12.死神の魔法
この部屋はドーム状になっていて、
底となる床の直径は約150メートル。
天井は灯りが届かない程高く、
頂点がどうなっているのかよく見えない。
凛太郎たちが入ってきた扉の反対側には
同じような大きい扉があり、
このモンスターを倒すと同時に
開く仕組みになっているのだろう。
その扉の向こうに何があるのか不明だが、
ここがダンジョンだと確定した今、
ボス部屋をクリアした先にある物は
お宝の類いに決まっている。
だが、今の凛太郎たちにとっては
お宝はあまり価値のある物ではない。
もちろん欲しい気持ちがゼロではないが、
それよりも大切なことがあるのだから。
「また当たった!」
凛太郎が掻き乱しているおかげで、
寺門の魔法がすでに数回当たっている。
それに杉森も武器を失ったとはいえ、
まだ心には大きな武器を残している。
杏沢の強化バフを受けて
モンスターの鎌を力づくで止めていた。
そして凛太郎や杉森、寺門を先に潰そうと
大きな鎌を振りかざすが、
それは浦野が文字通り命懸けで防ぐ。
そして、何度も凛太郎たちの命が
死神モンスターに狩り取られる中で、
これはもしかすると本当に
倒せてしまうのではないかと
彼らが期待を持ち出した時、
死神が何やら謎の言葉を唱え始めた。
「みんな気をつけて!何か来る!」
ここでゲーム好きの寺門が思い出す。
こうしたボスモンスターには、
ある程度追い込まれた時に使う強力な魔法や
形態変化が付きものだということを。
凛太郎が顔付近を飛び回ったり
寺門の魔法が命中しても、
死神は詠唱をやめない。
そして、死神がそれを終わらせた時、
彼らは全滅することになる。
両手に持った鎌を同時に振り下ろすと、
真っ赤な炎と真っ黒な炎が
クロスする一閃のように彼らを襲った。
先頭にいた浦野の体はバラバラになり、
その後ろにいた寺門や杏沢たちも
原型がなくなるまでに切り刻まれる。
死神モンスターの攻撃は部屋全方向に及び、
真後ろにいた杉森もただの肉片に変わる。
しかし、柑凪の持つスキルによって
数秒もしないうちに全員が復活した。
「今、また私死んだ……?」
皆が味わっているのは死の感覚。
先程から何度も繰り返しているが、
それは決して慣れることはないだろう。
死ぬというのは普通、一度だけなのだから。
「見ろ!今のあいつの攻撃で
扉に穴が空いてるぞ!」
よく見れば壁も床も傷だらけであり、
死神モンスターの攻撃の悲惨さを思い出させる。
自分の部屋の扉を壊すまでとは、
随分と気合いの入った攻撃だったようだ。
しかし、これは逃げるチャンスである。
もしかしたら倒せるのではないかと
少し期待してしまったが、
あの攻撃の他にも技はあるだろう。
それに、いくら柑凪のスキルのおかげで
死ぬことはないといっても、
最初に比べて柑凪の顔が疲弊して見える。
おそらく、スキルを使うごとに
魔力を消費しているのだろう。
もう長くは持ちそうにない。
「みんな!ここは一旦逃げよう!
次の寺門さんの魔法が当たったら、
全速力で扉に向かって走るんだ!」
さすが杉森だ。きちんと仲間の状態を
観察しているようで、しかも判断が早い。
このまま戦い続けるより、
少しでも生き残る可能性が高い方を選んだ。
「私の魔力ももうすぐ限界…!
次で最後にするよ!前衛頼んだ!」
魔法を撃ち続けてきた寺門も限界。
前衛の杉森や凛太郎、浦野だって
相当に疲労が溜まってきている。
だが、次が最後だと分かれば
全てをここで出し尽くすだけだ。
「あぁ!思い切りやってやれ!」
「これが私の全力!火弾!!」
寺門の渾身の魔法が放たれる。
それを叩き落とそうとする死神の
目の前に凛太郎が踊り出て意識を乱し、
その間に杉森が死神の小鎌を
直接抑えつけたら、
魔法が当たる直前に凛太郎が避ける。
「────────!!」
頭が割れるような死神の悲鳴。
この叫び声だけで呪われそうだ。
だが、呪われる前に逃げてしまえば
こちらの勝ちと言ってもいい。
寺門の魔法は見事に死神の顔を捉え、
その衝撃とダメージによって
死神モンスターが行動を止めているうちに走る。
「命中した!全員走れ!」
後方にいた浦野や柑凪たちは
既に難なく扉へと到達していて、
あとは凛太郎と杉森だけだ。
凛太郎は一人でも余裕で辿り着けるだろうが、
杉森の速さでは分からない。
凛太郎は杉森に肩を貸し、
二人で共に脱出しようと走る。
「頑張って!もう少し!」
そして、扉まで十数メートルという距離まで
二人が近づてきた時、
死神は二人を逃がすまいと
最後の大技を繰り出してきた。
「また魔法が来る!」
またも謎の言葉で詠唱を始め、
すぐにその大技を発動させる。
小さい方の鎌の先を床につけると、
そこを中心として暗闇が広がっていく。
派手さこそない魔法だが、
あの暗闇に落ちたらダメだと本能が告げる。
広がる暗闇と扉へ走る二人。
もうすぐ扉に手が届く。
暗闇は足元まで迫ってきている。
「……っ!?」
穴から手を出していた浦野が
杉森の手を掴んだその瞬間、
凛太郎と杉森の足元の床が消えて
暗闇の引力によって二人が後退する。
十分に掴めていなかったこともあって
浦野と杉森の手が離れ、
暗闇の中に吸い込まれていく。
「杉森ぃぃぃぃ!」
「浦野ぉぉぉぉ!」
熱い友情を交わした二人の男。
その距離が少しずつ引き剥がされていく。
もうダメだと杉森が直感した時、
杉森の体が何かに力強く押されて
暗闇の中から飛び出してきた。
「うわっ!?」
杉森は勢いのままに扉の穴へ突っ込み、
穴の前にいた浦野とぶつかった。
「な、なんだか分からないが、助かった…。」
杉森の体が部屋から出ると、
暗闇は少しずつ小さくなって
途端に扉の修復が始まった。
次第に中の様子が見えなくなって
扉の穴が完全に塞がると、
杉森たちは地面に倒れ込んだ。
「俺たち…助かったんだな……。」
「えぇ、なんとかね…。」
強大な敵と遭遇して生き延びた。
それだけで彼らの財産となり、
これからの冒険の糧となる。
クラスメイトたちと再会したら
自分たちが体験したことをどう自慢げに
話して聞かせようかなどと
彼らが未来の妄想に浸っていると、
柑凪がある異変に気がついた。
このパーティーは6人だったはずなのに、
5人分の気配しか感じない。
「あれ…?木瀬君は……?」
「ん?」
柑凪の言葉によって
自分たちの周りを見る杉森たち。
だが、その果てに返ってきた答えは
予想もできないことであった。
「木瀬って…誰のことだ?」
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