら食事を楽しんでいた。
「そうそう、先日のウィルの女装もまた見事だったな」
「お、おい。その話はよせ。恥ずかしい……」
直後、レイラの表情が固まる。
聞き間違いを疑い、思わず聞き返した。
「あ、アラン。今……なんて?」
「はっ。ウィルの女装がそれはそれは見事なものであったと」
「うむ。どう見ても淑やかな村娘であった」
「イーサンまで!」
「どこの村娘が来たのかと私も目を疑ったぞ」
「マリー!?」
「……い、いつの、話?」
「つい昨日のことです、殿下。敵を油断させるべく、付近の村娘を装って……」
どうやらウィルが村娘に変装したのは確からしい。
ガックリと俯き、レイラは隠していた本性を口から洩らす。
「……たかった……」
「……えっ?」
「見たかった!私もウィルの女装見たかった!なんで起こしてくれなかったの!?」
「えぇぇぇぇぇぇ!?」
意外なレイラの食いつきに、ポピー以外の全員があんぐりと口を開けた。
何を隠そう、レイラには仮装趣味――現代で言うコスプレ趣味があり、特に異性装には目がなかった。
タチの悪いことにその対象は自身に限らず、他者を着せ替えることも好んでおり、侍女のポピーは度々餌食になっていたという。
「うぅぅっ……ウィル、お願い。もう一回着て?」
「ぐっ……し、しかし殿下。すでに当時の衣服は足が付かぬよう処分してしまいまして……」
「そんなのあんまりだわ!うぅっ、グスッ、私だけ、見られないなんてぇ……!」
「で、殿下が御乱心だ!みんな、慰めろ!」
これまで、王族の血を残すために如何なる権謀術策を用いようとも後悔しなかったレイラ。
この日、初めて己が知略を深く後悔した。
今際の魔女が水を差す〜亡命王女の運命上書き合戦〜 チベスナ奇譚 @chibechibeman10
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