第18話 対峙
久しぶりに太陽の下を歩く。
ほとんど眠っていないはずなのに、
今日は頭だけが妙に冴えていた。
店から届いたメッセージが胸の奥で燻っている。
──【本日16時 幹部会】
──【全員出席】
(来たか)
ポケットの中のスマホが重い。
真田さんの警告が現実になりつつある。
⸻
午後四時。
Luxt本店・会議室。
薄暗い照明の下、三十数名のホストが並ぶ。
香水と煙草の匂いが混ざり、
空気がねっとりと重い。
「よし、じゃあ始めるぞ」
店長・真田さんが開口する。
その隣には麗也。
白いスーツに金のネクタイ。
完璧な笑顔。だが、その奥に冷たさがあった。
「先月の売上報告からだ」
淡々と会が進む。
俺の名前が呼ばれた瞬間、
麗也がわずかに口角を上げた。
まるで、舞台の幕を引く瞬間を
楽しんでいるように。
「すみません、ちょっといいですか?」
そう言って、麗也が立ち上がった。
「最近、店で“ホストの爆弾行為”が
問題になってます。その件です」
集まった人間、全てがどよめいた。
「特に──俺の前の店から来た
“みなみ”という姫に関して」
空気が一瞬で凍る。
ざわめきと視線が、俺に集まった。
(…やっぱり、来た)
「彼女は俺の客だったはずが、
ある日、カインと爆弾をしていたようです。
ほら、ここに証拠もあります」
麗也がタブレットを差し出す。
映っていたのは──あの日だ。
路地で“みなみ”という女と話す俺の姿。
「…どう説明するんだ?カイン」
ざわめき。
沈黙。
それを破り真田さんが口を開く。
「麗也、それはいつの話だ?」
「二週間前です。
彼女が“優斗を探していた”みたいですが
結果的に彼女のスマホにカインのLINEが
登録されてたそうです」
(…手が込んでるぜ…完全に仕組まれてる)
俺は深く息を吸った。
「確かに彼女と話しはしました。
でもあれは“通りすがり”だ。
彼女が店を探してたから案内しただけです」
「偶然、か?」
「ええ、誰かが何かを仕組んでなければね」
一瞬、麗也の目が動いた。
そのわずかな反応を、真田さんが逃さなかった。
「麗也、その写真──どこから入手した?」
「…え?それは…知人からです」
「その“知人”が、カインの客だったとしたら…
それこそ面倒なことになるぞ」
麗也は黙った。
その沈黙が、すべてを物語っていた。
真田さんは手を叩いて言った。
「──これについては近いうちに話そう。
全員開店準備だ。カイン、お前は少し残れ」
⸻
全員が出ていくと、
真田さんは煙草に火をつけた。
「…やっぱり仕組まれてたな」
「ええ。間違いないと思います」
「ただ、証拠がねえ。
このままじゃ“事実”にされちまう」
「…自分で無実を証明しますよ」
真田は苦い笑みを浮かべた。
「お前、ほんとにバカだな。
今回はだいぶ分が悪いぞ」
沈黙の中、灰が静かに落ちる。
「だが俺は今回はお前の味方だ。
お前の味方は、俺と──もう一人だけだ」
「…もう一人?」
「美穂さんだよ。
あの子、昨夜店に連絡してきた。
“カインの身に何か起こる”ってな」
息が止まる。
「お前、あの子に何を見せた?」
「…“本音”です」
真田は短く笑った。
「だったら、あの子もきっと動くだろう。
嘘の街では本音を持つ奴が一番強い」
⸻
会議室を出ると、
麗也が廊下で待っていた。
「真田との打ち合わせは終わったか?」
「あんた…何企んでるんすか?」
麗也の笑顔が、わずかに歪む。
「楽しみにしてろよ。
お前も真田ももうすぐ終わりだ」
その声を背中で受けながら、
俺は心の中で静かに呟いた。
──この数日で決着をつける。
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