40.燃え広がる火
オークションが始まると、
参加者は各自で持たされた番号札を
高く掲げながら金額を宣言する。
当然番号札はここへ来た凛太郎にも
渡される物であるはずなのだが、
階段を降りた先にいた男が
凛太郎に気づかなかったため、
凛太郎は何も渡されていない上に
初参加なのに何の説明も受けていない。
こういった場所にはそれぞれの特有の
ルールや決まりがありそうなのだが、
気づかれなかったものは仕方ない。
どの道、オークションに参加するために
ここへ来た訳ではないので、
いつか来るであろうチャンスを待ち侘びながら
凛太郎は静観することを決めていた。
「2万5000。」
「2万7000。」
「2万8500。」
「3万3000。」
「3万3000!即決価格が出ましたので、
この商品のオークションは終了です。」
即決価格とはそれぞれの商品に定められた
最高落札額のことで、
その商品が持っている価値以上の
金額が入金されないようにしている。
例えばあのホワイトキャットの少年なら、
即決価格はおそらく3万ゼルだろう。
開催している側はあの少年に
3万ゼルの価値しかないと判断したのだ。
人の命がたったの3万ゼルとは、
オークションを開催するだけあって
卑劣な人間が集まっているようだ。
もし仮に凛太郎が売られる立場なら、
彼らはいくらの値をつけるのだろうか。
「では次の商品へ参ります。
種族はドールラビットのメス、年齢は17。
発育もよく、愛玩動物としては一級品です。
それでは入金を開始致します。
こちらのドールラビットは
5万ゼルからでございます。」
それからしばらくの間は
闇のオークションが続く。
ブラックキャット、ナイトウルフ、
スティールラミア、クラフトドワーフ、
サッドオーガなど聞いたこともないような
様々な種族が次々に出品され、
ここまでの最高落札額は
50万ゼルを超えていた。
人の命だと考えると安すぎるが、
ここにいる客たちは彼らを
同じ命として扱っていない。
奴隷とは言ってしまえば使い捨ての道具で、
使い物にならなくなった時は捨てるか
別の所に売り飛ばして
また新たな奴隷を買えばいい。
「ではこれより皆さまお待ちかねの
選りすぐりの商品をご案内致します。
欲するあまりにご破産されませんよう、
引き際を見極めながらお楽しみください。」
選りすぐりの商品ということは、
ここから先に出品されるのは
獣人やドワーフといった
街中でも見かけるような種族ではなく、
エルフなどの人前に姿を見せないような、
あるいは数の少ない種族だろう。
希少価値が高い種族になれば、
当然入金される金額も大きくなる。
種族や状態によっては、
家を建てられる程の金額で
落札されることにもなるだろう。
奴隷欲しさに散財してしまっては
何も残らないと忠告されながら、
より一層ステージに注目が集まって
檻に入れられた者がやってくる。
その姿が現れると、客たちは声をあげる。
「種族は森エルフ、年齢は102。
その美しさもさることながら、
魔法の才にも恵まれております。
ではこれより入金のお時間となりますが、
以降の商品には即決価格はございません。
上限なし、最後に最も高い値段をつけた方が
その手綱を握ることができます。
ですが皆さまの懐事情も鑑みながら、
立場を危うくなさいませんように
重ねてお願い申し上げます。
それではこちらの森エルフ、
50万ゼルから参ります!」
「52万!」
「56万!」
「61万!」
「65万8000。」
「68万!」
「69万2000。」
「…っ69万6000!」
「69万8000。」
「……72万!」
「85万。」
「……!」
二人の客が競うように値段を上げるが、
最後は余裕そうな表情をした男が
いきなり金額を釣り上げて落札し、
会場は拍手に包まれた。
こうした駆け引きもオークションの
醍醐味というやつだろう。
参加する意思のない凛太郎でさえ、
会場の雰囲気に飲まれそうになる。
そして、会場にいる全員が
次の商品はなんだとステージに目をやるが、
なかなか次の檻がやってこない。
「お待たせして大変申し訳ございません。
ただ今、少々時間がかかっております。」
檻に入れられているのは、
突然奴隷というレッテルを貼られただけの
拉致被害者たちでしかない。
中には暴れる者もいるだろう。
そうした事態に備えて
人員を用意しているはずだが、
それでも運ばれてこないということは
かなり力のある者が暴れているのだろうか。
それとも何か他の問題が発生したのか。
会場に客たちの不安が漏れ始め、
ざわめきが徐々に大きくなっていく。
しかし、この状況こそ凛太郎が
待ち続けていたチャンスだ。
ここにいる人間たちの心に
疑念や不安が生じ、
更に会場にいる警備たちの意識が
ステージに向いたこの瞬間、
凛太郎は行動を起こすことができる。
「超縮小版火弾。」
ステージから最も遠い席に
座っていたおじいさんに近づき、
指先サイズの火の魔法を足元に放つ。
おじいさんはタバコを吸っていたので、
火元にするには最適であった。
おじいさんには申し訳ないが、
ここに人々の目に集めさせる。
「……うん?おぉっ!火じゃ!
ワシのズボンが燃えておる!」
疑念が渦巻く中に放たれた火種は
瞬く間に燃え広がり、
会場の中をパニック状態にする。
ついでにいくつか他にも火を放てば、
警備は火の処理で手一杯だ。
お金に物を言わせていた貴族たちは
こういった予期せぬ事態になると、
急激に思考能力を低下させる。
会場の掻き回しはこれで十分。
警備が火の処理に追われている間に、
凛太郎はステージの裏に侵入していく。
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