39.闇のオークション会場
「もはや英雄扱いか……。」
震えるクーハの肩に手を添えながら、
凛太郎は話を最後まで聞いた。
ピンチからみんなを助けてくれる
英雄のような扱いには驚いたが、
ここで行動を起こすことができるのは
力のある凛太郎だけだ。
「クーハ、お前は家に帰って
親と一緒に待っていろ。
学友たちとお姉さんは俺が助けてくる。」
もうすぐ陽が完全に落ちる。
人間族が狙われていないとはいえ、
子どもがここに残っているのは危険だ。
もし可能なら子どもたちの親に
自分が行くから大丈夫だと
伝えてもらおうと思ったが、
顔も名前も知らない誰かに
任せろと言われたところで信用できないだろう。
欲を言えばクーハから
人攫いたちの情報を聞きたいところだが、
幸いなことに凛太郎にはあてがある。
「絶対、帰ってきてね…!」
涙を堪えながら見送るクーハに背中を向けて、
凛太郎は走り出す。
必ず全員救うと心に誓いながら。
クーハと別れた場所と
ナナホシ通りは近い位置にある。
凛太郎の推測でしかないが、
人攫いたちは今日の昼に入る予定だった
商品が届かないことが分かり、
慌てて近くの者で穴埋めをしようとした。
でなければ、テートンで捕らえた商品を
同じ街で売るなんてことは有り得ない。
そんなことをしてしまえば、
足がつくリスクが増えてしまうからだ。
人間族である先生や日々和まで
連れていったのも、
それほど慌てていたからだろう。
「赤い屋根……ここか。」
ナナホシ通りにはすぐに辿り着き、
赤い屋根の家も一目で見つかった。
表の玄関なのか裏口に回るべきなのか迷ったが、
合言葉があるのならわざわざ裏に回って
こそこそする方が怪しいので、
表の玄関のチャイムを鳴らす。
するとすぐに扉が僅かに開いて、
掠れた老婆の声が聞こえてきた。
「炎の隣にいる生き物、なーんだ。」
なぞなぞだろうか。
あくまでも合言葉の前振りなので
まともに考えたところで
答えなどなさそうだが、
果たして答えはあるのだろうか。
たとえ答えがないとしても、
合言葉を用いた暗号としては
このくらいがいいのだろうが。
「『紫の太陽』。」
「お入り。」
老婆に扉を開けてもらって中へ入ると、
家の中は普通の民家で
とても奴隷のオークションを
やっているような雰囲気はない。
そのまま老婆の後ろについていくと、
寝室の本棚を横へスライドさせて
地下への隠し階段を見せられる。
どうやらこの下がオークション会場らしい。
凛太郎の気配察知にはすでに
200以上の気配が引っかかっている。
「なぞなぞの答え、何だったんだ?」
凛太郎は地下に降りる前に老婆に聞いた。
なんとなく、先程のなぞなぞの答えが
あるのかどうか気になってしまった。
「ひよこだよ。火の横だからね。」
「あぁ、そうか。」
炎の隣。火の隣。火の横。ひのよこ。ひよこ。
なぞなぞの答えはこういうことらしい。
なぞなぞに答えがあること自体に
驚いた凛太郎だったが、
この世界にひよこがいることにはもっと驚いた。
ひよこがいるということはつまり、
にわとりがいて卵があるということだ。
日本人としてはやはり、
卵料理が恋しくなるものだ。
しかし、今は食べ物のことよりも
優先しなければならないことがある。
老婆の微笑みを残して、
凛太郎は地下への階段を降りていく。
「これは…壮観だな。」
さすがは闇のオークションというだけはある。
上の民家からは想像もできない程に
広々とした空間がそこにあった。
大きなステージを見下せるように
映画館のような作りになっており、
すでにその席はほとんどが埋まっている。
どこを見渡しても武装した警備兵が
目を光らせており、
そう簡単に悪さはできなさそうだ。
観客の一人としてはどこかの席に
座る必要があるのだろうが、
生憎と今日は客ではない。
ここには捕えられた他種族や
日々和がいるかもしれないのだ。
「影移動。」
闇のオークションだからなのか、
ここの照明はあまり明るくない。
これだけの人間がいるのなら
ユニークスキルだけで誤魔化せそうだが、
ムーンが待ち構えている可能性を考えて
影に潜ることを選択した。
だが、凛太郎がステージ裏に
侵入するよりも先に、
不意にステージがライトに照らされる。
「皆さま、大変お待たせ致しました。
今夜もラルイーゼ様主催の
奴隷オークションにお越しいただき、
誠にありがとうございます。
皆さまに素晴らしい出会いがありますように、
我々一同心よりお祈り申し上げます。」
進行役であろう男が前説を述べると、
会場は拍手に包まれる。
これから始まるオークションが
どのように進行していくのか、
ステージ上に視線が集まる。
随分とタイミングの悪いことで、
視線が集まっている状況では
迂闊に影で侵入できない。
誰か一人にでも気づかれてしまえば、
逃げるしかなくなる。
とはいえ、このままではいけない。
凛太郎は一度仕切り直すために
席の後ろまで戻って影から出た。
「まずは定番の商品から参りましょう。
種族はホワイトキャットのオス、年齢は12。
少々荒っぽい性格もあって
体のあちこちに傷が入っておりますが、
番犬として飼うには十分でしょう。
それでは入金を始めさせていただきます。
こちらホワイトキャットのオス、
2万ゼルから参ります。」
ステージに上げられたのは、
白いケモ耳を持つ少年だった。
種族は獣人であるはずだが、
獣人にも色々と種類があるのだろう。
元の世界で例えるなら、
犬にプードルや柴犬などの種類が
あるのと同じだろうか。
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