30.サービスシーン

「魔法で温め直しておいたが、

できるだけ冷める前に行った方がいい。」


凛太郎が服を着て戻ってくると、

日々和が部屋の隅で小さくなっていた。

何をしているのか分からなかったが、

女の子はお風呂に入る前に

色々とやることがあるのだろう。

魔法で温め直しているとはいえ、

早く行かないとお湯が冷めてしまう。

しかし、それを伝えても日々和は

その場から動こうとしない。

彼女の普通ではなさそうな状況に

凛太郎は少し不安になってしまう。

もしかしたら先程食べた料理の中に

苦手な食べ物でもあったのだろうか。


「どうした?体調でも悪いのか?」


彼女に近づいて顔を寄せてみると、

耳まで真っ赤な果実のようになっている

彼女の顔と目が合って、

彼女の鼻から流れている血が加速する。


「────っ!!!」


凛太郎と目が合った瞬間、

日々和は声にならない悲鳴をあげながら

いきなり立ち上がって走り出す。

鼻血が出ている状態で動くと

余計と血が溢れそうで危険だと思うのだが、

鼻から出ている程度の出血で

失血死するすることはないだろう。


「一体、なんなんだ…。」


突然の出来事に呆気にとられる凛太郎だが、

彼女が風呂場に向かったのなら

追いかけるのは危険だ。

先程の二人の立場が逆転しただけの

全く同じ状況になってしまう。

それだけは避けなければならないので、

凛太郎は深く追求することはせずに

ベッドに座って待つことにした。

今この時間にできることはないが、

方針が決まった以上は

少しでも色々なことに対応するために

考えうる様々な可能性を考える必要がある。

奴隷として集められ囚えられているエルフたち。

他にも色々な種族がいるという。

彼らを集め、統括しているのがこの街の

貴族だという話だが、

その貴族の階級がどのくらいなのか、

その貴族の仲間がどのくらいいるのか、

なんとなくでも予想していれば

そう悪い事態にもならないだろう。


「一人なら楽でいいんだが…。」


悪い貴族が一人で、仲間もその部下だけなら、

屋敷の一つでも潰すだけで片がつくのだが、

もし複数の貴族が関わっているのなれば

その全てを淘汰しない限り終わらない。

一つでも取り逃してしまえば、

後々別の場所で同じことを

繰り返すに決まっているのだから。


「この街にいる全ての貴族を把握すれば、

その心配もないか……。」


とても大変なことではあるが、

街の全ての貴族を把握して

一つずつ確かめていけば、

取り逃す心配はなくなるだろう。

全てを把握するだけの時間と

方法があればの話ではあるが。

しかし、今の段階では全ての貴族が

怪しい対象として見る他ない。


「……遅いな。」


そうしてしばらく考えていると、

凛太郎は日々和の存在を思い出す。

お湯の冷める時間から考えて

そろそろ出てきてもおかしくない頃だ。

やはり体調でも悪かったのだろうかと、

凛太郎が振り返ったその時である。


「……何をやっているんだ?」


「あ……。」


振り向いた凛太郎の視界に入ったのは、

一糸も身にまとっていない日々和が

そろりそろりと部屋の隅の方へ

移動している姿だった。

凛太郎には気配察知があるので、

彼女が近づいてきていたことは

分かっていたのだが、

まさか裸だとは思わなかった。

ここは紳士の対応として

すぐに目を逸らすべきなのだろうが、

彼女の裸体に釘付けになってしまった。

凛太郎とて健全な男子高校生なのだから。

日々和がこの世界に来てから

何年か過ぎていることを考えると、

彼女の肉体としての年齢は

若く見積もっても20代前半。

17歳である凛太郎とは

あまり離れていないが、

それでも若い間の数年というのは

肉体的にも精神的にも

大きく変化する時期である。

つまり、凛太郎のクラスメイトたちと比べても

彼女の体は大人びているはずである。

しかし、実際に凛太郎の前にある体からは

大人の色気というものをほとんど感じない。

決して彼女の体が魅力的ではない訳ではない。

片方の腕で隠しきれてしまう胸は

僅かでありながらも膨らみがあり、

細くしなやかな腰はそれでいて

健康的な肉づきをしている。

異世界という環境でありながら

手入れもしっかりしているようで、

もう片方の腕で隠している股には

毛らしい毛が1本も見えず、

ダンジョンの中で凛太郎が寝転んだ太ももは

最高に寝心地のいい物であった。


「こ、これは……その…。」


先程の脱衣所での出来事は

事故で仕方なかったにしても、

これは事故とは思えない。

服を忘れたなんてことはないだろうし、

一体彼女は何をしているのだろうか。

しかしよく見てみると、

彼女の全身が濡れたままだ。


「タオル、忘れたのか……?」


凛太郎にタオルを渡し忘れたが故に

先程の事故が起こったのだが、

どうやら彼女は自分がお風呂に行く際に

タオルを持っていくのを忘れていたようだ。

なんというか、随分間抜けな話である。

凛太郎が部屋の中へ視線をやると、

なんとタオルは凛太郎の足元に落ちていた。

それを拾いあげて、彼女の体を見ないように

彼女の方へ差し出す。


「早く拭け。風邪を引く。」


「う、うん……ありがとう…。」


力の抜けたような返事が聞こえると、

凛太郎の手からタオルを取られる。

次第に彼女の足音が遠くなり、

脱衣所へと戻っていったようだ。


「……全く、目に毒だ…。」


日々和のように鼻血こそ出ないものの、

凛太郎は湧き上がる情熱を

抑えつけるのに必死だった。

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